2曲目

――あー……こんにちは。ふねでもひとでも無いのに此処に来る物好きってまだ居たんだ。いや、知ってるよ。俺の母港此処だし。久しぶり、呉さん。――うん、知り合いだよ。葛城、一寸だけ席を外してくれない? ん、良い子だ。また後でお話してあげるからね。

で、何の用事なんでしょーか。ま、決まってるよな……でも別に、俺何とも思ってないけど。ってか其れ言うなら、瑞鳳さんとか千歳とか千代田にも気ぃ使ってあげてよ。

や、本当に如何もこうも、そんなどうでも良い事。投げ槍になるなって? 違う違う! でもさ、投げ槍になるなって言う方が無茶じゃない? (座り直し、少し黙る)……うん、でも、任務は遂行しますよ。こんな壊滅寸前の機動部隊に立派な立派な御勤めが巡ってきたんだから。最後の、ね。最期に、日本の誇る遊撃部隊の為命を散らせるんだから、誇りに思いまーす。って、言えば良いんでしょ? 良かったんでしょ? だって、そうやって散れって、言われたんだから……

別に怖い訳じゃ無いし。やっと、やっと此れで翔鶴にまた逢えるんだから。其れに、先輩達にも……恨み言の一つや二つは許して貰わないとね。よりにもよって可愛い可愛い末っ子に、南雲機動部隊の後始末まで押し付けたんだから、さ。(乾いた笑みをこぼす)

ま、戦艦だって護衛に付いてくれるらしいじゃん? いや、航空戦艦って言ってたっけ。最初はさ、あんなもんでさ、格好良かった先輩の代わりが務まるもんかとも思ってたけど、何か今になってみると気の毒だなー。艦載機も無いのに、態々沈む死ぬと決まった俺達に着いて来なくても良かったのに……え? 知ってるでしょ、伊勢さんと日向さん。いやいやだって、俺母港一緒だもん。うん、良いひとだよね。多分。瑞鳳さんにとっても、千歳と千代田にとっても良いひとで或る事を祈るよ。

ふふ、俺達も所詮、水漬く屍。顧みはせじ、長閑には死なじ……旋律は知らないけど、良い歌だよね。でもそうやって、皆、沈んでいった……(俯く)幸運艦、って言葉は嫌いだけどさ、嫌いだけどさぁ……次ばっかりは、縋らずには居られない……だけど、せめて。せめて俺達の死が、機動部隊の壊滅が、あのひと達を救えますように。そうすればさ、多分厳しかった先輩も、優しかった翔鶴も、誉めてくれるかな……

――あ、葛城! もー、出てくるの早いよ。って、鳳翔先輩も……(立ち上がる)ああ、心配しないで下さいって、鳳翔先輩。俺だって、南雲さんの子です。せめて、片翼でも、美しく羽撃いてみせますよ。葛城も、この国を頼んだよ。

ね、呉さん。あの……ありがとう、ございます。残された時間、こうやって使えて良かった。呉さんとこに鳳翔先輩と葛城が居たの、びっくりしたけど嬉しかった。へ、何? ……歌……? へぇ、そういう音階なんだ。初めて知った。俺達空母に、歌う為の立派ななんて無いからさ。戦艦とかそんなに好きじゃないけど、其れは羨ましかったな。でももう、其れも感じ納めだな。(此方に背を向ける)……ああ、秋の風だ……日本の……。

うん? もう一つ、何か? …………そう……じゃあ俺からも。『貴方達の航路に、幸多からんことを』。……じゃ、いってきます。

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