第76話 出立

 そんなこんなで、レアさんたちとの関係を再度見直した後。

 とりあえず、


「なる早で出発する方向で」


 というか、食糧危機になるかもとか、やばいでしょ。

 一個人優先してる場合じゃないよ。


「いや、しかし、ハルどのは……大丈夫なのか? いや、これは友人として聞いているぞ?」


 レアさんが付け足すように言ったのは、さっきの話が繰り返しになるからだろう。

 そんなわけで私も改めて考える。


 二人がいない期間がどれくらいかにもよるけど。

 個人的にやることはまだまだ沢山あるし。

 ベルをここに案内するとか、あとあの遺跡も調べてみたいんだよね。

 最悪、拠点周りの探索でもいいかな。


 それで、二人の助けが必要なことは……

 他の街の人と話しづらいくらい?

 具体的には、


「ポーションのやり取りやなんかが困るところかもですね?」


 今の所、それ以外は大丈夫かと。

 他の人達とは継続してやり取りすることはまだないので、問題はないかと。

 今は毎日、カリナさんにポーション届けるのを手伝ってもらっている状態だ。

 なんでかと言うと、サティさんとのやり取りが難しいためだ。


「うーん、そうなると、やっぱり誰かに仲介をお願いする必要がありますね……」


 結局のところそうなってしまう。

 ただ、やっぱり私自身としては、私自身をあまり広めたくないわけで……


「「「うーん……」」」


 3人で悩んでしまう。


 悩んでいると、


 コンコン


「~~~~~~~~」


 玄関をノックする音。

 それと声が聞こえたきた。

 誰か訪ねてきたみたいだね。


 あの声は……


「サティさん?」


 冒険者ギルドの受付嬢のサティさんだ。

 なんてタイミング……早速お出迎えを……

 ってそうだ私見えないんだった。

 そこもなんとかしないとね。

 とりあえず、今は、カリナさんに魔力付与ポーション渡してお出迎えお願いしよう。



「新居ができたということでご挨拶に来ました」


「あ、どうも。ありがとうございます」


 早速入ってきたサティさんとそんなやり取りを始める。


「こちらお祝い品になります」


 どうぞと言って差し出されたのは、箱だった。


「中はオークのお肉になります」


 オーク肉か。

 ……オーク肉? 食べられるの?

 いや、ウルフの肉が食べられるんだし食べられるか……

 オーク……レアさんを襲ってたやつを一度見たことあるけど、でかい二足歩行の豚みたいなやつだったね。

 うん、豚。豚肉と考えられればウルフ肉より美味しそう?


「正直、女性に送るものか? と疑問はありますが、冒険者ギルドからですので……」


 私の微妙な表情を見て採ったのか、サティさんは付け加えた。


「あ、いえ、ちょっと扱いについて考えていただけです。ちなみに、食用ですよね?」


「はい。庶民の間ではちょっとしたごちそう扱いです」


 ごちそうなのか。いや、しかし、この世界のごちそう……油断はならぬ。

 この世界、食ではさんざん痛い目に合わされたからね。

 まぁ、しかし、自分で食材扱うなら大丈夫か。

 ウルフ肉のステーキもそれなりに美味しかったし。


「ありがとうございます。早めにいただきますね」


「そうしてください」


 結構重いね。半分はミドリにでも渡そうかな。



「それでですね。今日伺ったのは、ご挨拶という以外にも理由がありまして……」


 お肉を受け取って収納した後、サティさんは仕切り直すように話し始めた。


「実は、少し遠くの村で魔物が増えていましてですね……」


 その目はちらっとレアさんたちの方を見ている。


「冒険者ギルドから沢山の冒険者が送られているのです」


 うん? その話、どこかで聞いたような?

 というか、レアさんがさっき話していたやつじゃない?


「そこに、レアさんとカリナさんも参加していただきたいと思いまして」


 あー、やっぱりそれか。


「お二人に伺ったところ、ハルさん次第ということをお聞きしまして……」


 それで、私のご機嫌伺いにやってきたと……

 多分、冒険者ギルドとしてのお願いになるんだろうね。

 いや、しかし、その件に関しては、さっき答えが出ている。


「なる早で出発する方向で」


「えっ?」


 とりあえず、さっきの結論について説明する。

 ついで、現状の問題点についても。


「なるほど、事情は把握しました」


 つまるところ、ポーションの納品についてだけど。


「私とサティさんとの仲介をしてくれる人が必要なんですけど……」


 その人物に心当たりがないということだ。


「仲介必要ないんじゃないですか?」


「えっ?」


「私が直接ここに取りに来れば良いだけな気がするのですが……」


 サティさんはさも当然のように提案してきた。

 うん? あー、なんかサティさんには冒険者ギルドでしか会ってないから抜けてたね。

 受け渡し場所が冒険者ギルドってのが脳に染み込んでいたよ。


「私が仕事前にここに寄ってから冒険者ギルドに行けばいいだけですので」


「確かに、そうしてくれるとありがたいですが、大変じゃないですか?」


 サティさんがどこに住んでいるかは知らないけど、手間が増えるのは申し訳ない。


「いえ、私の家も東エリアですので、ここは通り道になりますね」


 あ、そうなんだ。

 通りがけに受け取る感じになるのか。

 だったら、大丈夫かな。


「えっと、それじゃあ、お願いしていいですか?」


「はい。わかりました。ギルドにも私から話しておきますね」


 ふむ、これで問題は解決かな?

 あとの問題は……、今のところは思い浮かばない。

 思い浮かばないってことは重要な問題じゃないってことでしょう。

 というわけで、


「レアさんたちは出立の準備をお願いします」


「ああ、了解した」


「このくらいの時間ならばまだ市場もやっているわね」


 二人は出立の準備をするために、家を去っていった。

 予定的には、今日荷物をうちに預けて、明日の朝早くに出立することになった。

 サティさんと私は、その後、細かいやり取りの取り決めをすることに。


「とりあえず、サティさんには、これを渡しておきますね」


「これは、ハルさんとお話するときに使う魔石ですか?」


「はい。それのちゃんとしたやつです」


 いつもはちょっとした会話だから、複製のものを渡していたけど、これは私が錬金術で作ったものだ。

 複製品じゃないので、私の魔力を消費することもないし消えることもない。


「使い方は同じですが、これは持っていっても大丈夫なやつです」


 そういう細かいところ説明すると長くなりそうなんで、今はそういう感じで。


「わかりました。では、こちらはお返ししますね」


 ということで複製の方の念話の魔石を返してもらい、複製を解除する。

 本当に微々たる魔力だけど、こういうのの積み重ねで減っていくのはよくないからね。


「えっと、後は魔力付与ポーションですが……」


 こっちはまだ自分では作り置きしてないんだよなぁ。

 レアさんたちにも毎回複製したの渡してるし。

 やっぱりもっと簡単なやり方考えたいね。

 っと、今はないものねだりしてもしょうがない。


「受け渡しだけなら、会話が通じれば問題ないでしょうけど……」


 やっぱりちゃんとものを渡してお金を受け取るんだから、そこらへんはちゃんと対面でしたいよね。

 えっ? カリナさんいお願いしてた?

 それは、それです。


「というわけで、玄関で呼んでくだされば渡しに行きますので」


「わかりました」


 後は……時間か……

 ここに住むつもりだから何時でも問題はないかな?

 あ、でも、完全に引っ越すまでこっちで寝るのはまだやめておけってベルに言われたたんだっけ?

 なんでも、悪霊云々がどうたら言ってたけど、まぁ、後で詳しく聞こう。

 とりあえず、今日はまだこっちには泊まれないわけで。

 うーん、明日には解決しなきゃだね。

 明日は引っ越し作業だ。


「ひとまず、これは明日の分になります」


 というわけで、明日の分だけ今納品してしまうことに。


「代金は明後日の分に付け加えてくださればいいです」


 あんまり良くないかもだけどね。

 まぁ、信用がある相手同士なら許されるでしょ。

 幽霊が信用あるかは別として。


「というわけで、明後日の朝にまたお願いします」


「わかりました」


 始めから帰る時納品でも良かったかな? と後で思った。

 でも、そうなると今度はサティさんが帰るときに一旦ポーションを自宅に持ち帰ることになる。

 価値を考えると、それはまずいかもね。

 サティさんが信用できないとかいう意味じゃなくて、盗難的な意味でね。

 まぁ、朝取りに来てもらうで決まったからいいや。


 しかし、サティさんの出勤時間、思ったよりも早いっぽいんだよなぁ。

 ……朝起きれなくて寝てたなんてことはないようにしなきゃ。

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