★ようこそケロ
レオンが宇宙船車を走らせ続けていると、目的付近を知らせるアナウンスが鳴った。目の前に赤と金のマーブル模様に輝く星が見えてくる。その光り輝く姿は美しかった。だが、足を踏み入れると、灼熱の大地とそこら中に流れるマグマに襲われる危険な星だ。生身で降り立てるようなところではない。
本当にこの星にカエルがいるかとレオンは星を目の辺りにして疑いたくなる。しかし、このまま引き下がるわけにもいかず、星の周辺をぐるりと巡回することにした。
すぐにレオンは赤と金の世界にそぐわないものを発見した。不格好なカエルの頭の形をした建物がマグマの上を浮遊していたのだ。
「あそこにカエルがいるのか?」
レオンは宇宙船車に乗ったまま近づいた。入り口を探すと、カエルの建物の口が大きく開いた。スロープと赤い絨毯が敷かれ、舌を伸ばしたような姿になる。ここから入れという合図のようだ。レオンは導かれるように中へ入っていた。
建物の中は広く、ガラクタのような機械が陳列されていた。空気の状況も調べると、生命活動可能な環境に整備されている。床は外のマグマエネルギーを活用した発電システムになっていた。足下から振動音が伝わってくる。
「すごいところだ」
レオンは驚きと感心からそんな言葉が出た。
「そう! 僕はすごいケロ!」
甲高い声が響いた。その声はカエルだった。逆光を浴びて、シルエットとなって現れた。レオンの2倍はある身長。レオンは地球のカエルのイメージが強く、小さい宇宙人だろうと無意識に思い込んでいた。
あまりの大きさにレオンは警戒し、後ずさりをした。カエルはズカズカとレオンに近づいた。ガション、ガションと金属音を立てながら。
「ん?」
カエルとは思えない足音にレオンは首をかしげた。近づいてきたカエルの本当の姿が露わになる。それは大きなカエル型ロボットの腹部にある椅子に腰掛け、レバーを握ったレオンの頭ほどのサイズのカエルだった。
「ようこそケロ。ここは僕の家ケロ」
鼻息荒く自信満々のカエルが現れた。あまりのギャップにレオンは噴き出した。
「ぷぷっ。……おほん、約束通り来たぞ。さあ、計画の詳細やらを吐いてもらおうか」
「そう急がないケロ。ん、君一人だけじゃないんだケロ? さあ、隠れているなら正直に出てくるケロ」
カエルは偉そうに足を組んで、レオンの背後を指差しながら言った。どうやら、大勢で押し寄せてきたと勘違いしているようだ。
「任されたのは俺ひとりだよ」
「うそケロ。騙されないケロ」
「本当だよ。調べてみればわかるだろう?」
カエルはレオンを疑うように目を細めた。ロボットの目がひかり、周囲をスキャンし始める。
<敵の侵入はひとりです>
ロボットの冷たい声が流れた。その声を聞いたカエルは口をへの字に曲げて、ふてくされたような顔をした。
「……みんな僕を馬鹿にするケロ。君もさっき笑っていたケロ」
「ああ、ごめん。その、なんだか微笑ましくてさ」
「君、僕が恐ろしい計画を考えていることを忘れているケロ?」
「あ、そうだった! おい、何を企んでいるんだ」
レオンはここに来た目的を思い出して、カエルに向き直った。どうにもこのカエルのゆるい顔を見ていると油断してしまう。レオンは腰の銃を取ろうとしたが、
「あれ、武器がない……。忘れてきたか!」
「君、警察としてそれは駄目ケロ。はあ、こんな間抜けな警察が相手なんて嫌ケロ」
カエルは呆れたように、目に涙を浮かべながら不満を口にした。
「ははは、銃なんていらないんだよ」
レオンは自分の失態をごまかそうとして笑いながら、パンチの動作を繰り返した。しかし、レオンの内心は冷や汗ものだった。前の事件で、テロ組織モルベリオスのリンカルに銃を破壊されたばかりだった。それをネチネチと説教されたばかりであったが、武器を忘れたとなるとどうなるか考えただけでも恐ろしい。
「せっかく来てくれたし、話はするケロ。こっちに来いケロ」
「わかった。頼むよ」
レオンは拳をしまうと、カエルに案内されるままについて行った。ここはおとなしくカエルに従おうとレオンは思った。
仕事の内容は、カエルの計画を止めることだ。それに、このカエルはレオンを傷つけるような素振りはしない。温厚な性格なのかもしれないと思いながら、レオンは怪しげな緑色に照らされている廊下を歩いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます