第101話 新アーティファクトの相談

 冒険者ギルマスからアイテムを受け取った私は、ミドリの家のレストランで話をしていた。


「それで、これをつけると物が軽く感じるらしいんだよ」


「これが本当の魔道具ってやつ?」


 ミドリは物珍しそうに、ペットボトルのキャップみたいな魔道具を見ている。

 そういえば、向こうから持ってきたのポーション以来かな?


「例えばこのテーブルに貼り付けてみると」


 ミドリから魔道具を受け取り、目の前のテーブルに貼り付けてみる。


「持ち上げてみて」


 ミドリを促し、テーブルを持ち上げさせる。


「うわっ!」


 抱えるように持ち上げようとしたミドリだったが、あまりの軽さに勢いよく後ろに転げそうになった。


「おっと、危ない」


 それを予期していた私は、後ろからミドリを支える。


「ありがとうハル、うわぁ、本当に軽いなぁ」


 ミドリは不思議そうに机を持ち上げたりおろしたりしている。


「あれ? なんか少し重くなってきた気がする?」


 おっと、今のままだとあんまり時間が持たない。

 すぐにミドリにテーブルを降ろさせる。


「と、まぁ、そんな感じで、物の重さを軽くする道具なんだよ」


 びっくりした? と聞いてみる。


「うん、思ったより全然重さを感じなくなって、びっくりしたよ」


 ミドリは腕をさすりながら答えた。


「これがあったら色々と便利になりそうだなぁ、家の食材とか重くて大変なこともあるから」


 あー、ミドリは欲しそうにしているけど。


「残念ながら、さっきみたいに効果時間があんまり長くないみたいなんだよね」


 体感で言うと、1分で効果がなくなる。

 それに、もう一回使えるようにするまで一日かかるとのこと。

 短時間だけ軽くするって考えると使い道は限られてしまう。


「ハルはこれをどうするつもりなの?」


 ミドリはこの魔道具のがそのままでは使い道があまりないことがわかったのか、私がどうするか気になる模様。

 そりゃ、私が自信満々に取り出したからね。

 何か考えてるのはわかるか。


「そうだね、それじゃあ、こいつを」


 私は魔道具を手に持ち、少しだけ魔力を込める。

 もう一回机に貼り付け、ミドリに持ち上げさせる。


「あれ? また軽い? あ、これ充電式なんだ」


 そう、この魔道具は魔力を注ぐと復活するのだ。

 1日置くとまた使えるようになるってことでピン来て試してみたらできた次第だ。

 多分、周りから魔力を吸収してるんだけど、それに時間がかかる感じなのかな? それを私が補助してあげればすぐにまた使えるようになるのだ。


「それに、こうしてあげると」


 私はミドリに持ち上げさせたまま、魔道具に魔力を注ぎ始める。

 さっきは、すぐに重くなってしまったけど。


「魔力を注ぎ続けることも可能なんだよ」


「ホントだ、ずっと軽いままだ」


 つまりこの魔道具、私が使えば、私の魔力が続く限りずっと使えるということになる。


「へぇ、つまりハルは使い放題ってこと?」


「うん、まぁ、そういうこと。他に魔力を持ってる人がいれば同じように使えるかもだけど、私はまだ見たことないなぁ」


 魔力付与ポーションを飲ませれば使えるかもだけど、あんまりやらせたくはない。


「お姉ちゃん、カナも! カナも試したい!」


 これまで黙って私達の実験を見ていたカナがついに我慢できなかったのかはしゃぎだした。

 実験するから少し見ててといったんだけど、本当に大人しく見ていてくれたみたいだ。


「あ、それじゃあ、ついでにもう一個面白いことしようか」


 ミドリにテーブルを降ろさせて、魔道具を剥がす。

 また少しだけ魔力を込めて。

 それを、ミドリに貼り付けた。


「えっ?」


「それじゃあ、カナ。ミドリを持ち上げてみて」


「わかった!」


 驚くミドリだったが、すぐにカナがミドリを抱え。


「うわぁっ!!」


 カナがミドリを持ち上げた。


「凄い! 軽い!」


「ちょっ、カナちゃん! 下ろして!」


 楽しそうにミドリを上下するカナに対して、ミドリは焦っている。

 そりゃ、その歳になって高い高いを味わうのは少し怖いよね。


「あ、カナ、そろそろ下ろして」


「はーい」


 魔力が尽きる前に下ろさせる。

 地面についたことに安心したのか、ふぅ、とため息を着くミドリ。


「つまりこの魔道具は生きている生物に対してもつけることができるってわけ」


 この魔道具の対象は、物だけではなく、人につけることが可能だ。

 実際に、冒険者ギルドでギルマスをサティさんに持ち上げてもらって判明した事実だ。

 あの時も、ギルマスはかなり焦っていた感じだったなぁ。


「確かに、人に使えたら面白いかもしれないけど、それで?」


 ミドリが若干ジト目のまま私に聞いてくる。

 カナに持ち上げさせたの根に持ってる?

 それに、この凄さがまだ伝わりきってないかな?


「わからない? この魔道具、要するに貼り付けた物の”重力操作”ができる魔道具なんだよ」


 軽くする方向限定という制限の抜かしてもこれは凄いことだと思う。


「確かに、そう聞いたら凄い……ってまさか?」


 ミドリはどうやら私が何をしようとしているか察しがついたようだ。


「そう、これを使えば夢の”空を飛ぶための魔道具”が作れるかもしれないんだよ」


 単独飛行は人類の夢の一つと言ってもいいくらいだと思う。

 それを実現できるかもしれないのだ。

 そりゃ興奮もするよ。

 えっ? 幽霊は人類に含めてもいいのか? って?

 それはまた別の話しだよ!

 という話を熱く語り、私はもう一つの鍵となるアイテムを取り出した。


「これ、前にでっかい蜂の魔物を倒した時の風の魔石なんだけど、魔力を込めれば風が出せるんだよ」


 試しに、込めてみると、ゆるい風がミドリとカナの髪を揺らす。


「うわぁ、なんか思ってたより魔法っぽくないけど、確かにできそうかも?」


 まぁ、軽くした上で、風という力を使って浮くだから、魔法っぽくはないかも?

 いや、でも、軽くするのも、風を出すのも魔法の力だからね。


「なるほど! さすが天使様です!」


 と、これまで黙って私達を見ていた第三者が声を出した。

 カナと同じように、黙って私達を見ていたんだけど、やっぱりカナよりは長く我慢したね。

 まぁ、その我慢できなくなって出た言葉がアレだけど。


「今更ですけど、どうしてトキコさんがいるんです?」


 トキコさんと、その娘であるミリナちゃんは私がいる前からレストランにいた。

 今は営業中ではなく休みの時間なんだけど。


「それは、天使様にまた会える……、おっと、うちの娘がカナちゃんに会いたいと言うので」


 ちょっと気になるけど、スルーしよう。

 つまり、二人は仕事とかではなく、プライベートで遊びに来たということらしい。

 ちらっと、ミリナちゃんに目を向けると、さっと、トキコさんの後ろに隠れてしまった。


「すみません」


 トキコさんに謝られた。

 どうやらミリナちゃんは、幽霊が苦手とのこと。

 でも、私のことは恩人だとわかっているらしく、露骨に怖がったりはせず、興味もあってチラチラ見ている感じだ。

 怖いというより、どう反応したらいいかわからないみたいな感じ? そのうち慣れてくれるとは思うけど。


「カナ、ミリナちゃんと遊んできていいよ、こっちはちょっと難しい話になるから」


 というわけで、ミリナちゃんの対応をカナにお願いしておく。

 カナがミリナちゃんの手を引いて別のテーブルに移動する。

 うんうん、妹にもちゃんと友達ができたようで嬉しいね。

 どうやらミリナちゃんはカナと同じ歳らしく、カナが通っている学校に転校してくることが決まっているらしい。

 そういう意味でも仲良くなってくれるとありがたい。



 カナ達が遊び始めるのを見送り、再び魔道具の話に戻る。


「そもそも、ハルって幽霊でしょ? 飛べないの?」


 いきなりミドリに痛いところをつかれた。

 それねぇ……


「私も何度も試したんだけど、どうにも飛べないんだよね」


 幽霊だったら飛べても不思議じゃないとは思うんだけど、多分、私の意識が残り過ぎてるからかな?

 なんで幽霊って飛べるの? とか考えているうちは無理なんだと思う。


「壁のすり抜けは、一度できたからできるものだと思えるんだけどねぇ」


 私の手がテーブルをすり抜ける。

 こっちに来てすぐの頃に、魔物に追いかけられてパニックになった時にすり抜けたのがきっかけだ。

 同じようにきっかけがあれば飛べるようになる気がするんだけど。


「そんなわけでこれが一つのきっかけになればいいなぁって感じ」


 魔道具がなければ飛べない、みたいな意識になりそうなのはこの際置いておく。


「そういう意味で、飛べるって意識し易い形にしたほうがいいかとは思うんだよね」


 その方が、飛ぶって意識しやすいし。

 例えば、そう鳥みたいな……


「翼にしましょう!」


 とトキコさんが叫んだ。


 羽はたしかに、飛ぶモチーフとしてはこの上ないし、いいなぁとは思うんだけど。


「白い天使の翼! 天使様にふさわしいです!」


 と興奮するトキコさん。


 人に翼をつけるって言うとどうしてもそういう方向に言っちゃうんだよねぇ……


 ただでさえ天使扱いされてるのは恥ずかしいんだけど、どしたものかなぁ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る