第75話 関係性を見直し

「以前少し言ったが、そろそろ冒険者の仕事に戻れと言われていてな」


 そういえば、そんな話していたね。

 家を買う前だから、ちょっと前になるかな?


「それで、少し遠くの村で魔物が増えているという話があるのだ」


「そうですか」


 前の村、ワイス村みたいな感じかな?


「付け加えると、その村は北方の食堂とも呼ばれているほど農業が盛んな地域なのです」


「そこが魔物が増えることで農家が困っているとのことだ」


 あー、なるほど。

 たしかに、そんな場所に魔物が増えたら食糧事情が困ったことになるね。


「今は冒険者ギルドが早く手を回したことで多くの冒険者が投入されているが……」


 うん。でも危険なことには変わりないよね。


「ギルドからも依頼を受けて欲しいと言われてしまったのだ」


 冒険者ギルドの反応を見る限り、二人は凄腕の冒険者って感じだったからね。


「そういうことなら了解しました。いつ頃出発になるんですか?」


「なるべく早く出たいが……」


 が?


「今の我々はハル殿に雇われ、サポートという仕事があるのでな」


 うん?


「ハル殿の許可を取ってからということにしてある」


 ……たしかに色々とサポートお願いしますとは言ったけどさ。

 私としては、わからないことがあったら教えて下さいね、くらいの気持ちだったんだけど。


「まだまだ、助けていただいた恩を返しきれたとは思っていませんし」


 助けた代わりに……、って言ったような気がする。

 あー、そっかぁ……、依頼、仕事として受け取ったかぁ……


「ハル殿どうだろうか、請け負っている身で申し訳ないとは思うのだが……」


 行っても構わないだろうか……

 と申し訳無さそうに言われてしまった。

 うん。このあたりちゃんとしてなかった私が悪いかな?


「えっと、まずはじめに……」


 とりあえず、両者の誤解を解くことから始めようか……



 誤解を解くのはかなりの苦労が必要だった。

 私としてはサポートとは言ったけど、二人を縛るつもりはない。

 私としては、ここまでの数日でこの街まで連れてきてもらったりした。

 街を案内もしてくれたし、ギルドマスターとも知り合えた。

 それで十分。


 二人としては、今のままではまだまだ助けてもらった恩を返すにはいたらない。

 加えて、剣も直したこともあって更に恩も増えている。

 その恩を返せないままでいることなど許されるものではない、とのこと。


 という感じの会話を繰り返し、最終的に私が、


 そもそも、恩返しって何?

 どうやったら返したことになるの?

 命を助けたら命を助け返さなきゃ返したことならないとか?

 そんなの無理じゃん。

 そもそも、私死んでるし。


 みたいなことを少し強めに言ったら双方黙る結果になってしまった。

 いやいやいや、ちょっと冷静になろう私。

 なんでそんなに怒っているんだ?


 そこで改めて、考え直すことに。

 レアさんたちは、曰く、恩返しがしたい。

 私としては、なんだ? 私は何を求めているんだ?

 考えて、わかった。


「私は二人と対等な関係でいたいんですよ」


「「えっ?」」


 なんで怒ったのか。

 それは、今までの関係性が『仕事』で片付けられるように思えてしまったから。


「お二人の意思はわかりました。恩返しがしたいというのもわかりました」


 それが二人の目的、対して私は。


「私は、二人とこれからも友好的な関係でありたいです」


 これからも、というのが味噌。

 仕事で片付けられる一時的な関係ではなくて、末永く、と言ってしまうと意味合い変わるけど。

 ともかく、もっと違う関係を望んでいるのだ。

 それはつまり。


「私と友人になってください」


 そういうことだ。

 我ながら冷静に考えると恥ずかしいけど。

 こういうのって難しいよね。

 地球の方でも、友達関係とかあんまり気にしてこなかったので、関係の築き方がわからない。


「しかし、我々は救われたものと救ったもので……」


 うん。確かに、そういう関係で始まったものではあるかもね。

 でも、


「いいじゃないですか、貸し借りがあっても」


「えっ?」


「貸したものは返してもらえばいいんです。いつかね」


 すぐに返してさよならみたいな関係なんて寂しいだけ。


「いつかレアさん達が私に大きな貸しを返すかも。それでいいです」


「ハルさん……」


「ただ、私に借りを返すことを目的としてもらいたくないです」


「ハルどの……」


 もちろん、


「二人が私みたいな得体のしれないモノとの友人関係は嫌というのなら……」


 そうなったらそうなったではあるけど。

 寂しいけれどね。


「いや、それはない!」


 ありがたいことにレアさんがすぐに否定してくれた。

 続いてカリナさんも、頷いてくれている。


「私も、確かに始めはハルさんに恩返しするために色々と活動をしていました」


 うん。まぁ、そうだろうね。


「でも、それもこの街に向かう馬車の中で既に変わってしまっていたのです」


 4日間の短い旅ではあったけど、濃厚だったなぁ。

 楽しかった。


「そもそも、得体のしれないモノなのは最初からであろう?」


 そこで気にするようなら最初から街に案内してない、とのこと。

 まぁ、明らかに危険人物を自分の住む街に案内とかしないか。


「まだ、恩は返しきれない、そんな関係でいいのならば……」


「ああ、私達からもお願いしよう」


 二人は私を見て微笑む。

 レアさんは満面の笑みで、カリナさんは少し恥ずかしそうに。


「「私達と友達になってくれ(ください)」」


 そして私も笑った。


「よろこんで」

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