★協力しよう

 昼前の街は、いつもの賑やかさとはかけ離れていた。普段なら宇宙人たちが行き交う道は、今日はほとんど人影がなく、レオンが出会うのは急ぎ足の人々ばかりだった。彼らの顔には不安や恐怖が浮かんでおり、レオンにも警戒のまなざしを向けていた。


 レオンは自分の端末を取り出して、民間ネットサービスにアクセスした。すると、その理由がわかった。大きな見出しと共に、巨大なタコが街の上空に浮かんでおり、そのタコと交戦する宇宙船の写真と映像が載っている。レオンが見た光景と同じだった。


 世間の意見欄には、新種の害宙の誕生や、神獣やモンスターが現れたなど、多くの憶測が飛び交っていた。なかには、地球に生息するタコの姿に似ているという指摘があり、タコの呪いという都市伝説を信じる者もいる。

 この未知の巨大生物が現れたことで、世間が怖がっているようだった。


「やっぱり、タコだよな」


 レオンは、その巨大タコの写真を拡大し、細かいところまで観察した。うねった触手に突いた大小さまざまな吸盤が二列に並んでいる。黒目も丸というよりは、長方形に近かった。


 もし、地球のタコが宇宙を危険にさらすようなことを考えていたらと思うと、レオンは同じ地球に生まれた地球人として、じっとしていられなかった。なにか理由があるに違いない。巨大タコになったのと、クモ少女からパパと呼ばれていることも。


 そんなことを考えながら、レオンは歩いていた。すると、


「おーい」


 とレオンは後ろから声をかけられた。振り向くと、銀色にギラつく防火服を頭から被った人物がこちらに向かって走ってきている。元気に手まで振っている。一瞬誰だかわからなかったが、声からシャドウであるとレオンはわかった。シャドウはレオンの側までくると、息切れした様子もなく、しゃべり出した。


「よう、お巡りさん。お前に協力して欲しいことがあってな。嫌だとは言わせないぞ。こっちだってお前の彼女の捜索に手伝った貸しがあるんだからな」


「協力ってあの巨大タコの件だろ。なら貸しも何も協力するよ。というか、お願いする予定だったし。このニュースの事件はお前たちが関わっているだろう?」


 レオンは、ニュースサイトの巨大タコの記事をシャドウに見せた。


「なんだ、話が早いな。そうそうこのタコの件さ。異種融合器を盗んだ犯人探しに発表の仲間全員で星々の監視カメラを見張っていたら、どこに隠れていたのか、パッとビルの上に突然現れたんだ。後はこの記事の通りに暴れだしたというわけさ。そして逃げられた」


 シャドウは画像のタコに対して、憎たらしいというかのようにいやいやと首を振った。レオンは、シャドウも巨大タコを探していて、協力を求めているのなら、好都合だと思った。しかし、なぜシャドウが自分に助けを求めてきたのかに疑問符が出てきた。


「しかし、なぜ俺に? 今は休暇中の身だから、宇宙警察の技術も何も使えないよ」


「お前さんに技術面では期待していないよ。ただ、この巨大生物は、地球のタコに似ているだろ? 地球人を連れて行ったら何かわかるかもしれないと思っただけだ」


「それで俺か……」


 地球人というだけで、レオン自身の評価で頼ってきたわけではないとわかり、レオンは少し落ち込んだ。しかし、ここでがっかりしては駄目だとレオンは気を奮い起こし、明るい声でシャドウに言った。


「じゃあ、さっそく巨大タコを捕まえに行こう」

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