★ようこそ宇宙船内へ

「出発しよう」とレオンがそうシャドウに声をかけると、上空がキラリと光るのを見た。レオンが光に気づき、空を見上げると、宇宙船が地上に降り立とうとしていた。


 空から一気に降りてきた宇宙船の影響で、強烈な風がレオンの顔に吹き付けてくる。あまりの風にレオンは目を細めて、両腕で顔を覆った。そして、腕の隙間から宇宙船の様子をうかがった。目の前には楕円形の宇宙船があった。ちょうど着陸脚が伸びて地面に触れているところだ。吹き荒れていた風も収まっていく。宇宙船はエンジンを落とすと、停止した。


「この宇宙船はシャドウのものなのか?」


「そうだ。どうぞ、なかへ」


 シャドウは手の平を上げて、宇宙船を指さした。宇宙船の側面にある扉が、静かにスライドした。扉は上に巻き上がり、宇宙船の内部が見えるようになる。さらに、扉の下から、金属製のスロープが伸びて、宇宙船との間に橋をかけた。


 レオンは橋に足を乗せた。中は広く、最新鋭の機械がそろっている。レオンには手も届かない高級な宇宙船だった。はじめは、宇宙船に感動していたが、次第にシャドウに対する疑惑が浮かんでくる。レオンの心に疑いの念がわく。


「立派な宇宙船だな。……まさか盗んだものじゃないよな?」


 レオンはシャドウに疑いの目を向ける。緊急時なので、一時的に手を組んでいるが、シャドウは指名手配犯だ。宇宙の平和のためとはいえ、盗品を使うことは少し気が引けた。


「安心しろよ。ちゃんと正規のウーベルティス社で買った宇宙船だから」


 スロープの真ん中に突っ立っているレオンを押しながら、シャドウは答えた。


「その金の出所も気になるんだよな」


 レオンはぶつぶつ言いながら、シャドウに押された。指名手配と手を組んでいる時点でいいことではないのだが、レオンは細かいところを気にしていた。いつまでも踏ん切りのつかないレオンにシャドウはため息をついた。


「いま気にすることは、こっちだ。巨大タコを追いかけるんだろ」


「そうだった。でもどうやって調べるんだ。また監視カメラを見るのか?」


「そんな呑気なことはしていられないぞ。これを使う」


 シャドウは、宇宙船の壁に手を当てた。すると、そこからパネルが飛び出した。シャドウはそのパネルの奥に手を突っ込み、両手に抱えるほどのカプセルを取り出してきた。中に何かが入っている。


 シャドウが床に置くと、カプセルはひとりでにガタガタと動き出した。中のものが暴れているようだ。


「そのカプセルは何だ?」


 レオンはカプセルに近づき、中のものを観察した。ぬめっとした物体が、カプセルに張り付いていた。


「あの巨大タコの肉片の一部だ」


「タコの肉片?」


 レオンは信じられなかった。レオンがもっとよく見ようとカプセルに顔を近づけた瞬間、その肉片は顔に向かって飛びかかってきた。カプセルにタコの吸盤がへばりつく。


「うわっ」


 レオンはのけぞった。タコの肉片はカプセルの中で暴れている。


「体から切り離されても尚動くとは恐れ入るよな」


 シャドウは嬉しそうに言った。


「それに、この肉片からは電気信号が絶えず交信されているんだ。本体に情報を送っているんだろう。この信号からタコの居場所がわかるというわけさ」


「情報を伝えているのなら、その作戦もばれているんじゃ」


「もちろん、ばれてるぞ」


 シャドウは平然と答えた。レオンは動揺した。


「え、ばれているならだめじゃないか。罠に誘われているようなものだぞ」


「罠だとわかっていたら立ち向かわないのか? そんなタマじゃないだろう。ん?」


 顔は見えないが、シャドウの口ぶりは、レオンは煽るようなものだった。レオンもつい釣られてしまった。


「もちろん、罠だろうが何だろうが行くよ」


「そうこないとな!」


 シャドウはカプセルを持ち上げると、宇宙船のコンソールの横に設置した。宇宙船内の機械が一斉に光りだす。エンジン音が鳴りだすと、地面から押し上げられるような感覚に陥った。レオンが窓の外を覗くと、数分前まで足を着けていた地面は、遙か下にある。あっという間に宇宙空間まで上昇していたのだ。


「重力軽減力もすごいなこの宇宙船。ほとんどGを感じなかったぞ」


 レオンは宇宙船の性能に感心した。わくわくした気持ちがわき上がり、シャドウのものを使っていいのか悩んでいたのも吹っ飛んでいた。


「それで、その巨大タコはどこにいるんだ?」


 レオンはコンソールの前にシャドウに話しかける。シャドウは前を向いたまま答えた。


「巨大タコは故郷の近くに住んでいるようだ。月に行くぞ」


「月!?」


 まさかの答えにレオンが驚いて声を上げると、それが宇宙船内に響いた。

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