第94話 異世界の食堂

 サティさんの実家は、街の南側の商業エリアにあった。


「ここです」


 サティさん示したのは、どこにでもあるレストラン。

 しかし、


「開店中……なんですよね?」


 人が入っている気配が全くない。

 というか、外から見える客席は全部空いているように見える。


「ええ、先程話した通り、お客を取られてしまってですね……」


 サティさんは、ちらっと目線を向けた先には一件のレストラン。

 なんというか、見た目がファーストフード店?

 どこか、チェーン店味を感じる量産したようなお店に見えた。

 激安って先に聞いてたからそのイメージもあるかな?

 そして、そのお店は外から見るとほぼ満席。

 サティさんはどこか、悔しそうにお店を見つめているたが、


「すみません、では、こちらにどうぞ」


 私のことをお店に案内してくれた。


 お店の中に入ると、そこは落ち着いた空間だった。

 なんとなく、ミドリの家のレストランと同じような雰囲気だ。


「いらっしゃ……なんだ、サティか」


「ただいま、ママ」


 出迎えてくれたのは、エプロンを付けた婦人。

 ママということは、この人がサティさんの母親かな?


「パパは?」


「いつもどおり、奥で料理の研究中よ」


「そっか、ちょっと見てくるね」


 言うと、サティさんがちらっと私の方を見たので、頷いて返す。

 ちなみに、私は、いないことになっている。

 別に話してもいい気はしているんだけど、やっぱり初見の相手は警戒しないとだからね。

 そんなこともあって、しばらくは内緒のままでお店の中を見せてもらうことになってる。

 あ、ちなみに、私はまだ言葉半分くらいしかわかってないけど、サティさんが翻訳してくれている。

 ちょっとラグはあるけど、話の流れを追うくらいは問題ない。


 ガラガラな客席を眺めつつ、奥に向かう。

 この配置なら奥はキッチンでそこにサティさんの父親がいるのだろう。

 サティさんの後ろについてキッチンに入る。


「ただいま、パパ」


「……」


 そこにいたのは大柄な男性。

 エプロンと帽子を被っている、いかにも料理人という格好だが、体格によって料理人には見えない。

 冒険者と言われたほうが納得がいく。

 そんな男性はちらっと、サティさんの方を見ると、軽く頷いてまた前に向き直った。


「調子はどう?」


 サティさんが声をかけると、またちらっとサティさんを見て首を振る。

 うん? この人喋らないのかな?

 こんなところまでミドリのところのレストランと似てなくていいのに。


 しばらく、黙々と料理をするのを眺めた後、


「私、部屋に戻るわ」


 サティさんとともに、その場を去った。

 向かった先は、


「私の部屋です」


 サティさんの部屋らしい。

 サティさんのイメージ通りの小綺麗な部屋だった。


「ハルさん、いかがでしたか?」


 サティさんが椅子を差し出してくれたのでそこに座る。

 二人きりになったからやっと喋れる。

 しかし、いかがでしたか? か……


「うーん、危機感が非常に伝わってきました」


「ですよね」


 まず、客0というのが非常にまずい。

 しかし、それよりも気になったは、


「あの料理の研究って何をしてたんですか?」


 サティさんの父親がキッチンでやっていた作業だ。


「食材を切って、塩を振って焼いているだけに見えましたが」


 そう、サティさんの父親がやっていた研究。

 食材、主に肉を切って、塩を振って焼いての繰り返しだった。

 多少、塩の量を変えたり、焼く時間を変えてはいるみたいだったが、それだけ。


「……? 料理とはそういうものではないですか?」


「……」


 サティさんの反応からするに、あれがこの世界の一般的な料理なんだろう。

 塩を振るだけで美味しくなる時ももちろんあるけど、それは素材がよほどいい時。

 我々日本人からするとやっぱりちょっと物足りないという感想になる。


「ちなみに、胡椒は……」


「そんな高級品はこんなレストランでは手に入りませんよ」


「あ、はい」


 どこか呆れたように言われてしまった。

 地球の歴史的にも胡椒は戦争まで起こしている高級品だ。

 黒いダイヤは伊達ではないのだ。


 この感じだと、他の調味料もないだろう。

 つまり、現状は肉の材質で勝負するしか方法がないということ。

 焼き加減などを工夫するというアティさんの父親がやっていたことしか活路がないというわけだ。


「なるほど、そういうことならたしかにハンバーグはぴったりですね」


「はい、あれほどの料理ともなればお客さんもきっと戻ってきてくれるはずです」


「まぁ、美味しさについては努力次第ですけどね」


「そこは、父がきっとなんとかしてくれます」


 うん、まぁ、あの焼き加減工夫するよりはいい結果にはなると思う。


「それで、どうでしょう」


 このどうでしょうは、教えていただけますか? ってことだよね。

 うん、まぁ、なんとなく人となりも見えたし、なにより、レストランの雰囲気がミドリのところと似すぎてて放置するには気が引けるんだよね。

 なので、教えるのは構わない。

 問題は……


「どうやって教えれば良いんでしょうね?」


 結局それに尽きる。


「えっと、ハルさんに作っていただくのでは駄目なのですか?」


 私の料理ね……


「私、錬金術を使わないと料理できないんですよ……」


 私の料理の壊滅っぷりは、割りと酷いものだ。

 焼けば食材を焦がし、煮るとは毒物が出来上がる。

 レシピ通り作ってるつもりなのに、これいかに……

 ちなみに、ミドリからは、「お願いだから、店のキッチンには入らないでくれ」と言われている。

 なんだろう、なにか悪いものでもばらまくと思われているのだろうか?


「それでは……、レシピかなにかを書いていただくとか……」


 まぁ、そうなるよね……


「私、字かけないんですよ……」


「あっ……」


 なんとなく、言葉を聞けるようにはなってきたけど、読み書きはまだまだなのだ。

 勉強はしているんだけどね……


「となると、残りの手段としては……」


「私が横で見つつ指示するくらいですかね?」


 そうなると、サティさんの父親に私のことを話さないといけないんだけど。


「個人的には自分のことあんまり広めたくはないんですよね……」


 最近、いろんな人に喋っている気がしているけど、やっぱり幽霊だからね。

 変に広まっちゃうのは避けたいところ。

 サティさんの両親を信用していないとかので、他の手段があるなら避けたいということろ。


「他の手段……とは?」


 私が思いついた手段、それは簡単だ。


「サティさんが作る横で私が指示すればいいんですよ」


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