第85話 双子実体化プロジェクト
二人が自由に動かせる手を作った。
後は全身を作るだけ。
というわけだけど、問題が発生した。
「手くらい簡素なら作れるだけどなぁ……」
流石に全身ともなると関節多すぎるし、どこがどのくらい動くとかが難しいのだ。
なるべくいい身体を作って上げたいし、そのためには私には人体に関する基礎知識がなさすぎるのだ。
「それじゃあマスターさんはどうやって身体動かしているんです?」
「いや、なんとなく? こうしたいと思ったら身体が動く感じ」
歩くという単純な動作を考えただけでも、まずは、左右交互に足を動かすと分解される。
さらに、それぞれの足を動かすためには、股関節を動かしつつ膝を曲げて、身体の重心を動かして……なんてのが必要なわけだけど。
いちいちそれを考えている人なんていないと思う。
それが人間の便利な点ではあるけど、いざ、どんなふうに操る? とかなると大変なのだ。
それに、もう一点の問題が……
「……これはなんの魔物ですか? ワタシの知識にはない魔物のようですが」
ベルが魔物と評したそれは……
「いや、猫のつもりなんだけど」
地球でおなじみの動物、猫の人形だ。
あー、そういえばこっちの世界では猫とか見たことないなぁ。
猫型の魔物とかいるのかな?
「猫……にしては、足が多くないですか? 足が5本あるように見えますが」
「いや、それは尻尾のつもりなんだけど」
猫が通じるってことはこの世界にもいるのかもなぁ……
うん。現実逃避はやめよう。
私には絶望的に美術の感性がないのだ。
棒人間程度ならできるし、手もできる。
が、流石に全身ともなると、酷いことになってしまう。
そんな私が作ったモノを身体にするというのは可哀想なことこの上ない。
「見たままのイメージで造形するとかは無理なんですか?」
ベルは簡単なように言うけど。
「見たままって結構難しいと思うんだよね。私、一瞬目を離しただけで、どんな姿か曖昧になるくらいだし」
じっと見つめてたらなんとかなるかも?
でも、顔だけ見てたら今度は足が酷いことになりそう。
それに、目からの情報だけだと、前から見た目はいいけど、背中側が酷いことになりそうだ。
「じゃあ、絵とか……」
「これを見て私にそんな絵が書けるとでも?」
だから写真とか撮ってたんだけど。
今回はそれができない。
「二人は写真にも映らないしなぁ……」
二人は私と同じく、幽霊のため、写真には映らない。
それに、他の誰かに書いてもらうことも難しいだろう。
二人が見えないってこともあるけど、こっちの世界ではあまり絵は発展していない様子だし。
となると、私が二人の外見を説明して地球の誰かに書いてもらうしかないんだけど、そんなことできる人に心当たりは……
「いや、あの人ならできるかな?」
地球でプログラムをしていた頃に知り合ったネット上の凄腕デザイナー。
メールだけでのやり取りだったけど、その人は私の要望を的確に表現してくれた。
大分前のことになるから連絡がつくかどうかはわからないけど、つくなら可能性はあるかなぁ。
明日地球に戻って試してみよう。
それじゃあ、今日は双子と遊びつつ二人の外見を文章にでも落とし込むとしようかな。
地球に戻り、早速連絡先を探してみることにした。
当時使ってたパソコンはもうないけど、当時使っていたSNSから連絡先を探してみることに。
向こうがまだこのSNS入れているかどうかはかけだけど、入れっぱなしということは十分ありえると思う。
「えっと、あ、この人だ」
思い当たる名前を見つけてチェックしてみる。
最終ログイン履歴は……昨日! よし、これなら連絡つくはず!
すぐに連絡を……、と思ったがよくよく考えてみたらお金がない。
SNSを見た感じだと、今もフリーのデザイナーとして活動しているみたいだし、無料で頼むわけにはいかない。
んー、でも、挨拶と見積もりくらいならいいかなぁ?
もしかしたら何か仕事を引き換えにやってくれるかもしれないし。
というわけで早速メッセージを送ってみた。
返信は……まぁ、早くても明日くらいに……
って早っ!!
もう返事が来たよ。
暇なのかな? ってそうじゃないや、返信の確認っと。
ふむ、おっ? やってくれる、しかもお金いらない?
でも、代わりに詳しいことをちゃんと聞かせろと?
文脈から大分心配されてた感じがする。
死んだのかと思ってたとか言われた。
そういえば、両親が死んでからプログラムもしなくなっちゃってパソコンも捨てたからなぁ。
当時の知り合いには以降なんの連絡もしてなかったし。
そう思われても仕方ないか。
あ、そういえば、私死んでたわ。
今になって思うけど、せめて連絡取り合ってた人には引退とか伝えたほうがよかったかもね。
当時は、私もいっぱいいっぱいで、カナ以外のこと全部後回しにしちゃったからなぁ。
まぁ、そういうことなら話すのもやぶさかではない。
問題は、今の私の状況だけど……
死んで異世界に言ってますとか冗談にしか思えないからね。
まぁ、でもそれでもいいか。
冗談だと思われたらそれはそれで話せないことがあるとでも解釈しれくれるでしょ。
というわけで、まるっと全部事実で送信っと。
けっして考えるのがめんどくさくなったわけじゃないよ。
デザイナーさんとの会話は色々とあった挙げ句、無料でやってくれることになった。
思っていた通り、話せない事情があるのだと受け取られたみたいだけど、まぁ、よし。
双子の容姿については、あまりにも詳しすぎたせいか、実在の人物がいるのかと思われた。
何か異世界転生モノのゲームでも作っていると思われたみたいだ。
まぁ、ゲームじゃなくて私のリアルなんだけどね。
内容が内容だけに、信じてもらえないもしょうがないね。
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