★銀河姫
ワープステーションの周りには多くの宇宙人が外に避難していた。避難用の宇宙船に乗り込んでいる。ワープステーションに規制線が張られ、大量の防衛ロボットが取り囲んでいた。レオンは近場に宇宙船車を停めると、防衛ロボットに近づいた。
『キケン、キケン、この先は入れません』
近づくレオンを防衛ロボットが阻止する。レオンは手のひらをロボットに押しつけた。
「警察だよ。入れてくれ」
体の中にはお金の他に身分情報も埋め込まれている。防衛ロボットはレオンの身分を瞬時に照合すると、道を空けた。
「ありがとう」
レオンはお礼を言うと、ワープステーションの中に入った。
中はロボット以外誰もいなかった。警察も見当たらない。銀河姫の式典に出払っていて、この場にいるのはレオンだけだった。案内ロボット、掃除ロボット、監視カメラがせわしなく動いている。ワープステーション内のすべてのロボットが警戒態勢に入っていた。
レオンはワープゲートに進んだ。馬鹿でかいアーチがレオンを出迎える。このゲートをくぐることで他に設置されたゲートと行き来できるのだ。
緊急アラームがステーション中に鳴り響いた。停止しているはずのワープゲートがビリビリと放電しながら作動し始める。火花が散り、青い閃光が走る。警告音声が流れた。
『緊急事態発生! 緊急事態発生! ワープゲートの権限が………』
警告は途切れ、ワープゲートが激しく揺れだした。ゲートから大量の風が噴き出してくる。
ワープゲートの中央が青白く輝く。と同時にゲートより巨大な宇宙船の先端が現れ、ゲートの柱を破壊しながらこちらに侵入してきた。宇宙連合のマークにつけられたバツ印。モルベリオスの宇宙船だ。
宇宙船は施設を破壊しながら進んだ。壁にぶつかり、天井の一部が落ちてくる。ワープステーションを破壊してここから出るつもりらしい。
『宇宙船後部、貨物室に銀河姫の反応あり』
ロボットはセンサーで銀河姫の場所を特定し、一斉にビームを発射した。宇宙船後部を避けるように宇宙船を破壊する。
「うお、スッゲ!」
レオンは思わず声を出した。ロボットたちの放ったビームが宇宙船を貫通した。破壊された割れ目から、武器やコンテナが落ちてくる。その中には中継で見た銀河姫の姿もあった。彼女はなんとか宇宙船の端にしがみついている。しかし、彼女が落下するのも時間の問題だ。
「助け方が雑だよ!」
ロボットへの不満を漏らしながら、レオンは地面を強く蹴った。一瞬で銀河姫の下まで到着すると、両手を広げた。
「宇宙警察です! 銀河姫こちらに!」
絶対に受け止める。レオンの意思を感じ取ったのか、銀河姫はすんなりと手を離してレオンの元に落ちてきた。
「銀河姫が逃げるぞ!」
宇宙船の中から怒号が聞こえる。モルベリオスの一員だろう。彼らは揺れる宇宙船の中で武器を持ち、レオンに構えた。レオンはその様子を見て焦った。銀河姫を受け止めるために銃を腰に下ろしたままだ。このままでは撃たれる。
ギュウウン!
「キャッ」
レオンは小さく悲鳴を上げる銀河姫を抱きしめると、足に力を入れて横に逸れた。
背中が地面に着くように体をひねり、銀河姫を守った。
レオンは銀河姫を抱えてすぐに立ち上がった。ワープステーションは崩れはじめ、モルベリオスたちがいる。ここは危ない。レオンは必死に考えた。すぐに安全な場所への避難と応援を呼ばなくてはならない。
「いてて」
右腕に鋭い痛みが走った。どうやらすこしかすったようだ。レーザー銃で良かった。焼かれた傷口の血は止まっている。
レオンは気にしなかったが、レオンに抱えられている銀河姫はそうでもなかったようだ。赤く肉の見える傷口に気が付き、慌てだした。
「あ、あなた! 怪我! 怪我をされていますよ!」
「おっと、暴れないで! 大丈夫だから! 大丈夫だから!」
不安がる彼女に笑顔を見せ、なんとか落ち着かせようとした。銀河姫はレオンの笑顔と傷口を見比べ、口をつぐんでおとなしくなる。
背後から宇宙船が爆発する音が聞こえた。振り向けば煙の中から人影が起き上がってくる。ボロボロになりながらも銃を構えるモルベリオスのテロ集団だ。
「銀河姫は俺たちの物だ! 返してもらおう!」
ひときわ大きい銃を構えた男が叫んだ。銃から赤色のレーザーが発射される。当たればレオンは黒焦げになるだろう。
「おっと」
身をかがめてレーザーをよける。頭上を素通りするレーザーは目の前の壁を溶かし、外までの通路を作った。
「ラッキー!」
レオンはそのままレーザーが作った道を進んだ。後ろから怒号が聞こえる。
「馬鹿野郎! 逃げ道作ってどうする!!」
外で待機していた防衛ロボットたちがレオンと入れ替わるようにテロ集団に向かっていた。これならしばらく時間を稼げるだろう。はやく銀河姫を安全なところに避難させないと。
レオンは自分の宇宙船車の前まで来ると抱えていた銀河姫を下ろした。
「さあ、はやく乗ってください。すぐにここから逃げましょう。大丈夫、俺が責任を持ってあなたを安全なところまで送りますから」
キャノピーを開けても、銀河姫は乗ろうとしなかった。そわそわとした様子でレオンの顔をうかがっている。
「あ、あの、その」
「? はやく、奴ら来ますよ」
レオンは銀河姫の背中を軽く押しても、彼女は動かなかった。レオンの服の袖を掴んでうつむいている。
「あの、私、行きたくないのです……」
「え?」
行きたくない? どういう意味かわからず、レオンは銀河姫の肩に手を置いた。理由を聞こうと思った。すると銀河姫は顔を上げ、レオンの目を見てはっきりとした口調で言った。
「宇宙の果てには行きたくないです!」
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