★話を聞いてケロ

 廊下の先には巨大な機械が設置されていた。部屋の壁にはパイプが張り巡らされており、謎の緑色の液体が流れている。そのパイプは部屋の中央の機械に繋がれていた。中には緑色の液体が、ポコポコと音を立てながら発光していた。


「これは何だ」


 奇妙な光景に警戒しながらレオンはカエルに質問した。カエルはその言葉を聞くと、嬉しそうに振り向きながら、すべてを話した。


「ケロケロ。これは全宇宙の生物を僕と同じ姿にする機械ケロ。この液体に触れると皮膚から体に吸収されるケロ」


「恐ろしい計画ってカエル化計画ってことか?」


「カエル? 僕はそう呼ばれているケロ? おっと、でも僕と同じかっこいい姿じゃなくて、もっとくすんだ色のイボイボになるケロ。身長もチビだケロ」


「なんでそんなことをするんだ」


 レオンはカエルの奇妙な計画について質問した。その間、カエルは椅子を2つ取り出していた。1つをレオンに渡すと、カエルはロボットから飛び出し、椅子に座った。レオンも向き合うように椅子を並べ、カエルの話の続きを聞く姿勢になった。カエルは体をペタペタと触りながら話し始めた。


「みんな僕の姿をみて馬鹿にするケロ。君もケロ。だから僕よりかっこ悪い姿にさせるケロ」


 カエルの目は本気だった。しかし、レオンはそれだけではないと思った。全宇宙の生物をカエル化なんて、馬鹿にされた恨みではないと思った。


「ほんとに君が馬鹿にされただけで? なには事情がありそうだ。話してくれないか?」


 カエルは目を丸くしてレオンを見つめた。信じられないと言うような顔だ。


「僕の話をもっと聞いてくれるケロ? 本当に?」


「もちろん」


 カエルは椅子の上でそわそわしだすと、再びロボットの腹部に飛び乗った。


 そのまま作業場で物探しをすると、いくつかの物を抱えて椅子の前に座り直した。


「僕のイケてるこの姿は、本当の姿じゃないケロ。君にだけ教えるケロ。これ、昔の僕ケロ」


 カエルはそう言いながら、1つの写真をレオンに渡してきた。そこには手足のない、ぬめりとした生物の姿が映っていた。頭部らしき場所に2つの突起物が生えている。レオンはこの生物の正体を知っていた。


「え? 君は無害宙だったの?」


 害宙の中にも、レオンたち宇宙人に無害なものがいた。写真の生物がそうだ。星の地殻をかじるだけの生物だった。むしろ他の害虫に捕食される最弱な生物でもあった。レオンの無害宙という言葉にカエルは口を膨らませた。


「僕たちは害宙じゃないケロ。君たちと同じ宇宙人だったケロ。宇宙連合の誤った分類のせいでひどい目に遭ったケロ」


「そんな馬鹿な。だってこの無害宙は言葉もテレパシー能力も持っていないはずだ。だから害宙に分類されている。どうやってコミュニケーションしていたんだ?」


 レオンは写真の生き物をまじまじと見た。知能と理性のあるとは思えなかった。


「その飛び出した2本の目で会話するケロ。話を聞くケロ。長くなるからコーヒーでも飲むケロ」


 カエルはロボットの中から缶コーヒーを取り出した。それをご丁寧にレオンに渡した。


「どうも」


 レオンは頭をかきながら、お礼を言った。レオンはカエルのペースに乗せられて、相手が予告犯であるという認識が薄れてきていた。蓋を開けてコーヒーを飲み始めると、カエルが話し出した。


「昔の僕は無害宙なんて言われて、誰も相手にしてくれなかったケロ。たとえ、害宙の被害に遭っても、宇宙の摂理だと言われて放置されてきたケロ。みんな食べられたケロ。僕はひとりぼっちケロ」


 カエルは静かな声で語った。カエルの手は震えており、両手に抱えた缶コーヒーを握りつぶした瞬間、カエルは怒りの声をあげた。


「僕は全宇宙を見返すために体を作り替え、ここまで来たケロ。 僕の力を見せつけ、そしてひれ伏せさせてみるケロ。そう、君も例外ではないケロ!」


 カエルは大きく飛び上がり、レオンの顔にめがけて飛びかかってきた。レオンは先ほどまで緩んでいた空気の中にいたため、とっさの行動が出来なかった。カエルの飛びかかる勢いのまま、椅子ごと後ろに倒れた。


 近距離でカエルが、大きく口を開けて笑っているのが見えた。


「ケロケロ。君を下等生物に変える映像を宇宙警察にサンプルとして送りつけてやるケロ」


 レオンの周りはカエルの乗っていたロボットの仲間に囲まれていた。このままではカエルにされてしまう。顔にへばりつくカエルを引き剥がそうにも、ペタペタとして離れなかった。


 カエルはレオンの顔の上でご機嫌だ。ロボットに足を引っ張られ、ずるずると中央の機械へと引きずられていった。その時だった。赤いランプと警報音が鳴り響いた。


 <警告! 警告! 害宙接近中!>


「ゲゲロ!? まずいケロ!」


 カエルは警報を聞くとレオンの顔を飛び降り、慌てた様子でモニターを作業しだした。レオンの足を掴んでいたロボットたちも、手を離すと武器を取り出した。


 向こうの部屋からすさまじい衝突音が鳴り響いた。


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