第103話 ピンチに駆けつける天使

 次の朝、やってきたサティさんと共に、ギルドへ向かう。

 魔道具を見せに来たことをサティさんに伝えると、すぐにギルマスの部屋に案内された。


「もうできたのか!」


「はい、びっくりするものができましたよ」


 朝は混んでいるらしいけど、よほど楽しみだったのかな?

 というか、サティさんも忙しくないのかな?

 一応まだ、受付開始の前だからいいのかな?


「それでどんなものができたんだ!」


 興奮している様子のギルマス。

 考えれば、この魔道具見せるのちょっと恥ずかしいなぁ。

 けど、ここまで来て見せないわけにはいかない。

「これです」と取り出したるは翼の形をした魔道具。


「鳥の羽根みたいですね、いえ、真っ白の羽……天使の羽?」


 また天使か。

 ここまで来ると、何かの意思すら感じる押しをスルーする。


「これは、まさか!」


 ギルマスは形だけ見て察しがついたようだ。


「はい、お察しの通り飛ぶための道具です」


「「飛ぶための道具!!」」


 サティさんとギルマスの二人が声を揃えて叫んだ。

 外まで聞こえてるんじゃないかな?



「……と、半ば私専用になってなってしまいましたが、空を飛べるようになりました」


 ざっくりと二人に使い方などを説明する。


「なるほど、風の魔石との組み合わせか!」


 その手があったかと頷くギルマスと、


「空ですか、ちょっと憧れますが怖いですね……」


 単純に空に興味があるサティさん。


「時間があったら飛んでいるところをお見せできるんですが」


「ぜひ、見たい! ……ところではあるのだが……」


「うーん、今はちょっと厳しいですね」


 だよね、正直わかっていて言ったし。


「後日、落ち着いたときにでも」


「ああ、必ず時間を作る」


 そういうことで落ち着いた。

 さて、それじゃあ、用も終わったし帰ろうかな。

 今日は何しようかな、なんて思いつつ退出しようとしたところで。


 バンッ!!!


「すみません!! 緊急事態です!!」


 突然扉が音を立てて開かれて、ギルド職員が駆け込んできた。


「何事だ!!」


 ギルマスが立ち上がる。

 少し怒ったような顔をしているけど、楽しんでた時間を邪魔されたからとかではないよね?


「ドラゴンです!! マルグヴ村にドラゴンが現れたとの報告がありました!!」


「「ドラゴン(だと)!!!」」


 ギルマスとサティさんが揃って声を上げた。


 ドラゴン! 西洋風のドラゴンと言えば、ファンタジーの定番だよね。

 前に、ベルもドラゴン云々言ってたけど、やっぱりいたんだ!

 私が考えている間にも話は進んでいた。


「マルグヴ村からの早馬で、スタンピードの兆候も見られるとのことでこちらに向かって避難中とのことです」


「なんということだ……」


 ギルマスが呆然としているけど、スタンピードってあれだよね、魔物が攻めてくるやつ。

 あー、確かに一大事かも。


「ギルマス、すぐに領主様に方向を」


「あ、ああそうだな。サティ、頼む。商業ギルドにも使いを出してくれ」


「わかりました」


 ちらっと私の方を見て、サティさんが出ていった。

 報告してくれた職員も続いて出ていく。

 出ていったのを見送り、残った私はギルマスに声をかける。


「なんか大変そうですね」


「ああ、すまんな、少々大変なことになった」


 ギルマスは私にドラゴンの脅威について説明をしてくれた。


 曰く、以前にもこの北方都市にドラゴンが攻めてきたことがあったらしい。

 その時は、都市が半壊するほどの被害があった。

 それ以来、この都市ではドラゴンに過剰な反応を示す人が多い


「ドラゴンともなれば、領主様もすぐに兵を出すだろう」


 そう言いつつも、ギルマスの顔は暗い。


「しかし、どれほど兵を出しても、ドラゴンに太刀打ちできるかどうかはわからない……」


 ふーむ、どうやら、ギルマスもドラゴンをよほどの脅威と見ているようだ。


「避難民の誘導に二人がいるのが唯一の救いではあるが、あの二人をもってしてもドラゴンは厳しいだろう」


 あの二人? あ、もしかしてレアさんとカリナさんのことか。

 そのなんとか村って二人が言ってた村のことなんだ。

 なるほど、なるほど。

 うん、大分わかってきた。

 とりあえず、これは、友人のピンチってところかな?



 となればやることは一つ。


「私が行きましょうか?」


「はぁ?」


 せっかく申し出たのに、何いってんだこいつ的な反応をされた、解せぬ。


「いえ、だから、私が行って、サクッとドラゴンやっつけてこようかと」


 正直、この街がなくなると非常に困る。

 拠点も持ってしまったし、何より双子の娘達がいる。

 ドラゴンが魔物としてどんなものかわからないけど、今の私には危険はない。


「お前! どれだけ危険なことを言っているかわかっているのか!!」


 怒られた。


「大丈夫ですよ、前にもレアさん達がピンチの時に助けてますし」


「シャドウウルフの時か……、いや、しかし、ドラゴンはあれとは違う……」


 うーん、ギルマスはどうやらドラゴンっていう生物に対して、過剰な反応をしているように思えるなぁ。

 いや、でもそんなものかな?

 私も、今みたいな存在じゃなくて、普通に地球にドラゴンが出たってなると大騒ぎしてるはずだし。

 地球に魔物はいないけどね。


「でも、正直、今って私以上の適任っていないですよね?」


 すぐ駆けつけられる飛べるための魔道具もある。

 戦力としても、シャドウウルフの討伐に参加できる程度には数えられる。

 何より、私幽霊だしね。


 その辺りのことを一通り説明し、最終的には納得してもらった。


「すまないが、任せる。こちらもすぐに向かうようにする」



 見送られた私は、一度家に帰り、準備をする。


「なるほど、ドラゴンですか、いい素材になりそうですね」


 ベルに説明した時の反応がこれ。

 心配はされていない、この信頼感よ。


「それじゃあ、行ってきます」


 準備ができた私は、魔道具を起動して空に飛び立った。



 そのなんとか村は、距離的には馬で3日程度のところらしい。

 馬で3日とか言われても、速度がわからないから距離は全然わからない。

 でも、飛んでいける私ならすぐに着くだろう。

 まさか、この魔道具がこんなすぐに役立つと思わなかったよね。


 30分ほど飛んだところで、遠くに人の一団が見えた。

 同時に、飛んでいる大きな生物。

 あれが噂のドラゴンかな?

 思っていたよりも一回りくらい大きい。

 ドラゴンは、火の玉を吐き出し、一団に撃とうとしている。

 一団の先頭にいるのは、レアさんだ。


「ちょちょちょっ!」


 慌てて、指輪から魔法剣を取り出して降った。

 魔法剣から飛び出した風が火の玉と衝突、爆発が起きた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る