★害宙退治ケロ

 せわしく鳴り響くアラームと赤いランプ。レオンは銃を持ってこなかったことに心底後悔した。害宙に対抗できる手段はない。頼みのカエルはモニターの前でパニックを起こしていた。


「どうすればいいケロ。食べられたくないケロ」


「害宙用の武器とかないのか?」


 カエルはモニターを何度も焦ったように叩いた。


「駄目ケロ。害宙が激突してきた衝撃で壊れたケロ。君は警察ケロ。計画は中止したから助けてほしいケロ」


 カエルは涙をぼろぼろとこぼした。さきほどまでレオンを実験体にしようと企んでいたのに、情けない声で助けを求めてくる。


 カエルとそんなやりとりをしているとこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。


「こっちに来るケロ!」


 カエルはレオンの足に飛びつき、しがみついた。カエルの体はぷるぷると震えており、緑の体をさらに青ざめさせていた。


 ドアの入り口から害宙が顔を出した。大きな牙から大量のよだれがあふれ出ていた。ドアの幅より大きな頭を突っ込み、何度も頭突きをしながら進もうとしていた。その度にドアがゆがんでいった。


 このままでは、レオンたちは害宙のお腹の中に入ることになるだろう。銃も宇宙船車も手元にない。


 すでに害宙の頭は通り抜けており、身をよじって胴体を入れようとしていた。何本もある足が床に爪を立て、じりじりとこちらに向かってくる。


 レオンはなにかここを打破する手段はないか考えた。その時、ポコポコと音を立てる緑の液体を見てレオンは1つの案が浮かんだ。そして、足にしがみついて震えているカエルの頭を叩いた。


「おい、カエル。全宇宙の生物をカエル化するって言っていたよな」


「それはもうやめたケロ。許してケロ」


「いや、お前の計画の話じゃない。害宙もカエル化するのか?」


 カエルはレオンの顔を見た。


「……できるケロ。でもあの液体は宇宙空間に発射するよう設定されて、この部屋には出せないケロ」


「なら、容器かパイプを破壊して中身を取りだそう」


 レオンとカエルが相談している時、胴体をくねらせていた害宙が急にその巨体を床にたたきつけた。その衝撃はレオンたちに床から伝わり、バランスを崩しそうになる。


「早くしないとあの害宙が入ってくる! 壁のパイプを壊すぞ!」


 レオンは鉄の棒を握り、壁に貼り付けられたパイプに飛び移った。害宙が暴れたおかげで少し緩んでいたが、頑丈なパイプで中の液体を出すことは困難だった。


「入ってきたケロ!」


 カエルは害宙の侵入を知らせると、物陰に身を隠した。害宙は壁に張り付くレオンに目をつける。


 大きく口を開けて、レオンに向かって飛びかかる。レオンはとっさに別のパイプに飛び移り、難を逃れた。害宙はパイプに噛みついており、牙が食い込んでいた。それを見たレオンは上手くいったとほっとした。


 パイプに開けられた穴から緑の液体が噴き出し、害宙の体に飛び散った。付着した液体は、害宙の体に染みこんでいく。害宙が再びレオンに飛びかかろうとしたときには、イボイボのカエルの姿になっていた。


「どうなったケロ? もしもし宇宙警察、無事ケロ?」


 物陰に隠れていたカエルは、恐る恐る周囲を確認した。巨大な害宙は見当たらない。床には緑の液体であふれている。カエルは触れないように椅子や機械の上に飛び移りながら、レオンを探した。


「ゲコ」


 下から鳴き声が聞こえてきた。カエルが床に目をやると、くすんだ色のイボイボのカエルがいた。


「僕の研究は成功ケロ。……君もカエルになったケロ」


 見つけたイボイボカエルの口の中には、もう一匹のカエルがいた。害宙と共に液体を被ってカエル化してしまったレオンだ。頭を挟まれて、抜け出そうともがいていた。元害宙のイボイボカエルは本能のままに口の中の獲物を食べようとしていた。


「害宙は別の生き物になっても害宙ケロ。やっぱり僕はこいつとは違うケロ」


 カエルは満足そうに言うと、食べられかけているカエルのレオンを引っ張って助けた。よだれまみれのレオンに洗浄液と水を拭きかけると、彼は身震いしながら咳をしだした。


「ゴホゴホ、あー害宙の口って臭いな」


「なんか余裕ケロ。手出し無用だったケロ?」


「いや、助かったよ。害宙はどうした?」


「ここにいるケロ」


 カエルは誇らしげにカプセル容器をレオンに見せた。中にはイボイボカエルがおとなしく入っている。


「いい研究材料が手に入ったケロ。……約束通り復讐はやめるケロ。今後は害宙研究に力を入れるケロ」


「良い目標だ。でも未遂とは言え、君を脅迫の罪で連れて行かないといけないんだ」


「それケロ。君、僕と取引するケロ」


「取引?」


 カエルはレオンの前に仁王立ちしてにっこりと笑った。


「君は今、イボイボの醜い姿ケロ。戻してほしかったら僕を見逃すケロ」

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