第86話 商店街の危機?

 これくらいの3Dモデルだったら数日でできるとのことだったので、あとはそれを待つだけだ。

 受けてもらえたのはいいけど、時間が空いてしまった。

 まぁ、やりたいことはいくらでもあるからいいんだけどね。

 具体的には……


「ねぇ、ハル!」


「きゃっ!」


 何!? あ、ミドリか。


「ようやく、気がついた。さっきから呼んでたんだよ」


「そうだったんだ。ごめん、考え事してた」


「まぁ、慣れてるからいいけどね」


 私が考え事すると自分の世界に入るのは割とよくあること。

 なので、ミドリも慣れていると。

 うん。しょうがないね。


「それで、どうかしたの?」


「あ、えっとね……」


 私が尋ねると、ミドリは少し言いづらそうにした。

 なんだろう?


「ハルはショッピングセンターの話聞いてる?」


 ショッピングセンター?


「いや、何も聞いてないけど」


 もちろん、単語自体は知ってるけど。

 言いたいのはそういうことじゃないだろう。


「近くにできるんだって」


「あ、そうなんだ」


 この近所にショッピングセンターね……


「それって大丈夫なの?」


「うーん……、大丈夫……とは言い難いかも?」


 正直、一市民としては近所にショッピングセンターができるっていうのはありがたい話ではある。

 けど、私の家は、商店街の中にあるし、そもそもミドリの家はその商店街で喫茶店をやっているのだ。

 お客さんの取り合いになることはらくらく想像できる。


「一応、明日、あっちの代表者がうちに挨拶に来るみたいなんだけど」


「うん? ミドリの家にってこと?」


 なんで? 別にミドリの家は商店街の代表ってわけじゃないはずだけど。


「詳しくはわかんないけど、向こうからの指定でうちと話がしたいんだって」


「ショッピングセンターの代表がわざわざ指定ねぇ」


 指定してきたからには何か理由があると思うんだけど。

 たまたまミドリの両親と知り合い……とか?


「うちの両親もさっぱり理由がわからないんだって」


 うーん、じゃあわからんね。

 でも、やっぱりちょっと心配だなぁ。


「えっと、明日って言ったよね」


「あ、うん。明日の昼前に来るって話だよ」


 昼前か……

 向こうで言うとド深夜で、最近の私の生活スタイルだとちょうど寝てる時間だけど……


「頑張って来れるようにしてみるよ」


「ほんと?」


「まぁ、私がいてもなんの役にも立たないけどね」


 そもそも相手から私は見えないわけで。

 話し合いにも参加できない。

 まぁ、変な人だったらちょっといたずらするくらいはできるかもね。

 場合によっては、幽霊らしく祟りみたいな霊障を起こすのも悪くないかもね。

 こちとら本物の幽霊だし。


「ハルがいてくれると安心するよ」


「あんまり期待しないでね」


 まぁ、そうそう変なことはできないからね。

 結局のところ私自身の気分の問題だ。

 後で話し合いの結果を聞くよりも直接聞いてた方が後々のためになるかもだし。


「さて、そうと決まったらちょっと早いけど、今日は帰ろうかな」


「え、もう?」


「うん。向こうで昼寝でもして夜に備えるよ」


 いざ来ても眠くて寝ぼけてたとかだと、意味ないしね。


 ミドリとカナに挨拶をして帰ることにした。

 それにしても、ショッピングセンターの代表ね……

 どんな人なんだろうね。



 そんなわけでいつもならば寝ている時間に地球にやってきた。

 向こうで昼寝に時間は取ったから眠くなったりはしないはず?

 というか、よくよく考えたら幽霊なんだし寝る必要はないのかも?

 幽霊になってから結構時間経つけど、結局習慣は変えられていないね。

 それだけ人間にとって睡眠って大事なんだね。

 まぁ、私は幽霊だけど。


「そろそろ来る頃だと思うんだけど」


 昼前と聞いていたからそのくらいに来たわけだけど。

 いつも通り移動してきた家の2階から外を眺めてみる。

 と、


「なんか高そうな車が止まってる……」


 隣の家の前に人目でわかる高級そうな車が止まっている。

 うん? ひょっとしてもう来てる?

 私遅刻した?

 よく考えたらいつも出迎えてくれるカナもいないし、もしかして話し合いはもう始まってる?


 慌てて階段を駆け下りて隣の家に急ぐ。

 窓の外から眺めてみると、

 ミドリの一家とそれと対面するようにスーツを着た女性が一人座っている。

 また、それと少し離れたところにミドリとカナ、それと見たことのない女の子が一人座っている。

 女性は後ろからだからよくわからないけど、女の子の方はカナと同じくらいの歳くらいかな?

 カナもミドリも笑顔なことから悪い雰囲気じゃないことは伺える。

 あの女性の人が代表って人なのかな?

 あれ? 女の人なの? てっきり男の人かと思ってたんだけど。


 ちょっと見てたけど、大人組の方も雰囲気は悪くなさそう。

 ミドリのお父さんは相変わらず無愛想だけど、お母さんの方は時折笑顔を浮かべている。

 とても敵対する競合がやってきたような雰囲気じゃないんだけど?


 というか、私ここに入っていって大丈夫かな?

 予定だと話し合いの始めから端っこの方で聞いてるつもりだったから何も考えてないや。

 今更入れる雰囲気じゃないんだけど、どうしたもんかなぁ……


 困っているとカナと目があった。

 あ、まずい……

 今日は着たばっかりだから、ミドリや両親に魔力ポーションを渡してない。

 つまり、私のことが見えるのはカナだけ。

 ミドリ家族だけならいいけど、今はお客さんもいるし。

 私のことを言及したらカナが変な目で見られてしまう。

 なんとか、カナが私のことを口にする前に止めないと。

 でも、どうやって……

 焦っているとカナの視線に気がついたのか全員が私の方を向いた。

 当然私の方をちゃんと見れているのはカナだけ……

 のはずだったんだけど、

 代表者らしき女性の人と目が合って会釈までされてしまった。

 あれ? と思っていると、

 女性の人が驚いたように目を見開いた。

 あれ? ひょっとしてこの人私のこと見えてる?

 それになんだかどこかで見覚えがあるような?


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