★ロゼリシャス通り
ロゼリシャス通りは宇宙人でにぎわっていた。空中には、さまざまな色や形のホログラムが浮かんでいる。それは店名や広告の看板だ。看板からアニメーションが飛び出し、レオンの前で店のイメージソングを歌ってアピールしてくる。しつこい広告を振り払いながら、レオンはお店を見渡した。
お店の壁はすべてパステルピンクで統一され、ぴったりと隙間なく並んでいる。宇宙人の店員たちは他に負けない声で呼び込みをしていた。道に面したガラスのケースには美味しそうな食べ物が入っている。
銀河姫は初めて見る食べ物に興味津々で、レオンに色々と聞いた。
「見て! これ丸くてかわいい!」
銀河姫は店に並んだキャンディーを指差した。赤、青、黄色に淡く光る丸いキャンディーだった。
レオンは店員に頼むと、買ってきたキャンディーを銀河姫に渡した。彼女はキャンディーの入った容器を眺めたあと、首の辺りに手を置いた。花星人のかぶり物を脱ごうとしているのだ。レオンは慌てて銀河姫を止めた。
「ちょっと、ダメだよ。こんなところで脱いだら!」
「え? でもこのままだと食べられないわ」
銀河姫は困ったように根っこの部分を広げた。レオンは銀河姫に近づきこそこそと話した。
「君が銀河姫だとばれたら大変なんだ。花星人は根から食べ物を食べるから……下あたりにない? 穴の空いている場所」
「穴? うーん、あ! あった!」
彼女はかぶり物の中でごそごそと動いたあと、根の中にキャンディーを持ち込んだ。そしてすぐに彼女の歓喜の声が出た。
「わあ! すぐに溶けちゃったわ! でも美味しい!」
「エネルギーキャンディーだよ。エネルギーそのものだから効率的な食べ物なんだ」
喜ぶ銀河姫の様子を見て、レオンも嬉しくなった。もっと彼女に美味しいものを教えたい。そんな気持ちがあふれてきた。
「こっちの黄色いはどんな味かしら。ねえ、まわりにある透明なのは何?」
「透明? ああ、カプセルのこと? エネルギーを入れるためのもので開けたら……」
「キャア!」
レオンの言葉の途中で銀河姫は小さな悲鳴を上げ、その場で固まった。そして小さな悲しい声で
「中身がなくなっちゃった……」
と肩を落とした。「中のエネルギーが流れ出る」とレオンが説明し終わる前に銀河姫は行動してしまったようだ。しかし、彼女はすぐに立ち直り、次のキャンディーを楽しみだした。
レオンは食べ物にはしゃぐ銀河姫を見て、疑問が浮かんできた。
「君のいた星でこういう食べ物は提供されなかったの?」
銀河姫は大切に育てられていると聞いていたが、実際は違ったのではないかと心配になった。彼女は辛い思いをしながら今まで過ごしていたのではないか。その考えが表情に出ていたのか、レオンの顔を見て銀河姫は明るい声で言った。
「そんな顔しないでよ。私のいた星ではナノフードが主流だったの」
「ナノフードなら栄養面の心配はいらないけど、他の食べたことないの?」
「ええ、変な食べ物で体を壊すといけないからと、ナノフード以外は食べられなかったの。好きな味に変化するらしいけど、ナノフード以外の味を知らないからずっと同じ味だったな」
ナノフードは種族に合わせた栄養素に変化する食べ物だ。レオンも忙しい時の補助食としてたまに食べていた。その時食べたい味に変化する。ナノフード以外食べたことがない銀河姫に興味が出てきた。
「ナノフード本来の味? どんな味なの?」
「それが無味無臭! なんでこんな食べ物をありがたがって食べるんだろうと思っていたけど……」
銀河姫は根を大きく広げて、不満そうだった。しかし、先ほど買ったエネルギーキャンディーを見つめると愛おしそうに容器を撫で始めた。
「でも、この味を再現できるなら確かにすごいわね」
銀河姫はキャンディーをしまうと、レオンの腕を掴んだ。そしてぐいぐいと引っ張る。
「ねえ、他にも美味しいものを教えてよ」
花星人のかぶり物で銀河姫の顔は見えないが、きっと輝いているのだろうとレオンは思った。もっと彼女を喜ばせたい。彼女に最後まで付き合おうと心に決めた。
「わかった。じゃあ、暗黒ケーキを食べに行こう!」
「やった! たくさん食べましょう。うふふ、いろんな味を覚えたあとに、ナノフードを食べるのが楽しみになるなんて初めてよ」
銀河姫と並んで歩いていると、レオンの通信機に連絡が入った。出るとガン警部補の声が聞こえた。
「おい! レオン! お前は一体どこにいるんだ! ん? このにぎわいはスターケット星か?」
「耳がいいですね……」
音を聞いただけで場所を特定するガン警部補を思わず褒めてしまった。しかし、彼の耳の優秀さは今のレオンには都合が悪い。ガン警部補はイライラした様子で声を荒げた。
「ああ!? そんなことより、ワープステーションが破壊されたがどうなった!!」
「えーと……」
レオンは、今の状況をどう伝えようか口ごもった。銀河姫をチラリと見る。彼女は首をかしげてレオンの様子をうかがった。通信機から、大きなため息が聞こえてきた。
「レオン、お前は本当に役立たずだな! 逃したんだな! 銀河姫の誘拐を阻止できないとは地球人は本当にダメだ!」
ガン警部補は喚いている。彼の大声に耳が痛くなり、思わず通信機から離れようと手を伸ばした。
「おい! 聞いているのか! レオン!」
ガン警部補の声を聞いていた銀河姫はレオンから通信機を取り上げた。
「失礼ね! レオンさんは私を護衛してくれているわ! そもそも私が誘拐されたのはあなたたちの警備がダメだったからよ!」
「そ、その声は銀河姫!?」
慌てふためくガン警部補を無視して銀河姫は通信機を切った。
「いいの? 知られたくなかったんじゃ……」
「いいの! だってあなたが馬鹿にされているのを聞きたくなかったから」
さあ、行きましょうと銀河姫はレオンの腕を自分の腕と絡めた。
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