★素晴らしい武器

「よーし、これはどうだ? 軽くて扱いやすい、これほど便利な武器はないぞ」


 シャドウから渡されたのは、どう見ても懐中電灯だった。シャドウはレオンをからかっているのだろうか、それとも本気なのだろうか。レオンは抗議の意味を込めて、ライトの部分をシャドウの顔に向けると、カチカチと何度も明かりを付けたり消したりした。


「これが武器? どうやってタコと戦えというんだ。それとも俺は照明係として呼ばれたのか?」


「そう怒るなよ。これはただのライトじゃない。もう一つのスイッチがあるのがわかるだろう。好きな武器を思い描きながら押してみろよ」


 シャドウはもう一つのスイッチを指さした。レオンは言われるままにそこを押す。頭のなかに長い剣を思いながら。


 ビリリと電気の音がすると同時に、懐中電灯の明かりの部分からまっすぐ剣が生えた。青白い電気粒子の線で縁取られた剣が現れた。


「これは、ホログラムか?」


 レオンがその剣先を触ろうとしたとき、シャドウが注意した。


「危ないぞ。ただのホログラムと違って、触れることのできる実体ホログラムだ。うっかり触ると指がスパッと切れるぞ」


「すごいな、これ。さっきイメージしろと言ってたけど、この剣以外にも変えられるってことだよな」


「もちろん」


 レオンはスイッチをもう一度押した。すると懐中電灯の先から巨大なハンマーが現れた。面白くなったレオンは、想像通りに武器を次々と変化させる。武器に夢中になったレオンにシャドウが注意した。


「それと、中の電池がなくなると武器としても懐中電灯としても使い物にならなくなるから気をつけろよ」


「わかった」


 レオンはスイッチを切って、懐中電灯をズボンのポケットにしまった。


「よし、これで月に突入する準備はできたな。あのタコをとっ捕まえて、異種融合器を取り戻すぞ」


 シャドウは、手をこすり合わせながら宇宙船を操作しだした。宇宙船は月の周りを沿って移動する。地球から見えない月の裏側に到着すると、スピードを緩めた。シャドウは、外の月の様子をモニターに映した。重なったクレーターが険しい山のようになっている光景が広がっている。


「この辺りで電気信号の反応があるはずなんだが、見当たらないな。クレーターの影にでも隠れているのかもしれん。ちょっと目視で見てくれ」


 シャドウに言われて、レオンは窓からタコを探す。険しい山と、かつて地球人が残していった探索機や施設の残骸が転がっているだけで、巨大なタコの形跡はなかった。建物並の巨体のタコだ。本当にここにいるのなら、すぐに目につきそうなものだが。レオンはあることを思いだした。


「そういえば、お前たちが宇宙船であのタコを追いかけていたとき、突然ビルの上に現れたって言ってたよな」


「いったな」


「周りの景色と擬態する能力を持っているんじゃないか? 地球のタコも似たようなことが出来るし、月の表面に化けるくらいビルより簡単だろう」


「それは困ったな。相手が姿を現すまで、わからないってことか。あいつ、サーモグラフィーにも引っかからないんだぞ。しかたない、反応ある地面を攻撃してみるか」


 シャドウは強硬手段に出ようとしていた。


「ちょっと待ってくれ」


 レオンは、窓から目を離さず、言葉だけでシャドウを止めた。


 レオンには考えがあった。巨大タコもこちらの存在に気が付いているはずだ。そして、攻撃の機会をうかがうために見ているはずだ。そう、目を開けて。


「タコは皮膚の模様を変えられる。でも、目玉まで合わせることはできない。目が開いている限り!」


 レオンは、窓の外をじっと睨んだ。岩肌に、不自然な模様が浮かび上がっている。それは長方形の黒目だった。タコの目がギョロリと動き、レオンと目が合った。


「あそこだ、シャドウ!」


 レオンが叫んだその時、月の地面が噴火のごとく鳴り響いた。

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