王都での日常と

第74話 マイホーム

 数日後、イティアさんに支払いと手続きを終えた私は、鍵を受け取ってあの家の前に立っていた。

 ちなみに、私一人ではなく、レアさんとカリナさんも一緒だ。

 カリナさんは若干震えている気がするけれども、それでも一緒に来てくれていた。


「レアから事情は聞きました」


 とのことだった。


 事情聞いたからなんだという話ではあるけれども、敵意がないから大丈夫ってことなのかな?

 正体見たり枯尾花って言うしね。

 知らないから怖いのであって、わかってしまえばそんなものってこともあるかな。

 ただ、今回の場合は正体は本物の幽霊であることは変わりないんだけどね。


 扉に鍵を差してノブを回す。

 ドアを開いて入ろうとした瞬間、ポスッっと足に軽い衝撃を感じた。


「「ママっ!!」」


 声で下を見ると双子の幽霊が私の足にしがみついていた。

 双子の幽霊……いや、


「レナ、ルナ。ママはやめて」


「「???」」


 首をかしげる二人。

 何度も言ってるんだけど、やっぱり受け入れてはくれない。

 もう半分諦めてはいるけど、できれば直して欲しいところではあるしね。

 まぁいいや。

 それよりも、


「二人共、今日からよろしくね」


「ママといっしょ!」


「やったー!」


 二人は私から離れて喜びに舞っている。

 すっごい喜んでいるなぁ……

 最初に会ったとき、私がまだここに住まないって言ったときは結構大変だった。

 ずっと引っ付かれていて、最終的に毎日来ることで納得してもらったけど。

 流石に様子に、イティアさんも苦笑いしながら認めてくれたよ。


 あ、そうそう、二人だけどこの家からは出れないことが判明した。

 幽霊は幽霊でも浮遊霊じゃなくて、地縛霊なのかな?

 もっとも二人は外に興味はないみたいだけど。

 子供が引きこもりってのは可哀想なので近いうちになんとかしてあげたいね。


「ハルどの?」


 おっと、考え込んでしまった。

 レアさんが困った様子で声をかけてきた。

 入り口で考え込んでたらいけないね。

 それに今日は新顔もいることだし。


「えっと、カリナさんは……」


 新顔、カリナさんの方を見ると、なぜだかじっとレナとルナの方を見ていた。

 怖がっている感じではないけど、目が離せないみたいな感じだ。

 どうしたんだろう?


「……かわいい」


 うん?


「はっ! い、いえなんでもないです」


 私に見られていることに気がついたのか、慌てて目線をそらすカリナさん。

 ……うん。とりあえず、何も言わないでおこうか。


 何はともあれ、カリナさんも大丈夫そうだし、家の中に入ることに。


「それじゃあ、ちょっとお話するから二人は遊んでてね」


 リビングに入り、とりあえず、足にひっついてきた二人を離す。


「「はーい」」


 二人は元気良く返事をして、リビングの奥に走っていた。

 遊んでてとは言ったけど、なにか遊ぶものとかあるのかな?

 というか、二人は普段どんな過ごし方してるんだろ?

 一緒に住む以上そういうところちゃんとしておかないといけないね。


 まぁ、でも、今はレアさんカリナさんとのお話だ。


 今日うちに着いてきてくれたのは、レナ・ルナとの顔合わせもあるけど、何やらお話もあるってことだったしね。


「とりあえず、座ってください」


 二人を椅子に座るように促し、私は反対側に座る。

 見学のときにもあったテーブルと椅子は古くなってはいるけど、綺麗でまだ使えるものだった。

 もちろん、全部が全部そのまま使えるってわけではなさそうだけど、それでもこだわらなければ十分だ。

 イティアさんに家具とか全部発注しないとと思っていたけれど、この様子だと思ったより少なくすむかな?


「それにしても、改めて見るとちゃんとした家だな」


 二人が対面に座ったところで、レアさんが周りを見回しながら言う。


「冒険者の身としては羨ましいくらいだ」


 二人は冒険者だし、宿屋が基本だからその感想もわかる。


「いつでも来てくださって大丈夫ですよ。なんだったら……」


 宿屋代わりにしてもいいと言いかけて、そういえば、ベルのことを思い至った。

 まだこちらには連れてきていないけれど、ベルは基本私がこっちにいるときは呼ぶつもり。

 つまり、ベルも同居人になる予定なので、そっちとも確認を取らなきゃ。


「物置き部屋くらいはお貸ししますので」


 とりあえず、確実に許せることを提案することにした。


「いや、それは流石に悪いですよ」


 カリナさんが申し訳無さそうに言う。

 遠慮している感じだね。


「いえ、どうせ部屋は余っていますしね」


 実際、2階建て家の2階部分は丸々空いている状態だし。

 正直、言ってしまうと持て余している状態なのだ。


「うむぅ、今のところは宿屋で大丈夫だが。申し出はありがたいな」


 聞けば、遠征準備で買い出しなどをするとたまに部屋が狭くなることもあるらしい。

 常時ではないから今は我慢しているらしいけど、片方のベッドが使えなくなることすらあるらしい。

 まぁ、たしかに宿屋の部屋ってベッドがあるくらいだったし、ちょっと物置こうと思っても厳しいかもね。


「そういうときには是非どうぞ。これだけ広い家ですしね」


「ああ、万が一のときはお世話になる」


 もちろん、対価も払うとのこと。

 私としては、これからも色んな仕事とかお世話を頼むつもりだからそれでいいんだけどね。

 まぁ、なんだかんだごまかして受け取らない方向にしとこう。

 それに、二人のことだから結局預けに来ないとかあるかもだし。


「ああ、そうだ。その話を受けてというわけではないのだが……」


 そんなことを考えていたら、レアさんが話を仕切り直した。


「早速、荷物を預かってもらえるだろうか?」


 おっと、預けに来ないかもとか思ってたけど、早速とは。

 予想外だね。


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