4章:喜多島穣⑩

「――穣!」

『くまのみ』専門の病棟に里安君が駆け込んでくる。所謂、必死の形相というやつで。

 しかし看護師さんと警察官が数人がかりでそれを止めた。

「用事は、もういいんですか?」

「言ってる場合か!ちょっと、何で止めるんですか⁉」

 半ば掴み合いの様相を呈する中、里安君は抗議の声を上げる。

「ごめんね勇魚君!今穣さん、発情期に近い状態なんだ!だから――」

「――は?」

 ぴたりと動きを止める里安君。割と本気で起こっているときの無表情だった。

「――勇魚。病院だぞ。弁えないか」

 里安さんが後ろから現れた。里安君の用事とは、里安さんのことだったのだろうか。

「彼女をよく見ろ。この中で一番長く過ごしてきたのはお前だ。勇魚、お前の目から見て今の彼女はどうだ?」

「アンタがあいつの何を知ってるんだよ!」

「お、落ち着いて下さい。確かに怪我はされてますが、大事に至るものではないとのことです……!」

 里安親子に気圧されながらも、刑事が間に割って入る。

「順を追って説明させていただきます」

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