第87話 天使扱いされてる
どこか見覚えのある人と目を合わせること1秒ほど。
カナたちに釣られるように他の人達もこちらを見るけど、いかんせん見えないようで目が合わない。
合っているのはカナと先程の女性、それに女の子も?
と、そうこうしているうちに、カナがこちらに走ってきてしまった。
「お姉ちゃん!」
ああ、もうこうなったら無視するわけにもいかないよね。
覚悟を決めてお店の中に入る。
扉を開けて入ったわけだけど、当然ながら向こうからは見えていないので困惑の表情を浮かべている。
カナに手を捕まれ、一緒に話し合いのテーブルに寄る。
その間も代表者らしき女性は私のことを見つつも、皆の反応に気が付きキョロキョロと戸惑っているみたいだ。
うん、これ完全に私のこと見えているよね。
とりあえず、これはもう全部説明しちゃったほうがいいかな。
そのためにも、
『これ全員にお願い』
念話しつつテーブルの上に、魔力付与ポーションを人数分出す。
それを見てナナミさんが話す。
「えっと、聞きたいことはあると思いますが、先にこちらをお飲みいただけますか?」
ついで、カナも一本を持ち女の子の方へ向かっていく。
そっちは一旦カナに任せよう。
ミドリ一家は慣れたようにポーションを口に運ぶ。
女性は戸惑ったようにポーションと私を見比べ。
しかし、すぐに飲み始めた。
すごいなこの人、私だったらいきなりこんなもの出されても色々と先に聞いちゃうよ。
ちらっと見ると、女の子の方もポーションを口にしていた。
よし、とりあえず、これで全員私のことが見えるだろう。
さっきと違って全員私の方を見れてるし。
それじゃあ、
『どうも、そこにいるカナの姉で、隣に住んでいますハルと言います』
まずは自己紹介からだよね。
「えっと、ハル……さん?」
『はい。お名前お聞きしてもよろしいでしょうか?』
「あ、はい。私は、
とりあえず、女性の名前を聞いてみたら戸惑いつつも返してくれた。
トキコさんとミリナちゃんね。
ミリナちゃんの方を見ると、目が合った……が、カナを盾にするように後ろに隠れてしまった。
人見知りなのかな? まぁ、とりあえず、いいや、今はこっち。
「えっと、お気づきかと思いますが、私は普通の人ではありません」
「……はい。なにやら皆さんお見えになられなかった様子で」
さっきの違和感には気がついてくれてた模様。
「はい、普通は私のことは見えません、なぜなら私は……」
「天使様ですね!」
…………
「はい?」
えっと、幽霊だと言おうとしたんだけど、天使? えっ?
「天使様! 先日は大変お世話になりました!」
女性、トキコさんが立ち上がって私に頭を下げた。
綺麗なお辞儀だ。
ではなく、
「えっと、先日……とは?」
「はい、先日、こちらの近所で私、事故に会いましてその時に天使様の奇跡に助けられまして……」
事故……助けた……
あっ、
「ああ! あの時の女性ですか!」
なるほど、どおりで見たことあるなぁと思ったわけだ。
ってことは、ミリナちゃんはあの時の女の子か。
「はい! 覚えていてくださったのですね!」
感激、とでも言うように満面の笑みを浮かべるアキコさん。
確かに、助けたけど、この反応は少し過剰では?
「あのままでしたらきっと私はそのまま死んでいたでしょう」
その可能性は否めないとは思うけど。
「夫を亡くし、娘を一人残すことなくこうしていられるのも天使様のおかげです」
……反応が良すぎて若干怖いよ。
『あー、いやー、たまたま近くにいただけですのであまりお気になさらず……』
困ったようにミドリ一家に助けを求める視線を向けるもスッとそらされてしまった。
その間もトキコさんはありがとうございましたと頭を下げている。
とりあえず、このままだと会話にならない。
「ひとまず、頭を上げてください。お願いします」
「はい。天使様の言う通りに」
頭は上げてくれた。
うん。けど、とりあえず、誤解をとかなくては。
「えっと、まずは私、天使とかではなくてですね……普通の幽霊なんですよ」
まずはそこから。
「普通の幽霊って……」
ミドリがなにか小声で言ってるけど、とりあえず、無視。
「もともとは普通の人間でさっき言ったように隣に住んでまして……」
どうしてこうなかったかをざっくりと説明する。
神様の手違いで事故にあって魂だけのままこっちに戻ってきていること。
それから、ポーションのことも、簡単にだけど。
「というわけでして、私からするとあのポーションは奇跡でもなんでもなく、簡単に作れるものなんですよ」
という感じで、自分的には大したことなかったと伝えてみたわけなんだけど。
「私はこんな感じの幽霊なんですが……えっと、なにか?」
トキコさんはどこか少し納得がいかない顔をしている。
いや、納得いかないというよりも不思議そうな顔?
「えっと、ハルさんは神様にお会いになられたわけですよね?」
「あ、はい。一応」
「そこで、神様になにやら特別な力を与えられたということ」
「はい。それを使って別の世界を行き来してます」
「それはつまり、神様に認められた特別な霊……やはり天使様では?」
え、えーっと、
「それは……違うんじゃないかなー?」
「それに、錬金術……でしたっけ? それも私達からすると奇跡の御業と言っても差し支えないのでは?」
「あー、それはそうかも……?」
錬金術はたしかに奇跡と言っていいくらい凄いことができる。
これは確かだけど。
「つまり、やはりハル様は天使様でその奇跡によって助けられたということでは!?」
またしても頭を下げるトキコさん。
えー、そういう結論になっちゃうのか……
どうしたもんかなぁ……
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