三章:秘匿 独占 ひとりじめ⑧

「…………」

 シャワーの温度を可能な限り上げる。すべてをシャワーのせいにするために。

 お祭り騒ぎの心臓も、掻き毟りたくなるような熱も

 誤魔化しきれるわけがないことなど、分かり切っているのだが

「…………」

 頭を壁にぶつけるか、頬を思い切り叩くか、動きかけた体を無理矢理制する。

「…………」

 消えない。拭えない。何分浴びているかも分からないシャワーの音と熱と感触でも。

 里安君の手の感触、体温。押し殺した優しい声も。全部、ぜんぶが。

「…………」

 朦朧としていた意識、曖昧な記憶の中で、溶け残ったチョコレートのように、輪郭を残している里安君の言葉が、ふとした拍子に甦る。

『……最低だって思われてもいい。――初めてなんだ』

『他の人とは、お前は、何かが違って見えてた』


「…………」

 大丈夫。フェロモンのせいだ。自分に限ってそんなことは有り得ない。

 大丈夫。

 分かっているから。

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