第95話 一番簡単なハンバーグの作り方

 広めたくないなら、そもそも知っている人に教えればいいじゃないの発想だ。

 サティさんだって、レストランの娘、料理くらい……


「私、料理はあまりやったことがないのですが……」


 おうふ……

 これは予想外。

 ミドリは普通にできてたから似たような一家であるサティさんもできると思ってしまった。

 うん? いや、待て?


「できない、ではなくてやったことがない、ですか?」


 私みたいに、できない、ならしょうがない。

 ただ、やったことがないなら話は別だ。

 試して見る価値は十分ある。


「というわけで、私のお家に戻ってきました」


「あ、はい? ハルさん? 誰に説明をしているんですか?」


 いや、なんとなく、これから料理を作ろうと思うとなんか変なテンションになっただけです。

 早速、調理を進めていこう。


「さて、具材ですが、今回は私が持っていたウルフ肉を使います」


「ウルフ肉ですか? もっと高級なお肉じゃなくて良いのですか?」


「うーん、私はこのあたりのお肉には詳しくないですが、別にこれといったお肉の決まりはないですね」


 流石に、食用じゃないお肉は駄目だろうけど。


「あ、高いお肉が少なければ混ぜるということもできますね」


 私は、残っていたオーク肉も取り出す、どうせだからこいつも使おう。

 オークとウルフの合い挽き肉ってやつだ。


「混ぜる? お肉を混ぜるんですか?」


 わからないという感じのサティさん、まぁ、予想どおりだね。


「はい、つまりは、こういうことです」


 言いつつ、お肉を切り始める。

 何度も何度も切って、細切れになるまで細かく。


「ちょ、ハルさん!? 何をしているんですか?」


 サティさんがびっくりしているけど、気にせず切る。

 たまに、指とか切っている気がするけど、全く気にせず切る。

 やっぱり幽霊って便利だね、包丁持ったら指を切るなんて言われる私が無傷で済むんだから。

 しかし、この切る過程めんどくさいなぁ……

 フードプロセッサーでもあれば良いんだけど、流石にないよね……

 まぁ、今はこうやって手動でやるしかない。


「あ、サティさんもそっちのお肉を同じようにお願いします」


「は、はい」


 サティさんは戸惑いつつも同じようにしてくれる。

 そうして、ある程度、細かくなったところで、


「じゃあ、これを混ぜます」


 ウルフ肉とオーク肉を混ぜ込む。


「なるほど、たしかにこれは混ぜる……ですね」


「ええ、細かくすることによって別種類の肉を混ぜることができます。高級肉を安い肉でかさ増しすることができますよ」


 これはミドリが言っていたことの受け売りだけどね。

 でも、サティさんは納得してくれた。


「なるほど、勉強になります」


「さらに言うなら、肉が少ない時は、パン粉とか混ぜるといいですよ。まぁ、混ぜ過ぎると肉の味が薄くなりますが」


 正しい分量はわからないので、教えられない。

 というか、今私が混ぜたらおかしなことになりそうなので。


「さて、ある程度2つのお肉が混ざりあったら、ここに塩を足していきます」


 ここで、サティさんにバトンタッチして私は後ろに下がる。

 調味料から先は私は手を出してはいけないのだ。


「えっと、塩はどのくらい入れたら……」


 えっ? 塩の量?


「……適当でどうぞ」


「えっ?」


「少量ずつ捏ねていきましょう、粘り気が出てくれば正しいです」


「えっと、あ、はい」


 私の指示通りにサティさんが少し入れては混ぜてを繰り返す。

 正しい塩の量なんて私が知るわけないじゃないの。

 しかし、そんな私のアバウトな指示でもサティさんはやってくれた。


「ハルさん! なんか粘ってきましたよ!」


「それです! その状態です!」


 サティさんが混ぜてくれたお肉は無事にハンバーグの種になった。


「それじゃあ、次はそれを手のひら分くらい手に取って、こんな感じで左右で投げ合います」


「このくらい……、こんな感じですか?」


 私のジェスチャーを再現してくれるサティさん、うん、上手。


「これにはなんの意味があるんですか?」


 意味? えっと、


「確か、中の空気を抜くんだったかと? 焼いた時に爆発しないように?」


「爆発するんですか!?」


 サティさんが驚いたようにこっちを見る。


「あ、いえ爆発と言っても、弾けるくらいですよ。それにちゃんと空気抜きをしておけば大丈夫です」


「わかりました」


 サティさんは真剣な顔をして左右のキャッチボールをし始めた。

 まぁ、真剣なのはいいことだよね。


「ある程度、やり取りしたらこれを焼いていきます」


「はい」


 用意したるはフライパン。

 料理しない私の家には必要ないものだったので、帰りにわざわざ買ってきたやつだ。


「こいつの中心に載せて、火をつけます」


「ハルさんのところは火の魔石なんですね……」


「はい、まぁ、貰い物です」


 サティさんのところは、普通に薪で火を起こす感じだったね。

 この魔石は森の家にあったやつをそのまま持ってきたものだ。

 サティさんの反応からするとなかなかに良いものなのかな?


「えっと、どのくらいやけばいいんですかね?」


「片面焼いたらもう片面も焼いて、後は中も焼けるのを待つという感じですね」


「……はい」


 詳しい時間? そんなのわからんよ。

 なんだっけ? 竹串で指して判断するんだっけ? そんなの私ができるとでも?

 サティさんは、ここまでの工程で色々と察してくれたようだ。

 真剣に見つつ、ひっくり返したりしている。


「多分、このくらいで……!」


 直感でも働いたんだろうか、サティさんがフライパンを火から上げる。

 すかさず取り出したお皿に出来上がったハンバーグを載せる。


「おおっ! 見た目凄いハンバーグですね!」


「でき……ました!」


 これが初めての料理とは信じられないくらいにちゃんとしたハンバーグだった。


「それじゃあ、一応食べる前に、中がちゃんと焼けているかを確認しましょう」


 半生だったりすると大変だからね。

 地球でも大変なんだから、こっちだともっと大変なことになっちゃう。


「はいっ!」


 ドキドキしつつサティさんがナイフを入れてハンバーグを半分に割る。

 中は……


「赤くない! ちゃんと火が通ってます!」


「つまり……」


「はい、ちゃんとしたハンバーグ完成ですよ!」


「本当ですか!」


 サティさんは喜んでくれた。

 とりあえず、


「半分に割ったの分けて二人で食べてみますか」


「はい、そうしましょう」


 今回作ったハンバーグは手のひらサイズのそこまで大きくないものだ。

 さて、サティさんの初めての料理、お味は……


「美味しい!」


 サティさんが一口食べて思わずという感じで叫んだ。

 私も一口。


「はい、美味しいです」


 外側がきっちり焼かれていて、それでいて硬すぎることなく、しかし中まできちんと火が通っている。

 口に入れた途端に肉汁があふれるのが美味しい。


「こんな柔らかいお肉、こんなものを私が作ったなんて……」


 自分で初めて作った料理なら感動もひとしおなのだろう。

 しかし、サティさんが少し苦笑いをする。


「初めてハルさんに頂いたハンバーグのほうが美味しかったような気がします」


 あー、それは、ねっ……

 魔力というスパイスがいっぱい入っているからなんですわ。

 とは言えずに、私も苦笑いを返すのだった。



 そんなわけで、サティさんに簡単なハンバーグの調理法を教えた後、私の知る限りの知識も教えた。


「なるほど、細切れにした玉ねぎ……、それにチーズ……! 派生も沢山あるんですね」


「そのあたりの研究は、サティさんのレストランの方でやっていただければと」


 サティさんの父親、料理の焼き加減だけでレストランやってたくらいなんだし、そういうのは得意そうに思う。


「はい、お任せください!」


 何度も何度もお礼を言った後、サティさんは帰っていった。

 家に帰って父親にも教えるんだそうだ。

 ちなみに、私の方でその許可は与えてある。

 お店にメニューとして出す時は、さらに私の許可が必要らしいけど、普通に出すつもりでいる。

 良いことしたなぁなんて思いながら、私は一日を終えることにした。


「ハルの教え方は適当すぎる」


 地球に戻ってアミドリにハンバーグを教えたことを話したら、怒られてしまった。

 お陰で、今度は私が生徒になってミドリにハンバーグの作り方を教わることになってしまった。

 しかし、教えると言う割にキッチンには入れてくれなかった。

 解せぬ。




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