★侵入

 モルベリオスの本部に、ある画像が送られた。銀河姫を抱えて宇宙船に乗り込むトリアーの姿だ。

 固いうろこと背中に甲羅を持った男は、怒りのあまり激しく机を叩いた。机がぐしゃりと変形し、床に亀裂が入った。それでも男の怒りは収まらず、金属製の机をズタズタに引き裂く。


「あのくそ耳野郎!」


 机の残骸をボール状に丸めると、怒りにまかせて投げつけた。この怒り狂った男をなだめようと声をかける者がいた。


「怒りで冷静さを失わないでください、ボス。トリアーの居場所はわかっています。銀河姫の力を利用するには、あの場所しかないのですから」


 ボスと呼ばれた男は、荒くなった息を整えると、先ほどまで荒れていたのが噓のように冷静さを取り戻していた。


「ああ、すまない。我を失っていた。総員に告げろ。裏切り者のトリアーを捕らえるために、星獄せいごくの砦に迎え撃て」


「わかりました。銀河姫はどう処理しましょうか?」


「計画を前倒しにするが、これで良い。そのまま実行しろ」


 ボスの命令を聞いた部下は、深々とお辞儀をするとその場を後にした。ボスの命令が伝えられ、モルベリオス内部はせわしく動き出した。星獄の砦に向かう宇宙船が準備され、武器や兵器が詰め込まれていく。宇宙船のリーダーは、乗組員の人数を確認していた。


「あれ? 二人足りないぞ」


 迷子になっているのかと、周囲を見わたすが、他の宇宙船はすでに準備を終えて発進準備に入っていた。乗組員らしき人物もいない。出撃の時間が近づいている。妙だと思いながら、宇宙船の入り口を閉じようとしたとき、足音と慌てた声が聞こえてきた。


「おーい、待ってくれ!」


 急ぎ足の二人組が閉じかけた扉に滑り込んできた。足りなかった二人だろう。リーダーは、人数がそろったと安堵した。


「おい、遅刻だぞ。ん? お前、ガスマスクは装備に入っていないぞ」


 乗り込んできた乗組員にリーダーは目をとめた。トリアーとの戦闘に備えて乗組員に武装をさせている。しかしガスマスクの装備はさせていなかった。気になって顔をのぞき込もうとすると、ガスマスクをした乗組員がゴホゴホと咳き込みだした。


「ああ、風邪気味なんだよ。うつされたくないだろう? 見逃してくれ」


 近づいてきたリーダーを手で軽く押して遠ざけた。そしてさっさと席に着いた。一緒に滑り込んできた乗組員もきょろきょろと落ち着きなく宇宙船を見わたすと、隣の席に座った。リーダーは体調が悪くてもモルベリオスのために働く乗組員に感銘を受けていた。


「風邪を引いてもモルベリオスのために働く姿勢、気に入った!」と嬉しそうに声をかけると、操縦席に向かって発進の命令を下した。モルベリオスの宇宙船は星獄の砦に向かって動き出す。


 宇宙船内は緊張感が漂っていた。武器を握りしめてぶつぶつと呟く者、祈りを捧げる者、それぞれが戦いに備えていた。

 乗り遅れてきた二人の乗組員は静かにしていた。彼らは周りの誰にも気づかれない、秘密のやりとりをしていた。お互いの手を使って、暗号による会話をしていたのだ。


(まさか、こんなに簡単に忍び込めるなんて思わなかったよ)


(自分たちの探している警察がここにいるとわかったら面白そうだな)


(そんなことしたら、お前の正体もばらすからな。シャドウ)


 むっとした彼は、ガスマスクをつけた者の手を強くひねった。遅れて乗り込んできた二人はレオンとシャドウだった。モルベリオスの持つ宇宙船の動きから場所を特定し、搭乗予定の乗組員二人を拘束して入れ替わったのだ。


 モルベリオスの宇宙船は星の集まる中央部から離れ、光のない場所へ向かって行った。宇宙船の窓に漆黒の景色が広がっている。


 しばらく立つと、その闇の中から一つの淡い光が見えてきた。それは星ではなかった。巨大な金属の塊で出来た巨大な装置だった。

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