★帰るケロ
「君の提案にはのらないよ。おとなしくついてくるんだ」
レオンはカエルの提案を断った。ニコニコしていたカエルはスッと顔を引き締めた。
「正気かケロ? イボイボだらけの醜い姿で他の宇宙人に馬鹿にされるのに耐えられるケロ?」
「見た目は関係ないさ。それに俺は地球人だ。すでに馬鹿にされている。慣れっこだよ」
レオンは笑って答えた。すると、カエルは信じられないという表情でへなへなとその場に座り込んだ。
「それに、君の姿は悪くないよ。ジャンプ力や隠密行動に優れているじゃないか。害宙にも気づかれていなかった。俺よりずっとすごいよ」
レオンはカエルの姿でぴょんぴょん跳ねて見せた。自分の身長の2倍近い高さを飛ぶことが出来る。生身のレオンでは出来ない芸当だ。カエルは褒められて困惑していた。
「褒めてるケロ? 僕を褒めてるケロ?」
「もちろん、褒めてる。バクマ衛星にこの要塞を立てたのは君だろう? 過酷な環境なのにすごい技術だ。外観もカエルでこだわっているし」
「建築は力を誇示する代表ケロ。当たり前のことケロ」
「それに別の生物の体に作り替える技術も持っているし」
「実はその技術、パクったケロ」
「パクリ?」
カエルは気まずそうに手元をいじりだした。
「この姿になったのは偶然ケロ。誰もいない星で隠れて過ごしていたら、どこかの誰かが不法投棄した実験液をかぶってこうなったケロ。残った液から応用して作っただけケロ」
「それでも一から作り出したんだろう? すごいじゃないか」
レオンはカエルを褒め続けたが、それには理由があった。このまま懐柔しようと考えていた。もちろん、カエルが優れていると思っているのは本当のことだ。レオンはすらすらと賞賛の声をカエルに浴びせた。カエルはとても嬉しそうな顔をしていた。
「そうだケロ。僕はすごいケロ。君に僕と同じ姿はもったいないケロ。地球人ぐらいがちょうどいいケロ」
いい気になったカエルは青い液体を取り出すと、それをレオンの頭にかけた。液体は光を発しながら体の中に染みこんでいく。すると、元のレオンの姿になっていた。ご丁寧に服も元通りになっている。
「ありがとう」
レオンは内心で大成功とガッツポーズをした。あとはカエルをどう連行しようか考えているときだった。いつの間にかロボットたちがレオンの宇宙船車を抱えて立っていた。レオンはどうしたんだろうと見ていると、一体のロボットに肩を掴まれ、軽々と持ち上げられた。そしてそのまま宇宙船車に押し込められた。
「僕を捕まえようと考えているんだろうけどそうはいかないケロ。僕は逃げるケロ。でも君を傷つける気分でもないケロ」
カエルはそう言うと勝手にコントロールパネルを操作しだした。
「こら! 何をする気だ!」
キャノピーが閉められ、宇宙船車の中でレオンは抗議をしたが、カエルは手を振るだけだった。レオンが操作しようにも反応はなく、目的地の宇宙警察署に行く準備が整うばかりだ。
宇宙船車の発進と共に建物の出入り口が開いた。レオンを乗せた宇宙船車は、勢いよく宇宙へ飛び出した。
★
「報告は以上です」
レオンはガン警部補にバクマ衛星での出来事を話した。カエルの計画内容、害宙の奇襲に遭ったこと、カエルを逃してしまったこと。しかしガン警部補はレオンの報告をつまらなそうな態度で聞いていた。鼻をポリポリとかきながら報告書を見終わると鼻で笑った。
「なんか馬鹿馬鹿しい話だな。元無害宙の宇宙人だって? ありえん」
「本当のことです」
「なんだ、レオン。お前はこの間抜け顔の言うことを信じているというのか? 証拠はあるのか? 証拠を持ち帰るのも仕事だろうが」
「証拠は……ありません」
ガン警部補の言うとおり、レオンはカエルの言葉を鵜呑みにしていた。しかし、あのカエルが噓をついているとも思えなかった。
「どうせあの電話はいたずらだったんだろう。そうだったと正直に報告書を書いてこい。俺は忙しいんだ」
ガン警部補はレオンをあっちに行けとあしらった。信じてもらえないレオンはとぼとぼと自分のデスクに戻った。ミウがレオンに慰めの言葉をかける。
「お帰りレオンくん。ガン警部補のことは気にしないほうがいいわ。彼も仕事で失敗して苛立っているのよ」
「失敗? 何があったんですか?」
「害宙の発生現場にいていたの。ガン警部補、パンチで一匹宇宙空間に飛ばしてしまったらしいの。幸い無人エリアだったけど、ヘタしたら大勢に被害が出ていたわ。そうそう、レオンくんの行ったバクマ衛星のあるエリアだったのよ」
「飛ばされた害宙……」
そう聞いて思い当たることがあった。あのカエルの要塞に激突してきた害宙はガン警部補がぶっ飛ばした一匹なのだろうか。もしそうだとすると、カエル化計画の中止は彼のおかげでもある。害宙の件がなければ、カエルがレオンに助けを求めることもなく、計画が実行されていたかもしれない。偶然ではあるが、ある意味ガン警備補に助けられていたことに苦笑いする。
「レオンくん。コーヒーいるかしら?」
「ミウさん。俺が入れますよ。入れさせてください」
レオンはさっと立ち上がると、デスク近くのコーヒーメーカーに向かった。コップを3つ取り出して準備をする。
「あら、どうしてコップが3つなの?」
ミウが不思議そうな顔をした。レオンはコーヒーの入ったコップをトレイにのせると、
「本日の英雄に差し入れするんです」
と笑った。
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