13.リオからの逃走
◇◇
「ほら」
ルーナの両手に緑色の果物が乗せられる。見るからにおいしそうで、ルーナはすぐにかぶりついた。じゅわっと甘い汁がルーナの口の中いっぱいに広がる。
「うまいか、ルーナ」
「うん!」
ルーナは幸せな笑顔を浮かべる。
洋梨をくれたバリーが笑い返していたのか、もうルーナは覚えていない。
◇◇
ルーナは、テントを飛び出した。リオが何事か叫んだが振り向かずに全力で走る。
しばらく無我夢中で走った後、ルーナはようやく足を止めた。そこは中央街の大通りだった。昼下がり、眩しい太陽に照らされながら大通りを行き交う人々は活気に満ち溢れていた。ルーナはあたりを見渡すが、リオの姿はない。
ルーナはほっとしたのも束の間、急速に孤独感と不安感に襲われた。
ルーナはリオの大事なリュートを壊してしまった。
リュートはリオが何日もかけて一生懸命作った物だ。それを、壊してしまった。
(私......兄貴に嫌われちゃったかな......。嫌われたよね......)
しばらく落ち込んだ後、段々とルーナの中で怒りが膨らんでいった。
(そもそも兄貴の方が悪いんじゃない! 神様がいないだなんて罰当たりすぎるわ! 親父の事も......兄貴は何も知らない癖に色々言いすぎよ。もう兄貴なんて大嫌い。顔も見たくない。これからは兄貴なしで生きてくわ)
ルーナは怒りで強く足音をたてながら歩く。しかし、数歩歩いたところで立ち止まった。
(私......兄貴なしで生きていけんのかな)
ルーナの耳がシュッと耳が垂れ下がった。その場でうずくまって泣き出したい衝動に駆られるが、ぐっと我慢する。
「......かつて、ルーデルは混沌に満ちていました」
ふと、しわがれた老婆の声が聞こえた。ルーナはゆっくりと声の方を見る。
声は街の小さな教会の方から聞こえていた。
扉が半開きになっていて、中をそっとのぞいた。中にはシスターのお婆さんと何人かの子供達がいた。お婆さんは手に絵本を持っていて、絵本の絵を子供達に見せながら話を読み聞かせていた。子供達は長椅子に座って夢中でシスターの話を聞いている。
「......」
ルーナはこっそり、子供達の後ろにやってきて腰掛けた。
「ルーデルには何百もの国がありました。人間に、ケンタウロスに、ホビット、ドワーフ、ダークエルフ、エルフ、キュクロープス、パーン、ドワーフ、リザードマン、......。獣人族は狼人と犬人すら、国が違っていたくらいです。それだけ国があったものですから、文化も価値観もバラバラで、皆互いを理解し合えませんでした。何百年、何千年と戦争を繰り返していき、沢山の生き物が亡くなりました。彼らは傷つき、それでも、お互いを傷つけあう事しかできませんでした。しかし、ある日の事です。ある御方が、強大な聖なる御力で全ての種族を従わせ、一つの国、ガルカト王国を創りあげられたのです。その御方こそ、我らが主__オリビア様なのです」
シスターが絵本を水平に倒し次のページをめくる。すると、絵本から立体的な絵が飛び出した。女の人が右手を高く掲げ、光り輝いている絵だ。子供達が、おお! と拍手をする。
「主は愚かなルーデルの民達を管理していかなければならないとお考えになりました。そこで、地上に『開かずの塔』を建て、ドラゴンを解き放ちました。この二つはルーデルの平和を守るための鍵です。ドラゴンは姿を消してしまいましたが、今もなおルーデルの平和のために私たちを見守っています。そして塔は、『認められた時、認められた者だけが開ける事を許され、必要なだけの力を与えられるだろう』......オリビア様はそう言い残されたそうです」
「あたし、知ってる! うぃりあむ様が塔を開けたのよ!」
人間の女の子が元気よく手をあげる。シスターは微笑んだ。
「これこれ、先を言ってはいけないよ。......ルーデルは一つの国になって平和になったかのように思えました。しかし......」
シスターは再び絵本をたてて、次のページをめくる。絵は、黒い影が沢山描かれていて、黒い影に人々が虐げられていた。
「皆の平和を脅かす邪悪な種族がいました。ダークエルフです。ダークエルフは狡猾でプライドが高く、長く生きる分沢山の知識と知恵が沢山ありました。彼らは黒魔術で他の種族を傷つけ、ついには独立してしまいました」
「わっるーい!」
「なんて酷いの!」
子供達は次々とブーイングをした。
「ダークエルフの国はみるみる大きくなっていき、ガルカト王国を何度も攻め滅ぼそうとしました。ガルカトがこのままでは滅びてしまう。人々は絶望し、天に祈りを捧げました。すると......」
シスターは絵本をめくる。白く光ドラゴンと青年の絵が描かれていた。
「ある平民の青年がドラゴンのペンダントを首にさげ、人々の前に現れました」
「うぃりあむ様!」
「ふふっ......、ウィリアム様がペンダントを強く握ると、ドラゴンが力を貸してくれて邪悪なダークエルフを成敗してくれました。ウィリアム様とダークエルフは何年もの間戦い続けました。戦いの中で何度傷ついても、不思議な事にウィリアム様の傷は治り続けました。ドラゴンの力で不死身となったのです。老いないし、病気にもかかりません。なので、何年戦い続けても平気でした。そして、ついに、決着の時が来ました。ウィリアム様が『開かずの塔』を開けたのです! 塔が開くと、ダークエルフ達は恐怖の叫びをあげ、そして、消えました。ダークエルフは滅んだのです。そうしてまた、ルーデルに平和が訪れました」
子供達は、わっと拍手喝采した。
「ウィリアム様は王となり、再び全ての種族をまとめあげて新たな国を建国しました。それが、今の私たちの国、新生ガルカト王国です」
「悪者のダークエルフならここにもいるぜ」
男の子が一人声高に叫んだ。
人間の少年だ。黒髪に黒い目。教会の子供達の中で一番上等な服を着ていて、ガタイがいい。リオと同年代か少し上くらいに見える。
少年はなんと、ルーナを指差した。
「さっき途中で入ってくるの見たんだ! やーい! ロバ耳野郎! お前みたいな悪者は教会に入るな! 早くここから出てけー!」
「なっ! 私、ダークエルフなんかじゃないわよ!」
すると、少年に続いて二人の男の子達も一緒になって、ルーナを責め出した。
「エルフもダークエルフも似たようなもんだろ! 悪い奴は出てけー!」
「そうだよ! ここは神聖な場所だ! 出てけ!」
「......っ」
ルーナは思わず俯いた。「でーてーけ!」と意地悪な子供達が叫ぶ。他の子達は驚き、黙って様子を見ている。
「やめなよ」
すると、一人の子供が止めた。
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