★抗争
銀河姫は夢を見ていた。真っ暗な空間でただひとり浮かんでいる自分の姿を見た。体が青白く光り始め、闇を消し去るほどの光を放った。崩壊する恐怖を覚えたとき、銀河姫は目を覚ました。そこは無機質な金属で出来た空間。銀河姫は丸いカプセルの中で浮かんでおり、カプセルはいくつものチューブでつながれていた。
「ここはどこ?」
コツコツと足音が近づいてきた。銀河姫を捕らえた耳の長い男、トリアーだ。彼は銀河姫の質問に答えた。
「ここは星獄の砦だ。君だけのために作った」
「私のため? 噓ね、自分たちのためでしょ」
銀河姫はトリアーに厳しい目を向けた。トリアーは銀河姫の前で足を止めると、偉そうに腕を組んだ。
「この宇宙を支配する力は何だと思う? 金? 情報? そんなものはもう古い。エネルギーだ! 奴らを吹き飛ばすほどのエネルギーだ! 君はそれを持っているのだろう?」
トリアーはカプセルに手を合わせると、中の銀河姫を愛おしそうに撫でた。
「君は本当に素晴らしいよ。その体に莫大なエネルギーを秘めている。さすが銀河の卵だな」
トリアーはカプセルから離れると、嬉しそうにホログラムを展開した。そして自分たちの計画を銀河姫に話した。
「新たな銀河を生み出す君のエネルギーを使って、宇宙連合を攻撃するのだ」
ホログラムの銀河姫が宇宙船や星々を破壊するイメージ映像が流れた。恐ろしい計画を考えているトリアーに銀河姫は怒りを覚えた。
「そんなことさせない!」
カプセルを破壊しようと手で何度も強く叩いても、傷一つ付かなかった。銀河姫はそれでも諦めずに叩き続けた。トリアーは無駄無駄と顔を横に振ると、カプセルに顔を近づけ、彼女にささやいた。
「君にもメリットのある話だと思うぞ」
「そんなものあるわけない!」
銀河姫はトリアーの顔に向かって思いっきり拳を振り上げた。当然カプセルの壁に阻まれてトリアーには届かない。カプセルの壁にぶつかった手が痛みを覚える。それでもトリアーに向かって殴り続けた。
「宇宙連合の支配するこの宇宙だ。君が新たに生み出す銀河の星々も支配下にされるだろう。そんなのは嫌だろう? 彼らに一泡吹かせようじゃないか」
「そんなの憶測だし、私のメリットなんてないじゃない」
「地球も連合の支配下から救えるかもしれないぞ」
地球という言葉を聞いて、銀河姫の振り上げる拳が止まった。その様子をトリアーはにやりと笑う。さらにカプセルに近づいてささやいた。
「君も見ただろう? 悲惨な地球の姿を。支配前の地球人はもっと感情豊かだったと聞いている」
銀河姫の心には地球でのことがよぎった。虚ろな目をした地球人。ふとした瞬間に見せるレオンの諦めたような表情。あの表情は宇宙連合に支配されているからなのか。支配から解放されたらもっと笑ってくれるのだろうか。銀河姫の心は揺らいだ。
銀河姫が動きを止めたのを見て、もう一押しだとトリアーは思った。地球人なんかに恋したという哀れな存在。それも錯覚のようなものだろうとトリアーは心の中で嘲笑った。
「君はどうせ消えてしまう存在だ。さあ、協力してくれるね?」
銀河姫と目が合った瞬間だった。バタバタと複数の足音が近づいてくるのが聞こえてくる。そして、激しくドアが開いた。振り向くと見張りの部下たちが重なるように倒れていた。扉の向こうから現れた人物を見てトリアーはつばを飲み込んだ。
「よう、トリアー。銀河姫をおとなしく渡してもらおうか」
片手でトリアーの部下の頭を掴んでいる男が、にこやかな笑顔で手を差し出した。そして、こっちによこせと言うように指先を自分に向けて曲げ伸ばししている。昔、トリアーが付き従っていたモルベリオスのボスだ。
「お久しぶりです、ボス。いや、リンカル。それはお断りだ」
一瞬の沈黙の後、二人は武器を取り出して撃ち合った。二人の攻撃に呼応して、彼らの部下たちも激しく抗争した。銀河姫の周りは、激しい銃声と閃光に包まれた。
銃撃の音が反響し、星獄の砦全体に鳴り響いた。猛獣のごとく戦う彼らの姿を頭上の監視カメラが捉えていた。
「おおお、戦ってる、戦ってる」
狭いダクトの中を這いずりながら、監視カメラの映像を眺めるシャドウがいた。シャドウの前を進むレオンは不満の声をあげた。
「楽しんでいる場合じゃないだろ! 早く銀河姫の居場所を探せ!」
「わかってるって。ほら、ここだぞ」
「お前が後ろにいるから見えないんだよ!」
レオンがブツブツ文句を言っていると、レオンの前にホログラムの映像が現れた。丸いカプセルが中央に映し出された画面だ。煙と閃光で見えにくいが、中に銀河姫がうずくまっているのが見えた。
「銀河姫だ! おい、この映像の場所はどこかわかるか?」
「落ち着けよ、今この施設を解析してマップ作っているんだ。ほら、出来たぞ」
レオンの前に施設のマップ画像が送られた。レオンは現在地から、銀河姫の場所までの最短ルートを探した。
「このダクトじゃ銀河姫のところまでいけないみたいだ。この抗争に紛れて向かうしかない! シャドウ、俺行くぞ!」
レオンはそう告げると、シャドウが何かを言う前にダクトの下に穴を開けて下に降りていった。飛び交う銃声とぶつかり合うモルベリオスの争いをかき分け、レオンは銀河姫の元へ急いだ。
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