2話 宇宙の果てへ
★仕掛けられた爆弾
通勤、通学、旅行。多くの宇宙人が集まる交通機関、ワープステーション。星と星の行き来にワープゲートが使用される。ワープステーションには商業施設としてワープラザが併設されていた。ワープラザでは、様々な種類の宇宙人たちが、買い物や食事を楽しんでいる。宇宙警察のレオンは、万引きや怪しい人物がいないか施設の巡回をしていた。
トイレ付近を歩いていたとき、急に走る足音が聞こえてきた。同時にレオンの通信機にガン警部補から連絡が入る。
「レオンか! お前のいるワープラザに爆弾が仕掛けられていることがわかった。いまスクワイトが向かっている! お前も応援に行け!」
まさに走ってきている人物がスクワイトだった。三角頭に手と足合わせて10本の手足をもつ宇宙人。レオンの先輩だ。彼は猛スピードで向かってきた。
「邪魔じゃあ!」
スクワイトは一番長い腕でレオンをその場からどけるとトイレの中に入っていった。
「トイレの中に爆弾が!?」
レオンはトイレ周りを侵入防止のレーダーで囲った。店内放送が流れる。
『お客様、お客様。大変申し訳ございませんが、当ワープラザに不審物が発見されました。宇宙警察の方々が現場に到着していますが、爆発の危険性があります。皆様の安全のために、速やかに最寄りの非常口から外に出てください。非常口は各階にあります。ご協力をお願いいたします。お客様、お客様。大変申し訳ございませんが…』
幸いトイレを使用している宇宙人はいなかったようだ。避難誘導はワープラザのスタッフに任せても問題ないだろう。レオンは爆発物を処理するためにトイレに入った。
トイレの中にスクワイトの姿はなかった。どこに行ったのかと見渡すと、使用中の個室からスクワイトの触手が見える。爆弾はそこかと声をかけた。
「スクワイト先輩、俺も入れてください」
「使用中だ。他を当たってくれ」
「え!? 爆弾がその中にあるのでは?」
「爆弾はここの手洗い場の裏だよ」
ドアの隙間から長い触手がレオンの後ろを指した。
レオンは手洗い場の裏を見る。そこには小さなカプセル型の爆弾とその横にシンボルマークが描かれていた。
宇宙連合のマークに赤い罰点をつけられたシンボル。死を恐れない過激な反逆組織『モルベリオス』のものだ。
「これは……テロだ!!」
爆弾には時間が表示され、数字は減っていく。時限式の爆弾のようだ。残りは3分と少し。
レオンは爆弾を照合した。すぐにAIの答えが返ってくる。
『タイプβカプセル型爆弾。被害予想は現在地のワープステーションが消し炭になるでしょう。至急に解除してください。解除マニュアルを開示します』
「解除にどのくらい時間がかかる?」
『5分です』
時間がない。ここは停止銃で爆弾の時間を止めて、どこかで爆発させるしか手はないとレオンは思った。銃の有効時間は1分。レオンは銃のダイヤルを切り替えた。
「ちんたら作業しているんじゃないよ。どけ」
トイレのドアが勢いよく開き、スクワイトは爆弾の前にいるレオンをどかすと、マニュアルも見ずに10本の手足を動かす。
「この型の爆弾はお手のものだぜ」
そう言いながら手際よく爆弾を解体していく。レオンは必要な道具を渡しながら、スクワイトの先ほどの行動理由を聞いた。
「なんで先にトイレで用を? 爆弾があるのに!」
「お前、尿意に襲われたまま爆弾解除できるか?」
「た、たしかに」
レオンは妙に納得した。尿意と戦いながらの解除は難しい。
「だろ? 粒子レーザーくれよ」
「はい」
まるで手術のようだ。レオンは指示された道具を手渡した。
残り30秒。スクワイトの体は汗でヌルヌル光っていた。小さなコードを切ると、汗を拭いた。
「ふう、これで解除完了だ」
手の動きを止めた。しかし、まだ数字は動いている。
「止まっていませんよ!」
「ええ!? おかしいな」
このままではワープステーションが吹き飛んでしまう。やはりここは停止銃で時間を稼ぎつつどこかで爆発させるしかない。レオンは銃を握った。
その時、ドシドシと地響きを立てながら誰かが走ってきた。
「おい! 爆発物は処理できたか!」
ガン警部補が様子を見に来たようだ。勢いよくトイレに入ってくる。
「と、止まりません!」
「何!?」
驚いた様子で駆け寄ってくる。爆発間近の爆弾を見てガン警部補は叫んだ。
「爆弾!! ウォォォー!!」
ガン警部補はそう叫びながら爆弾を抱え込むと、ダンゴムシのように丸くなった。ガン警部補は己の肉体で爆発の威力を押さえようとしている。レオンは無茶だと思った。しかし、そのまま時間が過ぎた。時間的には爆発していてもおかしくはない。ガン警部補が恐る恐る起き上がると、爆弾を見て笑い出した。
「はっはっは! また俺のおかげで助かったな!」
爆弾のカウントダウンは止まっていた。スクワイトは無事爆弾を止めていたのだ。しかし、ガン警部補は自分が止めたと上に報告している。そして、ご機嫌な様子でガン警部補はトイレを出て行った。ガン警部補がまた自分の手柄にしている。レオンとスクワイトは互いに顔を見合わせて、肩をすくめた。
★
一日の仕事が終わり、レオンの肩をスクワイトが叩いた。
「レオン! 再来週の休みは開いているか? 恒星間交流パーティーに行くぞ!」
「恒星間交流パーティーですか?」
「お前、恋人いないだろう? それともあれか、お前地球人の子としか付き合いたくないのか?」
「そういうわけではないですけど……」
地球以外の星では地球人の数は少なく、出会うことがない。レオンも仕事に必死で恋人を作ろうという考えがなかった。口ごもるレオンをスクワイトはニヤニヤした表情で見てくる。
「諦めろ。俺としては、お前には花星人がいいと思うんだ」
「嫌ですよ。花星人は複数の相手を持つじゃないですか」
「お互いのパートナーはひとりがいいと? 効率悪いねえ」
やれやれと長い触手を広げた。そんなスクワイトを見てレオンはお節介だと思った。
恒星間交流パーティーの話はそこで中断された。ガン警部がオフィスに駆け込んできたのだ。
「再来週の休みは仕事だぞ。警備の仕事が入った」
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