第102話 天使の羽

 作ってしまった。

 一つの魔道具を持ち私は唸っていた。

 例の飛ぶための魔道具、結局色々と迷った挙げ句翼の形にしてしまった。

 飛ぶっていうイメージから飛ぶっていうイメージから、足の裏から噴射とか色々と考えたんだけど、結局しっくりこなかった。

 やっぱりイメージのしやすさって重要だよね……


「うむー……」


 しかし、これを本当につけてしまっていいんだろうか?


「何を悩んでいるのかわかりませんが、マスターさんの姿は誰にも見えないから大丈夫なのでは?」


 いや、わからないと言いつつ、そのまんまじゃん。

 でも、ベルの言うこともそのとおりなので、とりあえず、試してみることに。


 翼型の魔道具を背中に付けて、効果を発動。

 これで私自身は軽くなったから、この状態で風が発生するようにイメージすると浮くはずなんだけど……

 怖いのでゆっくりと魔力を注いで……

 すると、急な浮遊感が私自身にかかった。

 というか、尋常じゃないくらいの浮遊感だった。


「わわっ! きゃっ!!」


 ちょっと浮き上がったと思ったら急激に上昇を始め、地下室の天井をすり抜け、家の1階、2階の天井もすり抜けて、そのまま外に飛び出す。

 思わず目をつぶってしまった私だったけど、風を感じて目を開く。


「……! わぁ!!」


 思わず感嘆の息が漏れた。

 眼下の街並みとその外に広がる草原はまさにファンタジーの世界だ。

 街で一番高い時計塔が下に小さく見える。


 どれだけ高いところまで飛んでしまったんだろう。

 高所恐怖症じゃなくて良かった。


 しかし、ここって本当に異世界だったんだなぁ。

 遠くまで何も見えない草原にこんなに心奪われると思っていなかったよ。


 しばし、感慨にふけっていると、少しずつ視界が下に落ちていることに気がついた。

 というか、私自身が落ちてる?

 そう気がついた瞬間、落下は急激に変わった。


「ちょっ! やばっ!」


 地面についても叩きつけられたりするわけじゃないだろうけど、この落下速度は流石に怖い。


 えっと、多分、さっきは魔力が強すぎたから、もうちょっと弱めに魔力を込めれば。


 さっきよりも丁寧に、魔力を込めてみる。

 落下感がなくなり、今度はまた浮遊になる。


「うーん、これは少し練習が必要そうだなぁ」


 魔力を込めないと落下してくけど、込め過ぎると上がりすぎる。

 いい感じに飛べるようになるのは練習が必要そうだ。


 高く上がっては落ちるようなことを繰り返して、練習する。

 なんとかホバリングできるところまで来たら、今度は移動の練習だ。

 こっちは、体制を前に傾けることによって前に進める感じだ。

 横にならないギリギリまで身体を傾けて練習する。


 一度、身体を倒しすぎて下に進んでしまって治すのに手間取ってしまったのは焦った。

 凄い勢いで下に突っ込むのはめちゃくちゃ怖かったよ。

 なかなか立て直しができなかったけど、そのまま前に転がるようにすればいいことに気がついたのはかなり落ちてからだった。


 ある程度自由に飛べるようになったので、ひとまず、練習はこれで終わりとする。

 まだ気を抜くと暴走しそうだけど、ある程度は思った通りに動くことができるようになった。


 慣れればアクロバット飛行とかもできそうだけど、今はこれで十分だろう。

 ゆっくりと下に降りていく。


 ふと、下を見ると、家の屋根の上に双子が見上げていた。

 手を降っているので手を振り替えしてそのまま双子に近寄る。

 そのまま双子の目の前に降り立った。


「「ママ天使みたい!」」


 双子が私に駆け寄ってきてはしゃぐ。

 こっちの世界でも天使言葉ってあるんだなぁ。

 まさか、こっちでも天使扱いされるとは思わなかったよ。



 ひとまずの魔道具の動作確認と練習ができた。

 後はこれを色々と実験したいところなんだけど。


 例えば、荷物を持ったりしたらどうなるかとか?


 今でも、厳密に言えば服を着ているし、この魔道具は私自身にだけ作用するわけじゃないと思ってるんだけど、そのあたりどうなっているんだろう?

 まぁ、考える前に実験してみようか、何かを持ってみて……


 うん、レナとルナがキラキラして目でこっちを見ているけど、流石に二人を抱えて飛ぶのはまだ怖いので、手頃なもので実験してからにしよう。

 というか、君たち普通に空を飛べるはずだよね?


「「ママと一緒に飛びたい!」」


 だそうなので、実験が終わったら一緒に遊覧飛行でもしようか。


 さて、手頃な物、できればそれなりに重くて、普通だったら浮かないものがいいんだけど。

 椅子でいいか、これが自然と浮き上がる様子なんて想像できないし。


 持ったまま、魔道具を発動して、飛んでみる。

 普通に飛べた。

 なるほど、重さはある程度大丈夫そうかな?


 次は、本を持って実験してみることに、確認したいことは、効果が働く範囲だ。

 本を手に持って浮き上がり、ちょっと飛んだところで、本を手放してみると普通に落下していった。


 ふむ、この感じだと、私が持っていると効果が働く感じなのかな?

 あ、それじゃあ、紐とかで繋いだらどうなるんだろう?

 さっきの椅子に紐をくくりつけて、それを持って飛び上がってみる。


 私自身は浮き上がったけど、椅子は風で動くだけで浮き上がりはしなかった。

 なるほど、繋がっているだけではダメと。


 紐をかなり短くしてみたら、浮き上がったので、効果の範囲が限りあるってことかな。

 ほぼ持っているに近いくらいじゃないと効果が出ないみたい。


 まぁ、私が持っている範囲なら大丈夫ってことがわかったから、レナとルナを抱えて飛ぶことくらいはできそう。


 地球に戻ったらカナを抱えて飛んでみたりしたいね。

 あ、でもあっちだと魔力の消費が激しいんだっけ?


 短時間だと大丈夫だろうけど、急に落ちたりしたら怖いから限界を試しておきたいね。


 まぁ、それはともかく、さっきから双子がまだキラキラとして目でこっちを見ている。

 落ち着かない様子で、私の翼を触ってるし。

 それじゃあ、一緒に空のお散歩と行きましょうか。

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