三章:秘匿 独占 ひとりじめ⑤

 こんなことは日常の一部だ。ごくありふれたやりとりだ。

 もう少し間を空けた方が良いとも思った。

 引かれたかもとも思った。

 そのフォローをした方が良いとも思った。

 無理に距離を詰める必要は無い。そう田所先生にも言われていた。

 彼女はそういうものだと。

 ただ、そう、これは、ただ俺の独善。

 クサいとは思うけど、もっと笑えるようになればいいと思った。

 あとは

 少しくらい、意識してくれてもいいんじゃないかとも、思った。

 もっと単純に、話す機会を増やしたいとも。

「…………」

 階段が妙に長く感じられる。

 胸の中が雑踏のように、無視できる範囲で五月蠅い。

「…………」

 聞こえないように咳払いをして、喉の調子を確かめる。

 そして襖をノックした。

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