第78話 錬成陣展開

 家の中を4人で仲良く回った。

 これで、ベルを案内し終えたわけだ。


「さて、こんな感じかな?」


「マスターさん、随分大きな家にしましたね」


 流石のベルも家の大きさに驚いているようだ。

 しかし、喜んではいるみたいで、自分はどこにいようかなんて考えている。


「ねぇ、ママ」


「うん? 何?」


 ベルを微笑ましく見ているとレナが話しかけてきた。


「地下室は行かないの?」


「えっ?」


 ……地下室があるの!?


 驚いてレナから詳細を聞いてみると、一階のリビングに隠し階段があるらしい。


 なんでそんなのが普通の家にあるの?


 聞いてみるけど、レナはお父さんのお仕事の都合だったらしい。

 一体どんなお仕事だったのか気になるけど、どうやら二人には詳細は知らされていなかったらしい。

 あと、二人には入るなと言われていたみたいで、場所は知っているけど、入ったことはないらしい。



 連れ立ってリビングに行く。


 ここのどこに隠し階段?


「ここー」


 レナが机の下に潜った。

 覗き込むと何やら床を手で押している。


 その瞬間、ゴゴゴッという音と共に、リビング端の床が動いた。


 そして隠し階段が現れた。


「ほんとゲームか何かみたいだね……」


 この先って何があるんだろう。



 待っているという双子を置いて、私とベルの二人で降りていくことにした。

 念のため、ナイフを出して警戒をしておく。

 まぁ、魔物とかはいないと思うけど、ネズミとかはいてもおかしくないからね。


 階段はそれなりの長さだった。とは言っても、20段くらい?

 降りきると目の前に木の扉が現れた。


「いかにも怪しい感じだなぁ」


 何か隠しています感が凄い。まぁ、地下室の時点でそのとおり何か隠していたんだろうけど。


「それじゃあ入るよ」


 ベルに一言声をかけて、木の扉を開く。


 中は真っ暗だった。


「明かり……そうだ、魔石で照らせるじゃん」


 ということで、魔石で照らして中を見る。


 中はそれなりの広さだった。

 一見すると、そこは……


「本の部屋?」


 今入ってきた扉以外4面の壁全部に本棚が敷き詰められている。

 部屋の広さはそれなりに広いkど、ところどころ、本が山積みにされている以外には何もない。

 本を読む空間にしてはちょっと異質だ。



「何のための部屋なんだろう?」


 なんともなしに、本を一冊取り出してみても中身はさっぱりわからない。

 しかも、長いこと放置されていたのにも関わらず、ホコリとかもほとんどない。

 まるで、時間が止まったような部屋だった。


 とりあえず、だけど……

 これは何やら怪しい予感がする。

 レナ・ルナに入らないように言っていたのも、何か理由がありそうだ。

 一見危険とかはないようだけど、本とかも慎重に扱ったほうがいいかもしれないね。

 ほんと、二人の親はどんな仕事をしていたんだろうね。


 と、そんな感じのことを考えていると、ベルが何やら見回している感じだった。


「どうかしたの? あっ、ひょっとしてベルなら本読めたりする?」


 もしかして、と思ったんだけど。


「はいワタシには読むことが可能です」


 やった、それは助かる。


「しかし、何やら魔力を感じますね」


「うん? どういうこと?」


「実は家の上でも魔力を感じたのですが、特にこの部屋からは濃い魔力を感じます」


 家の中に魔力……


「これは何か魔法の痕跡のような……」


「魔法の痕跡?」


 それはつまり、ここで昔なにか魔法が使われていたってことかな?


「おそらくそうではないかと……、そしてここにある本にも魔力が染み付いていますので魔法に関係する本ではないかと」


「ほんとに?」


 それは嬉しい。

 冒険者二人組から魔法に関係する情報は失われてしまっていたと聞いていたのに、こんなところで手に入るとは……

 後回しにするつもりだったけど、この本はなるべく早めに読んでみたいね。

 こっちの文字の勉強が必要だから、教えてくれる人が必要なのが難点だけども。


「マスターさん」


「うん? 何?」


 まぁ、しばらくはベルに通訳してもらえばいいかな、なんて考えているとベルが声をかけてきた。


「本のこともですが、ここでしたら錬金術の魔法陣を展開することも可能です」


「あ、そういえばそうだったね」


 魔法陣を展開する場所も探していたんだったっけ。すっかり忘れていたよ。

 たしかに、ここだったらひと目に触れる可能性も少ないしいいかも。

 うん。広さ的にもばっちりだ。


「それじゃあここに決めようか。どうすればいいの?」


 決めたので、早速展開してみようと思う。


「それでは、部屋の中心あたりに立ってください。そこを中心に展開されますので」


 中心辺り、このあたりかな? 正確である必要はないから割と適当だ。


「そこで、杖を突き立ててください。突き立てた場所から広がります」


 私の立ち位置じゃなくて、突き立てた場所か。てことは一歩下がって、この辺りに杖を立ててっと。


「そこで、『錬成陣展開』と意識してください。いつも錬金術を使うみたいな感じです」


「『錬成陣展開』」


 言葉に出してつぶやくと、杖の先が光始め、地面が光出す。

 接触していた部分だけが光っていたのが、段々と広がっていく。

 結果、5秒足らずで魔法陣が展開された。

 少し光っているけど、これは錬金術待機状態と同じ感じかな?


「無事に展開されましたね。もう杖を離して大丈夫です」


 言われた通り、杖を話すと、光が消えて黒い陣だけが残った。

 これでオフ状態だ。


「後はあちらのアトリエで使っている時と同じように使えるはずです」


「なるほどね」


 こんな早く展開できるものなのね。


「あ、ちなみに、この展開ってどこでもできるの?」


 例えば、移動先とかで展開できたら、便利なんだけど。


「あー、一応展開自体はどこでもできますが、魔力がそれなりにある場所の方が好ましいですね」


「それはなんで?」


「簡単に言えば、魔法陣の性能が変わります。周囲の魔力が強い方が強い魔法陣になります」


「なるほど。強いと、出来上がるものも変わるとか?」


「ですね。品質にも関わってきますし、あとは出来上がりの時間も変わります」


 出来上がり時間は魔力込めればすぐだから、別にいいんだけど、品質はちょっと気になるかもね。


「この魔方陣はどのくらいの強さなの?」


「一概にどのくらいとは言えないですが、アトリエのよりは2段階くらい下という感じでしょうか?」


 あ、やっぱり、あっちのが上なんだ。


「それで困ることあったりする?」


「本来ですと、困りますが、マスターさんの魔力なら問題はないと思います」


「私の魔力だと?」


「はい。普通ですと、魔力の消費が多くなったりするのですが……」


 ああ、なるほどね。


「私の魔力量なら問題はないと」


「そういうことです」


 神様から魔力大量にもらっておいてよかったね。

 まぁ、感謝はしないけど。


「ああ、それから」


「うん?」


「この魔方陣には防護効果もありますので」


 防護効果?


「ってなにそれ?」


 よくわからないけど、防護って事は守るってことだよね?


「普通魔力が強い場所にこれだけの陣を展開すれば、それに惹かれて強い魔物が寄ってきたりするのですが」


「えっ?」


 それってまずくない?

 流石にこんな街中に魔物とかは問題になるよ。


「ご安心ください。そのための防護効果です」


 あ、ああ。そういうこと。


「この魔方陣は魔物避けになります。魔物が寄っていくることもないし、そもそも一定範囲に入ってくることも防ぎます」


「それは便利だね」


 そういえば、アトリエのときもこの家は安全とか言ってたもんね。

 それも魔法陣の効果だったんだ。

 うん? てことは?


「こっちの家自体にもその効果あるってこと?」


「はい。この家くらいの広さであればカバーされているかと。ああ、それと……」


「うん?」


「悪人避けも入っていますので、盗難とかの心配もなくなりますよ」


「……なんか至れり尽くせりって感じだね」


 双子もいるし、安全なのは嬉しいけどね。


「まぁ、それだけこの錬金術が凄いものだってことですよ」


「それはもうわかってるつもりだよ」


 これまでに色々とあったからね。

 ……ほんと色々と。

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