★宇宙最大の式典
レオンは普段の活動服とは違う、正装の制服に着替えた。この制服は就任式で着たきりだったが、今日は特別な日だ。レオンは久しぶりの正装に心が躍った。
レオンの隣で着替えるスクワイトも10本の手足をくねらせながら声をうわずらせた。
「銀河姫をまさか生で見られる日が来るとは、感激だ!」
体を銀色に光らせながら身支度をしている。三角頭の角を念入りにチェックする気合いのいれようだ。レオンも前髪を軽くセット後、銀河姫について考えた。
銀河姫は突然惑星に産み落とされる不思議な生命体だ。彼女を育てることで宇宙から恵みを受けることができる。
しかし、銀河姫には使命があって、宇宙の果てへ旅立たせなければならない。
今回の仕事は銀河姫を送り出す宇宙最大級の式典の警備だ。ワープステーションでテロが起こったことで、レオンの部署も警備に参加することになったのだ。
レオンは自分が生きている時代に銀河姫が見られるとは幸せだと思った。他の者も皆同様に銀河姫を見られることで浮かれていた。そんな空気を壊す者が更衣室に入ってきた。岩石星人のガン警部補だ。
「お前たち身を引き締めろ! いいか、今回の任務は銀河姫の式典の警備だ。銀河姫の特別な力を狙う輩は多い。早く着替えろ!」
彼の剣幕に皆一斉に着替え終わると、慌ただしく更衣室を出て行く。レオンもネクタイを締め終わると更衣室を出ようとした。しかし、入り口で待ち構えていたガン警部補に呼び止められてしまった。彼はニコニコした表情をしている。
「おっと、レオン。お前は俺たちとは別行動だ。お前にぴったりの特別な仕事だ」
「特別な仕事?」
レオンは嫌な予感がした。ガン警部補の口がにやりとする。
「お前は通常通りのパトロールだ」
レオンの手に球体のデバイスを渡した。
「多くの宇宙警察が今回の警備に出払っている。カビ星人を捕まえた英雄レオン君がいないと住民たちが不安になるだろう?」
ゴツゴツとしたガン警部補の手がレオンの肩を強く叩く。
彼はレオンにカビ星人を捕まえられたことをまだ根に持っていた。自分の手柄にできなかったことがよほど悔しかったのだろう。
レオンの心はわくわくから一転して深く落ち込んでいった。ガン警部補の嫌がらせのせいで銀河姫をこの目で見ることができないのだ。更衣室から去って行くガン警部補の背中を見ながら、レオンはため息をついた。
★
いつもの活動服に着替え直したレオンは、ワープステーション周辺の惑星に来ていた。あらゆる種族の宇宙人が行き交う街には巨大なモニターがそこら中に配置され、どこでも式典の中継を見ることができる。
彼らは釘付けでモニターを見ていた。従業員もモニターをチラチラ見ながら仕事をしている。たしかに、この状況では犯罪者の格好の餌になってしまう。レオンは自分の仕事はとても重要な任務だと言い聞かせた。
しかし、人々の歓声の声を聞くとレオンもついモニターを見てしまう。ちょうど銀河姫が登場したところだった。
レオンはモニターに映る銀河姫の姿から目が離せなかった。彼女は宇宙の美しさをそのまま体現していた。天の川のように輝くドレスから覗く、宇宙を連想する肌。黄金の瞳に、スカイブルーの髪。モニター越しでもその美しさは際立っていた。レオンは彼女に目を奪われた。
しかし、銀河姫の表情はどこか儚げで、祝福する周りと対照的だった。それがレオンの印象に強く残った。彼女は嬉しくないのだろうか? もしかしたら旅立つことを悲しんでいるのかもしれない。そんな彼女を気にしないかのように式典が始まった。
『皆様お集まりいただきありがとうございます。これから銀河姫の旅立ちの儀を行います。姫の旅立ちによる、我ら宇宙の繁栄を喜びましょう』
盛大な拍手が起こる。モニターを見ている住民たちも拍手をしだした。レオンは気になってモニターを見続けた。
『さあ、銀河姫。祭壇へ』
銀河姫が祭壇に立つことで宇宙の果てに飛び立つという。その瞬間を見届けようと皆が固唾を飲んだ。銀河姫は唇をかみしめたまま一歩一歩祭壇へ向かって歩く。
彼女の片方の足が祭壇に触れる瞬間、モニターの画面は爆発音ともに黒い煙で覆われた。
「ええ!?」
レオンは驚きのあまりモニターに近づいた。画面の向こうは黒い煙がもくもくと立ちこめている。レオンと同じくモニターを見ていた街の宇宙人もざわざわと騒ぎ出した。
「おい! 何があった!」
「銀河姫が爆発したのか!?」
混乱の中、レオンの通信機から連絡が入った。ガン警部補からだ。
「レオン! いるか! ワープステーションだ! ワープステーションへ行け!」
「ワープステーション!? 一体そちらで何があったのですか? ガン警部補!」
ガン警備補からの応答はない。会場からの悲鳴が聞こえ、そこで通信は切れてしまった。
モニターの映像を見ると、薄くなった煙の中を逃げ惑う人々の姿が映し出されている。銀河姫の姿はどこにもない。
彼女のいた祭壇にモルベリオスのシンボルマークが描かれている。テロ集団が銀河姫を連れて行ったに違いない。
とにかくワープステーションに行かないと。レオンは宇宙船車に乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます