★交戦
レオンの脳裏には、激しい抗争の中でうずくまる銀河姫の姿が浮かんでいた。今、彼女は恐怖に包まれている。早く彼女を助けたいと、胸が張り裂けるような気持ちで走っていた。
ドアの入り口付近でモルベリオス部隊が山のように倒れていた。身につけている衣装から、トリアーの部隊だとわかった。
ドアの向こうで、銃撃と壁や床にぶつかる激しい音が聞こえた。ドアの影から覗くと、トリアーとリンカルがぶつかり合っている。
戦う彼らのすぐ側に、カプセルに入れられた銀河姫の姿があった。レオンは銃を取り出し、突撃しようとしたとき、トリアーが動き出した。
彼は天井高くまでジャンプすると、その落下速度を生かしてリンカルを蹴り飛ばそうとした。しかし、リンカルはその足を片腕で軽く受け止め、もう片方の手でトリアーの両足を拘束した。リンカルの足が動いたと思った瞬間、トリアーは腹を蹴り上げられ、壁に向かって飛ばされた。トリアーは壁にぶつかりながらも、そこに爪を立て、ゆっくり下りてきた。
「組織のトップはさすがに強いな」
予想以上の戦闘能力を目にしたレオンは、真っ正面からは無理だと判断した。しかし、彼らは戦いに夢中でお互いのことしか見ていない。戦いで落下したのであろう天井や壁の瓦礫に身を隠しながら、銀河姫のいるカプセルへ向かった。
カプセルの中の銀河姫は、耳を塞いで丸くなっていた。周囲の争いを拒絶しているかのようだ。レオンは天板の瓦礫を立て掛けて、周囲から見えないように身を隠した。そしてそっとカプセルを叩いて、小さな声で銀河姫を呼んだ。その音と声は戦闘の音にかき消される。
「銀河姫、助けに来たよ」
しかし、その声は彼女に届いたようだ。銀河姫はそっと顔を上げ、口を小さく動かした。
「レオン?」
銀河姫は、夢を見ているのかと信じられない表情でレオンを見つめたが、その顔はすぐに笑顔に変わった。そして爆発音を聞くとすぐに周囲の状況を理解し、再び身を小さくした。カプセルの壁が邪魔をして手は届かない。銀河姫はそれでもカプセルの側でこそこそ作業するレオンに近づき、手を伸ばした。
「ありがとう、助けに来てくれたのね」
二度とレオンに会えないと思っていた銀河姫は、嬉しさで胸がいっぱいだった。
「ああ、すぐにここから出よう。」
カプセルを制御する回路を弄りながらレオンは答えた。再開できた嬉しさと、作業に没頭していたからだろうか。周囲の戦闘音が聞こえなくなっていたことにレオンは気づいていなかった。
先に気がついたのはレオンの背後の様子がわかる銀河姫だ。安堵の表情は一瞬で消え去り、コツコツとカプセルを静かに叩いてレオンに異常を知らせようとした。
レオンがその音に気が付いたとき、瓦礫で影になっていたはずの背後から光が差した。振り向くとそこには、瓦礫を持ち上げてにやりと笑うトリアーと、その横でリンカルが仁王立ちしている。
「こそこそと何をしているのだ? うるさいぞ」
トリアーの長い耳がぴょこんと動いた。彼は聴覚が優れているのだろう。戦いの最中でも、レオンたちの声と、作業音が届いたのだ。
「我々の計画を邪魔する第三者か。その服装は我の部隊だな。裏切り者に気づけないとは歳をとった」
「リンカル、よく顔を見ろ。あんたたちが指名手配に出した警察だぞ」
「なんだと! 我が部隊に忍び込むとは姑息な奴だ。まあ、良い。これではっきりしたな。我々が今、何をするべきか」
「そうだな、リンカル。いや、ボス。一時停戦だ」
トリアーとリンカルは握手をすると、不気味な笑みを浮かべてレオンに一歩近づく。トリアーはボキボキと指を鳴らし、リンカルはドシッと足を踏み鳴らした。
彼らを制圧することが出来れば、銀河姫を無事に救うことが出来る。レオンは彼らと戦うしかないと思った。銀河姫のいるカプセルは幸いなことにかなり頑丈に出来ている。多少の無理も出来るだろう。
まずは追い詰められている状況を何とかしようと考え、レオンは銃を構えながら地面を思いっきり蹴り上げると、彼らの合間を滑るように抜け出した。
「ちょこまかするな!」
トリアーがレオンに飛びかかろうとしている。レオンはすぐに体を転がして引き金を引いた。トリアーに向かって光線が放たれる。
「うげ!」
トリアーは光線を浴びて、空中で固まった。上手くいったと安心したいところだが、そうはいかなかった。リンカルの姿が見えない。レオンはトリアーに注意を向けつつも、リンカルの気配を探す。が、急に頭を掴まれ、足が宙づりになった。後ろからリンカルの声がした。
「物体停止はトリアーではなく、我に向けるべきであったな。素早いあいつをどうにかしたかったんだろうが、判断を間違った」
レオンは銃口をリンカルに向けようとしたが、銃を掴まれ、粉々に破壊されてしまった。これでは逃げられない。
「レオン!」
カプセルの中で銀河姫が泣きそうな声で叫んでいる。
「トリアーを止めてくれて感謝する。君はあの世で我の栄光を見届けるがよい」
頭を掴む力が強くなった。ゴリゴリと骨のきしむ音が頭の中に響く。
「やめて!」
銀河姫は悲鳴に近い声をあげた。その時、彼女の体が青白く光り輝き始めた。
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