★お尋ね者レオン
ロゼリシャス通りの一角にあるお店のカウンターに着くと、レオンは暗黒ケーキを注文した。
「暗黒ケーキね、人気の商品だよ。店の中をぐちゃぐちゃにしないでおくれよ」
店員の注意に銀河姫は理解できないと言ったようにレオンを見た。
しばらくすると、カウンターの上にポータルが展開し、中からケーキが現れた。黒いケーキだ。銀河姫は花の部分をケーキに近づけた。
「これが暗黒ケーキ? 甘い香りがするわ」
「反重力チョコレートの匂いだよ」とレオンは銀河姫に教えた。
「中の暗黒物質をコーティングしているんだ。このチョコレートには重力を打ち消す力があるからね。食べるときは気をつけて。チョコレートがないと物が引き寄せられるから」
「引き寄せられる?」
銀河姫の疑問に店員が口を挟んだ。
「チョコレートだけを先に食べるお客さんがいてな。残った暗黒物質が店の物を重力でかき乱すのさ」
「わかったわ。気をつけて食べるね」
銀河姫は店員の忠告を受け入れると、ケーキを一口食べた。初めて食べる暗黒ケーキに彼女は驚いている。
「あまーい! それに口の中が不思議な感じ。体がふわふわしてきたわ」
すごい、すごいと喜ぶ彼女を見ながら、レオンもケーキを一口食べた。甘いチョコレートの味が口に広がる。暗黒物質が舌に触れると、一瞬の重みを感じた後に軽さを感じた。口の中が宇宙空間になったような感覚に陥る。
ケーキに夢中になっていると、店内のホログラムにニュースが流れた。
『本日、首都惑星サヴィレナで行われていた銀河姫送別記念の式典がテロ組織モルベルオスによって襲撃されました。この事件により、銀河姫が誘拐され、行方不明となっています。現在、宇宙警察は捜索を開始していますが、事件で負傷した警察が多く難航しています』
レオンは銀河姫を見た。ニュースの話題の人物は横でケーキを楽しんでいる。いつまでも遊んではいられない。レオンは銀河姫の悩みを聞き出さなければと思った。
ニュースに目をやったレオンに店員が話しかけてきた。
「兄ちゃん、あんた腕をレーザーで撃たれているようだけど大丈夫か?」
「腕?」
レオンは自分の右腕を見た。ワープステーションで負った傷。レーザーで焼け切れたままで放置していた。
「ああ、大丈夫ですよ。血も出ていませんし」
「おいおい、放置はいかん。ちょいと待っていてくれ」
そう言うと店員は店の奥へ姿を消した。レオンは店員の背中を見送った後に再び自分の右腕を見た。
店員はレオンの傷を見て、レーザーで撃たれたと言った。よく一目見ただけでわかったなと疑問に思った。その時、背後からレオンの肩が叩かれた。振り向くとそこには、柄の悪そうな宇宙人が二人立っていた。
「おっと、お前。宇宙警察だろ? 服のデザインでわかるぜ」
彼らはニヤニヤとレオンに近づいてきた。
「お前、お尋ね者だぜ」
彼はある画像を見せた。レオンの写真だ。しかも最近の写真だ。ワープステーションでモルベリオスと交戦していたときのものだった。あいつら、いつの間に写真を撮っていたんだ? 銀河姫を連れて行ったレオンを探すために顔写真を公開したのだろう。
店の奥を見ると、先ほどの店員が隠れながらこちらの様子をうかがっていた。店員が彼らに情報を流したのか。レオンの傷がレーザーの物だとわかったのも納得がいった。
「話を聞かせてもらおうか」
彼らはレオンの腕を強く掴んだ。
「ちょっと、いきなりなんなの!」
銀河姫は席を立つと、レオンを守るように間に割って入った。彼らはその彼女の頭部分を掴むと、乱暴に突き飛ばした。
「なんだ、この花星人。どけ!」
「キャッ」
「やめろ!」
レオンは床に転びそうになった銀河姫を受け止めると、彼女を背中に隠しながら彼らと対峙した。彼らはレオンを睨み付けながら言った。
「用があるのはお前だよ。モルベリオスがお前を探しているんだ。それとも、その花星人も関係者か?」
背中に隠した銀河姫を指さした。モルベリオスがレオンに用があるのは、銀河姫の居場所を聞き出すためだろう。今、花星人に変装しているので彼女が銀河姫だとばれてはいないが、調べられると危険だ。
ここから逃げだそうとレオンは考えた。カウンターに残っている暗黒ケーキ。すまない、店員さん。レオンはそう心の中で謝ると、手をケーキに伸ばした。しかし、その様子を彼らに気が付かれてしまった。
「おい、怪しい動きをするな!」
彼らはスッと銃をレオンの顔に突きつけた。無理か。ここはおとなしくついて行くしかない。そう思った。
その時、背中が引っ張られるような強い感覚に陥った。店中の物がガタガタと動き出し、レオンたちに向かって飛んでくる。飛んできた椅子がレオンの前に立っていた宇宙人二人の頭を直撃し、「ぐへ」と声をあげて倒れていく。
「行きましょう!」
銀河姫の声がして、レオンは彼女に引っ張られるままに店を出た。振り返れば店員の慌てた悲鳴が聞こえてくる。
通りを歩く宇宙人たちは、「なんだ、なんだ」と店内を覗き、「なんだ、暗黒ケーキ」かと納得して去って行った。
「暗黒ケーキ、気に入ったわ!」
銀河姫はチョコレートをべったりとつけた手を嬉しそうに見せた。
「まさか、ケーキの暗黒物質で撃退するとはね」
「あら、あなたが先にそうしようとしたんでしょ。手がケーキに向いていたもの」
背後から見ていたわよと彼女は得意げに言った。
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