第93話 ハンバーグが美味しい
ポーションの納品を最終的にどのくらいにするかは上の判断待ちということになった。
「ギルドマスターに相談しますので、また明日同じくらいの時間に来ます」
とのことで話は締めくくりになった。
一息ついて、サティさんは思い出したように双子の方をじっと見る。
「ハルさん……」
「はい?」
本題も終わったから、双子の話題に戻る感じ?
「あの子達が食べていたアレはなんでしょう?」
あ、そっち。
ちなみに、双子はもう食べ終わっていなにやら遊んでいる。
アレというのは机の上には私の食べかけのハンバーグのことだ。
もう冷めちゃってるかな。
「あれはハンバーグと言いまして、肉料理です」
「肉料理ですか? しかし、あのような形状のお肉は見たことがありませんが……」
「いえ、あれは先日サティさんにいただいたオーク肉ですよ?」
「あれがですか!?」
サティさんがびっくりして私の食べかけを見ている。
これはあれかな? 肉は焼くだけでミンチにするとかいう調理法? がないのかな?
というか、流石に食べかけをじっくり見られると恥ずかしい。
「……残りがありますが食べますか?」
「あ、いえ、そんないただくわけには……」
と言いつつも、目がハンバーグから離れない。
ここは強硬する。
「こちらをどうぞ」
指輪から保存しておいたハンバーグを取り出して、お皿に置く。
お皿は森の家にあったのをまとめて放り込んでおいたものだ。
「こんな料理見たことがないです……」
やっとサティさんの目が私の食べかけから離れたのを見て安心する。
私のやつは冷めちゃってはいるけど、ひとまず指輪に入れておいてまた後で食べよう。
「いったいどんな味が……」
あ、そっか、フォークも必要か。
取り出して渡す。
「どうぞ、召し上がってください」
サティさんは少しためらった後に、素直にフォークを受け取る。
「ありがとうございます」
サティさんはなぜか緊張したようにフォークでハンバーグに手をつけ、
「やわらかい……、それに肉汁が溢れて……」
口に運ぶ、その瞬間。
サティさんの目が見開いた。
「こ、これは……、美味しすぎる!!」
無事気に入られた模様。
「一体どんな調理法をしたのですか! こんな柔らかいお肉は食べたことがない」
調理法?
「錬金術で作りましたよ?」
「錬金術? あれ? それはポーションなどを作っている不思議な術ではなかったですか?」
うん。まぁ、そういう認識だよね。
「それであってます、まぁ、それの応用として簡単な料理もできるわけです」
「なるほど……、そうなると、ハルさんしか作れないわけですね、残念です……」」
私がそう言うと、サティさんは名残惜しそうにハンバーグを見る。
ちょっと説明不足かな?
「えっと、錬金術で作ったのは確かですが、錬金術なしでも再現できると思いますよ?」
そもそも、地球のハンバーグとか錬金術使ってないわけだし。
ひき肉にしたり、魔力という名の調味料が入っていたりはするけど、基本的には同じものが作れるはず。
「本当ですか!?」
私の言葉にサティさんは大げさな反応をした後、
「お願いです。ハルさん、ハンバーグの作り方を教えてください!」
すごい勢いで頭を下げたのだった。
「もちろん、タダでとは言いません! 対価……はすぐには無理ですが、必ずお支払いしますので!」
なんか、凄い熱量だなぁ……
流石にこんな反応されるとは思ってなくて若干ついていけてないよ。
「えっと、別に対価とかいらないですけど? 簡単なものですし」
「そんな、こんな美味しい料理をタダで教えていただくわけには……」
「いえ、別に私が開発したものではありませんし」
言っておいてなんだけど、このセリフ、どこかで見た気がする?
そうか、ミドリに教えてもらったライトノベルで読んだんた。
つまり、地球の料理無双ってやつ? その始まりかな?
「ともかく、そんな大したものではありませんので、お教えしますよ」
私の言葉に、サティさんは頭を振った後、
「すみません、私の方の事情をきちんとお話するべきでした」
サティさんの事情?
「実は私の実家は料理屋をやっておりまして……」
サティさんの話は、どこにでも、地球にでもある世知辛い話だった。
サティさんの実家は、ミドリの家と同じようなレストランを経営して、美味しいレストランとして安定した経営をしていたらしい。
しかし、ある時、近所に同じような系統のレストランができたらしい。
そのレストラン、味はともかく安いということで、大勢の人がそちらに移ってしまった。
それだけならまだ、味を求める客がこちらに来ていて問題はなかった。
しかし、お店に納品される食材の質が低下するということが起きた。
納品する商人に聞いても、これまでと変わらないと言うが、あからさまに品質の悪いものも納品されるようになった。
おそらく、近所の激安レストランからの圧力がかかっている様子なのだが、どうにも証拠がつかめない。
現在もほぼ開店休業状態で、このままでは閉店するしかない。
というところらしい。
うむぅ、世知辛いなぁ……
一応推測ではあるけど、他店から嫌がらせを受けている状態なのか。
まぁ、状況証拠からするとほぼ確定らしいのだけど、うまく証拠がつかめないと。
「ちなみに、どうしてそんな嫌がらせみたいなことされているのか理由ってわかりますか?」
「ええ、どうやら、そこの店主が元々うちのお店で働いていた人らしいんです」
「サティさんのところの店の従業員だったってことですか?」
「はい、しかし、腕はともかく、なにやら問題を起こしたらしく、首にしたらしいのです」
「はぁ、それで首になったのを恨んでいる……ということですかね?」
「はい、父はそう言っていました」
なるほどね、又聞き情報だからどっちが悪いかなんてわからないけど、少なくとも、嫌がらせするなんてするくらいには性格の悪い人だったんだろうね。
「先程食べたハンバーグ、あれをお店で出せるようになればきっとお客さんは戻ってくるのではないか、そう思ったのです」
うーん……
「たとえ教えたとしても、品質の悪い食材の問題は解決していないような気がしますが、大丈夫なんですか?」
「はい、幸いお肉に関しては、私の伝手もありまして、冒険者ギルドから多少のは入手することができています」
あー、そういえば、オーク肉もサティさんからもらったものだったね。
それなら、肉は大丈夫か。
そう考えると、肉と塩だけでできるハンバーグはたしかに有効かも?
まぁ、ひとまずのところ、
「サティさんのお店とその嫌がらせのお店に連れて行ってもらえますか?」
状況を見てから全部判断したいよねってことで。
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