★巨大タコとの戦い
目の前にあった山は、一瞬で色を変えて、本性を現した。レオンたちが追っていた巨大タコだ。タコは近くの岩や山に触手を巻き付けると、いともたやすく地面から引きはがした。タコの周りに砂埃が舞う。タコはその岩をレオンたちの宇宙船目がけて投げつけてきた。
「おい、攻撃してきたぞ! 避けられるか?」
レオンは窓からタコの様子を見ながら、操縦するシャドウに聞く。
「余裕、余裕。しかし、月で良かった。もっと重力のある星だったら、相当のスピードが出ているぞ、あれは」
窓から監視を続けていたレオンは、タコの不審な動きに気が付いた。しなやかな八本の足の筋肉が収縮しているように見える。さらに、先端の吸盤を地面に貼り付けている。
「シャドウ、今度は本体がこっちに来るぞ!」
「なんだって?」
タコは勢いよく地面を蹴ると、ふわりと舞い上がった。宇宙船よりも高く飛び上がり、頭上で大きく足を広げている。このまま落下して、宇宙船を包み込もうとしているようだ。
「遅い、遅い」
シャドウがタコの下から脱出しようとしたときだった。タコの前に黒点が現れる。
レオンは、それが何かすぐに判断することは出来なかった。その黒点が大きくなり、近づいていることに気が付いたときにはもう遅かった。
「シャドウ、スミだ! 避け……」
「おっと、これは無理だ。広範囲に上から撒かれた」
シャドウは諦めた口調だったが、それでも、宇宙船を急発進させた。上からバケツを浴びせられたような衝撃が宇宙船を襲う。レオンの目の前の窓は真っ黒に塗りつぶされ、外の様子を見ることが出来なくなった。シャドウの見ているカメラモニターもスミのせいで真っ黒になっていた。
「おいおいおいおい、カメラ以外にセンサーもアンテナも駄目になったぞ」
シャドウは使える機能を探したが、次々とエラーメッセージが表示された。タコのスミのせいで、宇宙船の視認機能が使えなくなっていた。
宇宙船からタコと対戦するのは難しいだろう。そう考えたレオンは、外に出るためのヘルメットを被ると、宇宙船の出入り口前に立った。ポケットから懐中電灯を取り出して、スイッチを入れる。その懐中電灯は長い銛に変化した。
「なら俺が直接タコと戦ってくる。シャドウは宇宙船を直してからサポートしてくれ」
「宇宙船はいいが……。お前その武器だけで大丈夫か? やっぱり銃も持っていくか?」
「あの馬鹿でかい銃はむしろ邪魔だよ。それより換えの電池が欲しい。あるか?」
「あるぞ、ほら」
シャドウの声を合図に、壁に並ぶ武器から引き出しが飛びだした。中からアームが伸び、レオンに渡された。それは、弾帯のようにいくつもの電池が収納されていた。
これだけあればなんとかなるだろう。レオンは覚悟を決めて、肩にかけた。
「準備は出来た。開けてくれ」
「よし、まかせたぞ。レオン!」
シャドウは宇宙船のドアを開けた。レオンはヘルメットのガラス越しにシャドウに頷き、銛を力強く握りしめると、宇宙船から飛び出した。
落下速度はゆっくりだった。その間に、レオンはタコを探した。きっと、単体で飛び出してきたレオンをタコは狙ってくるだろう。先に見つけて対処しなければ、ひとたまりもない。しかし上から見るのと違って、地面に近づくほど、タコを探せる範囲が狭くなる。もう、地面はすぐそこだった。
「遠くからだとわからなかったけど、近づくと違和感があるね。でこぼこした吸盤が丸見えだよ」
足元には、地面に紛れ込んだタコの足があった。レオンの声に足が浮かび上がり、押しかかってくる。レオンは、その足を地面もろとも銛で突き刺した。
それだけで、タコが止まるわけがなかった。残りの7本の足がレオンに襲いかかる。
「君は地球のタコなのか? どうして異種融合器を奪った。どうしてクモの少女と一緒にいる」
レオンはタコに語りかけながら、スイッチを切った。突き刺さった銛が消える。レオンは素早く懐中電灯を構え、頭を掴もうとする足を迎えた。
レオンは巨大な包丁をかざして、タコの吸盤部分だけを薄く切り取った。吸盤を失った足は、地面を上手く掴むことが出来ずに、ずるずると滑っている。
タコはレオンを警戒していた。レオンは、無線で宇宙船のシャドウと連絡を取った。
「こちらレオン。シャドウ、タコは警戒中だが攻撃は止まった。タコと会話がしたい。なにかないか?」
「会話? タコの言語なんて研究すらされていないぞ」
「それでもいい、この月全体に声を届けられるようなものはないか」
「声か。ここ空気ほとんどないからなー。脳波放送ぐらいしかないぞ」
シャドウはそう言うと無線を切った。するとすぐに、レオンの頭上からアンテナのついた機械が落ちてくる。
レオンは機械に近づくと、コードを取り出して自分のヘルメットに接続させた。レオンは、タコに向かって話しかけた。
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