★約束
目を開けてられないほどの光。部屋の中が真っ白になる。リンカルは興奮を抑えられない、うわずった声をあげた。
「す、素晴らしいエネルギーだ。この力があれば、宇宙連合に対して有利になる」
銀河姫の力に夢中でレオンを掴む手の力が緩んだ。レオンはその隙を突いてリンカルの手を引き剥がそうとした。しかし、それをリンカルは許さなかった。
「おっと、静かにしてくれ」
レオンの額に固い物が当たった。カチャリと金属の音が聞こえた。レオンは銃を向けられた。
「やめて」
冷たい銀河姫の声が響いた。光が消えたと思った瞬間、頭上から衝撃をうけた。床が大きくへこみ、レオンの体がぐらりと傾く。頭を掴んでいた手はない。何が起こったのかと確認すると、へこんだ床の中央にリンカルがいた。突如発生した重力に押し潰されて、地面にめり込んでいた。空中で停止させていたトリアーの体も同様だった。
「これが……銀河姫の力!」
彼のうろこは剥がれ、ところどころから血が流れていた。それでもリンカルは嬉しそうな笑みを浮かべている。銀河姫の入っていたカプセルは破壊されていた。彼女は宙に浮かんで見下ろしていた。レオンは見たこともない憎悪の表情をした銀河姫に不安を覚えた。
「やめてくれ、銀河姫! このままでは死んでしまう!」
「彼は多くの星々を破壊しようと企んだ悪党よ。慈悲なんていらない。余罪もたくさんあるでしょう」
「君が彼らを裁かなくてもいい。罪を犯してほしくない」
レオンの懇願に銀河姫は悲しそうな笑みを浮かべた。
「私はもうすぐ消える存在。罪なんて気にしていないの」
「それでもお願いだ」
レオンは銀河姫の真下まで歩み寄った。両手を広げて銀河姫を迎えようとした。
「銀河姫、こちらに」
レオンの言葉を聞いて銀河姫は目を見開いた。レオンとの出会いの場面が脳裏に浮かんだ。破壊された宇宙船から落とされたとき、受け止めてくれたこと。彼と出かけた星の思い出を汚したくなかった。レオンに嫌われたくない。そんな思いがあふれていた。彼女は静かに目を閉じる。ふわりと地上に降り立ち、レオンに抱きしめられた。
「最後まであなたに迷惑をかけてしまった。ごめんなさい」
「いいんだよ、慣れてるし」
二人はクスクスと笑い合った。そんな二人の空気を壊すものがいた。
「我々の邪魔を……するな!」
ぎらぎらと血走った目をしながら、地面を這いずりながらこちらに向かってくるリンカルだった。
「ねえ、レオン。気絶させる程度ならいいかな?」
「まあ、それくらいならいいかな」
レオンの了承に銀河姫は微笑むと、リンカルの顔が地面に突っ伏した。
「生きてる?」
「生きてる」
彼女はいたずらっぽい表情で笑った。再び銀河姫の体が輝きだした。彼女は自分の手のひらや腕を確認すると、涙を浮かべてレオンに向き直った。
「レオン、もうお別れの時間みたい。もうすぐ私爆発するの」
「爆発!?」
レオンは彼女の発言に驚いた。冗談かと思った。しかし、彼女の顔は真剣だった。びっくりするレオンに銀河姫はプっと噴き出した。
「私のこと知らずに付き合ってくれたの? 私は銀河誕生のエネルギーを運ぶ生命体。宇宙の果て銀河を生み出すことが使命なの」
銀河姫はパクパク口を動かすレオンの両手をそっと握ると、自分の額に当てた。
「感謝しているの。星々のことを教えてくれてありがとう。きっと素晴らしい銀河が生まれるわ」
これが本当のお別れになるとレオンは感じた。レオンは自分の思いを打ち明けることにした。
「銀河姫、俺は君が……」
地球の展望台で言えなかった言葉を口にする。
「君が好きだ! 君の笑顔が! 君の楽しそうにしている姿が……」
銀河姫はレオンをふわりと抱きしめた。そっとレオンの耳にささやいた。
「私も。ねえ、レオン。銀河になった私を見つけてね」
「もちろんだよ」
銀河姫を迎えに来る宇宙船が来るまでの間、二人は抱き合った。
★
銀河姫は無事に保護され、宇宙の果てに飛び立ったとニュースが流れた。新しい銀河の誕生に、宇宙全体がお祝いムードに包まれた。
一方レオンは先輩のスクワイトに無理矢理、恒星間交流パーティー会場に連れてこられていた。
レオンが会場に入ると、彼の顔を見るなり周りの人たちが騒ぎ出した。
「あなた、この動画に映っている地球人でしょう?」
一人の女の子が映像を出しながらレオンに近づいてきた。その映像は監視カメラだった。レオンが星獄の砦でトリアーとリンカルと交戦している場面だ。
「え、なんでこんなものが」
映像はかっこよく編集されており、民間のサイトに投稿されていた。その投稿者名は“シャドウ“。
「この映像は、近所の銀河まで拡散されているみたいだよ。きっと宇宙全体に広がるんだろうね」
「ねえ、私もこのサイトに投稿してるんだ。一緒にコラボしようよ」
わらわらとレオンの周りに人が集まってきた。
「どういうことだ、こんなのは想定外だ」
スクワイトはコップを持つ手を震わせた。
「レオンは引き立て役に呼んだはずなのに」
悔しそうに身を赤くすると、その辺にあった飲みものを10本の触手でかき集め、自暴自棄になって飲みだした。周りの女の子たちは遠慮なくしつこくレオンの体に触り、アピールしていた。
「モルベリオスに一人で対抗するなんてかっこいいわ」
「ねえねえ、今度二人っきりで食事しない?」
レオンはぐいぐいとくる女の子たちに困惑しながら、提供された暗黒ケーキに手を伸ばした。
「ねえねえ、レオンくん。恋人募集中? あたしとかどう?」
「ごめんな。俺、遠い遠い宇宙の果てに、誓い合った子がいるんだ」
甘いケーキの味を堪能すると、レオンは照れくさそうに笑った。
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