第73話 いつの間にか娘がいた

 ……ママ?

 あー、知らない言葉だねぇ。

 地球だったら母親って意味だけど、こっちの言葉での意味はまだ知らないなぁ。

 まさか、知らない子供から母親呼ばわりされたのかと思ってしまった。

 危ない危ない。


「……ママ?」


「……」


 もうひとりの子も私をじっと見てつぶやいている。

 はて、また母親呼ばわりされた気がする。

 まぁ、きっとこっちでまた全然違う意味……


「「ママ!」」


 ドスンっと腰に当たる感覚。

 見ると、双子の幽霊が私の腰に抱きついていた。

 えっと……


「どういうこと?」


 小さな子どもに抱きつかれ、無理やり引き剥がすわけにもいかず。

 困った私は、後ろにいるレアさんイティアさんに助けを求める視線を向ける。


「まさか、その歳で子持ちだったとは……?」


「幽霊の上に、幽霊のお子さんまでいらっしゃるとは……?」


 ……レアさん、イティアさんも混乱している様子だ。

 まぁ、人のこと言えないわけだけど。

 というか、やっぱり母親呼ばわりされてたんだね……

 うん。わかってた。

 幽霊だから、普通に言葉が聞こえるわけがない。

 あるとすると念話だけ。

 つまり、この子達が思ったことが伝わってきたんだって。

 まぁ、制御がいまいちなのか、レアさんたちまで聞こえちゃったみたいだけど。


 ってそんなことはどうでもいい。


「えっと、あなた達……」


 とりあえず、念話で幽霊たちに語りかけてみる。

 おっと、しゃべりかけるなら目線合わせたほうがいいね。

 優しく離しつつしゃがんで改めて双子の幽霊を見る。


 ほんとに人形みたいに綺麗な子達。

 子供だからまだ可愛いって言葉が出てくるけど、成長したら相当な美人になりそう。


「私の言葉はわかる?」


 ダメ元で話しかけてみた。


「わかるよ、ママ」


 返事が帰ってきた。

 もうひとりの子も頷いている。

 通じるんだ……

 まぁ、いいや。通じるなら話は早い。


「あなた達は……何者なの? 私のことをママって呼ぶのはなんで?」


 聞きたいことが多すぎてまとまらない。


「ママはママだからママだよ!」


 ……なるほど?


「つまりあなた達は私の娘なの?」


「「うん!」」


 元気よく頷いた。

 可愛い。

 ……ではなく。


「私あなた達を産んだ記憶ないんだけど……?」


「「???」」


 首をかしげていらっしゃる。

 可愛い。

 ……ではなく。


「えっと、あなた達はなんでここにいたの?」


「わたしたちのおうちだから!」


「おうちだから!」


 おうちだから、つまり、やっぱりこの二人は噂にある双子の姉妹なのかな?


「二人はどのくらいここにいたの?」


 噂によると凄い昔って話だが……


「うーんと? ……わかんない!」


「わかんない!」


 わかんないかー、そうかー。


「ママをずっとまってたの!」


「まってたの!」


 言うとまた二人が抱きついてきた。


 うん。とりあえず、アレだ。

 この子達は私のことを何故だか、親と認識している。

 そして、その認識を改めるのは困難なのはわかった。

 話通じないわけじゃないけど、この子達自身も自分を良くわかってない感じかなぁ。


 まぁ、アレだ。

 雛鳥が初めて見たものを親と認識するようなものでしょう。

 まぁ、幽霊だし、そういうのもありえるのかな?

 ……ありえるということにしておこう。


「それであなた達はこれからどうするの?」


「? ママと一緒にいるよ?」


 ……うん。まぁ、そうなるよね。

 どうせ私が面倒見ることになるんだろうなぁとは思ってた。

 私の方には何の理由もないけれど、流石にこのくらいの子供放置するわけにはいかないしね。

 それに幽霊の子の相手できるのなんて同じ幽霊の私くらいでしょうし。

 まぁ、妹が増えたくらいの感覚でいよう。


「えっと、あなた達……、二人とも名前はなんて言うの?」


 先に名前聞くべきだったね。

 いきなりママとか呼ばれて私も混乱してたみたい。


「レナだよ!」


「ルナだよ!」


 名前覚えてないとか言われるかと思ったけど、普通に答えてくれた。

 赤いリボンの子がレナちゃん。

 青いリボンの子がルナちゃん。

 名前間違いそうだなぁ……

 双子だからってそんな似た名前にしなくていいのにね。

 おっと、私も一応言っておかないと。


「私の名前はハルだよ」


 言っておけばママ呼び改善されるかもという希望が……


「「ハルママ!」」


 うん。ママ呼びは確定なんだね。

 なんか、もう諦めの境地に入ってます。



「というわけで面倒を見ることになりました」


 ひとまず、これまでの経緯をレアさんとイティアさんに説明した。

 声は聞こえていたと思うけど、一応ね。


「なるほど……」


「状況は理解しましたが……」


 二人はなんとも言えない顔をして、私の腰に抱きついたままの双子を見る。


「心配されなくても大丈夫ですよ。子供の面倒を見るのは慣れているつもりですので」


 両親が死んでカナと二人になってからは極力私がカナの面倒を見てたしね。

 もっとも、あの頃は隣の一家には大変お世話になったけど。

 まぁ、今の私もあの頃より成長しているし大丈夫でしょう。


「ハルさんが構わないならいいのですが……」


「何かあったら相談してくれ」


「はい。その時はお世話になります」


 イティアさん、レアさんが心配してくれている。

 極力迷惑をかけるつもりはないけど、万が一の時は協力を求めよう。



「それで、結局ハルさんはこの家をどうしますか?」


 双子の紹介も終わったところで、イティアさんが聞いてきた。


「双子の面倒を見るということはこの家に住むということですか?」


「あー、そうですねぇ……」


 正直、双子の面倒を見ることにはしたけど、あんまり考えてなかった。

 まぁ、確かにここに住むのが無難かな?

 双子だって知らないところより知ってるところの方がいいでしょう。


「決めました。買うことにします」


 私が伝えるとイティアさんは嬉しそうにする。


「そうですか! ありがとうございます」


 さっきまでと違って完全に商人に顔になっているね。


 レアさんはその様子を外から見ている。

 というか、双子を警戒している感じかな?

 一応って感じみたいだけどね、表情も緩んでいるし。


 イティアさんと契約に関する話をしてお金は後日支払うということになった。


 後日、お金を支払った私は、念願の拠点、マイホームを手にすることになったのだった。


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