1章 モルントの街

1章-1 はじめての街

街道を歩くこと1時間。モルントの街が見えてきた。しおりによると、この街はイザール子爵領の中でも1,2を争うほどの商業都市であるそうだ。それ以外の特徴は以下の通りである。




  ・街は城壁に囲まれており、東西南北にそれぞれ関門がある


  ・関門の通過には、”身分証”の提示が必要


  ・大きな街以外では身分証が発行できないので、身分証をもたない人もいる


  ・身分証がない場合は、銀貨1枚の保証金を預けることで”仮身分証”が発行される


  ・仮身分証は期限が2日しかなく、その間に身分証を発行しなくてはならない


  ・もし2日を過ぎてしまった場合、不法滞在として捕縛される


  ・身分証発行の際に、仮身分証は回収される




 この世界の身分証には大きく5種類あるらしく、「貴族証」「冒険者証」「商人証」「職人証」「市民証」である。この世界には、各職業をとりまとめている”組合”という物が存在し、そこに所属することで「冒険者証」「商人証」「職人証」は発行できる。「貴族証」は、貴族になる際に国から発行され、「市民証」は職業を持たない市民が役所にいくことで発行できる。なお、これらの身分証はこの街以外でも使うことができる。




 これらのことを踏まえて、俺の当面の目標はこうである。




  ①仮身分証を発行して、街に入る


  ②そのまま商人組合に行き、身分証を発行してもらう


  ③商人組合で、情報収集を行う




 いろいろと考えながら歩いていたら、モルントの街の東門についた。東門には、入場を管理している衛兵が3名おり、それぞれ警備していた。俺は衛兵に怪しまれないように、金庫から金貨1枚と銀貨10枚を取り出しポケットにしまった。そして、衛兵の1人に声を掛けてみることにした。




 「こんにちは。」


 「ん、見かけない顔だな。」


 「私は旅人をしているものです。この街に入りたいのですが…。」


 「なら、身分証を提示してくれ。」


 「すいません、身分証を持っていなくて…。」


 「そうか、銀貨1枚で仮身分証を発行できるが?」


 「はい、それでお願いします。」


 「わかった。」




 そこで俺は、衛兵に銀貨1枚を渡した。




 「ちょっと待ってろ。」




 衛兵はそういうと門の横にある詰め所の中に入っていき、30秒ぐらいで戻ってきた。




 「これが仮身分証になる。2日以内に身分証を発行しなければ、不法滞在となる。」


 「わかりました。ありがとうございます。」


 「よし、これで入場しても大丈夫だ。ようこそ、モルントの街へ。」




 こうして、俺は無事にモルントの街に入ることができたのであった。




 モルントの街に入ると、そこには中世ヨーロッパのような町並みが並んでいた。現代日本のような高層建築は存在せず、道も石畳でその上を馬車が走っている。


 そんな中、俺は街を歩いている人に商人組合の場所を聞き、商人組合に向かうのであった。




 商人組合につくと、中は賑わっていた。受付にいって話をしてみる。




 「ようこそ商人組合へ。本日はどのようなご用件でしょうか。」


 「こんにちは。身分証を発行したいのですが…。」


 「分かりました。では、仮身分証をお預かりいたします。」




 俺は、ポケットに入れていた仮身分証を受付嬢に渡す。




 「確かにお預かりしました。では、身分証を発行しますのでこちらの用紙にご記入ください。」




 渡された用紙をみると、名前・年齢の記入欄があった。この世界では、名字を持つのが貴族だけなので名前にはカタカナで”フミト”と記入し、年齢はそのまま記入して受付嬢に渡した。




 「フミト様ですね。では、少々お待ちください。」


 「お待たせいたしました。こちらが身分証になりますので、


  手に持った状態で”紐付け”と唱えてください。」


 「分かりました。”紐付け”」




 受付嬢に言われたとおりに唱えると、手元にあったはずの身分証が消えてしまった。




 「これで、身分証とステータスが紐付けされました。今後は”身分証”と唱えると手元に


  取り出すことができ、”身分証収納”と唱えると収納することができます。」


 「分かりました。」


 「では次に、商人組合の説明をさせていただきます。


  商人組合では、年会費として金貨1枚お支払いいただきます。この中から国に対する


  領民税も支払いますので、個人で役所にお支払いいただく必要はございません。


  また、お店を構える場合、1店舗につき金貨10枚が税金として必要になります。


  露天の場合、1日あたり銀貨1枚が税金として必要になります。


  なお、行商人としての取引には税金はかかりません。」


 「行商人?」


 「はい、行商人とは商人組合にしか商品を販売することができない商人となります。


  商人組合にしか販売できない代わりに、税金は免除されます。」




 ここまでの説明を聞いた上で、俺は行商人になることにした。また、今年の分の年会費も支払うことにした。




 「なら、私は行商人になりたいと思います。あと、今年の分の年会費もお支払いします。」


 「ありがとうございます。では、身分証と金貨1枚をお預かりいたします。」




 俺は、ポケットから金貨1枚を取り出し、身分証とともに受付嬢に渡した。




 「お待たせいたしました。身分証に『職業:行商人』という項目が追加されています。


  また、年会費の支払い完了の情報も身分証にのっていますのでご安心ください。」


 「分かりました。今日は疲れたので、どこか宿に泊まって明日から活動しようと


  思っているのですが、どこかいい宿はあるでしょうか?」


 「では、組合と提携している『めじろ亭』をおすすめさせていただきます。場所は…」




 商人組合でおすすめの宿を聞いた俺は、商人組合を後にしてさっそく宿にむかうのであった。

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