第67話 風魔法付与

 さて、できる前提で進めてきたが問題が一つだけある。


 そもそも、風の刃を飛ばすなんて魔法を使うことができるのか?

 魔法を使うにはその魔法の詠唱が必要というのがベルが言っていたこと。

 そう考えてしまえば、私は風の刃を飛ばすなんて魔法は知らないわけで。

 当然、魔法を使えなければ錬金術を使って付与などできない。


 ただ、魔法石があればその属性の基本的な能力くらいは出せるとも言っていた。

 風の魔石であれば当然風を出すことくらいはできるだろう。

 後はその出力とか、出し方でいけるのではないか?

 というのが私の予想だった。


 ということで、


「そういうことってできるの?」


 ベルに聞いてみた。

 すると、


「できますね」


 あっさりと返事が返ってきた。

 うん。できるとは思っていたけど、あっさりすぎてなんだかなぁって気になるよ。

 簡単にいきすぎるのもちょっと拍子抜けちゃう感じ。


「ただ……」


 おっ?


「作る分には問題ないのですが、マスターさんが作ると、とんでもないものになりませんか?」


「とんでもないもの?」


「はい。魔力を込めすぎて、全てを吹き飛ばすとかそういう感じの剣になど……」


 ……考えてみる。

 私が作った武器。


 ・刺さった敵を一撃で倒すナイフ

 ・もはやビームという程の熱が出るライター


「うん。気をつけないとまずいね」


 別の言うことも最もだ。

 下手に何も考えず作ったら、軽く振っただけで台風が起こってもおかしくない。


「で、でも。今回は一応指標があるからね」


 レアさんに聞いた剣の壊れる前の状態。

 聞いた感じだと、剣の振った速さに応じて斬撃が飛んでいくような感じだった。

 大きさは剣の大きさ程度、風の強さも自分の剣を振った強さに依存していたとのこと。

 つまるところ、ちょっと遠くに剣が届くくらいのものらしいとのことだった。


「こういうときのために、魔力制御の練習は欠かしてないからきっと大丈夫」


 前にやりすぎてから、練習だけは暇なときに続けていた。

 だから、簡単な魔力制御くらいはできる……はず。


「いずれにしても気をつけてくださいね。このアトリエ壊すことがないようにお願いします」


「わかってるって」


 事前に練習と付与プログラムだけは組んでおいたほうがいいかもね。

 どうせ剣が私の届くまではまだ時間があるし。


「さて、それじゃあ、ナイフを使って実験開始かな」



 実験をしてたりして2日後、私はレアさんから剣を受け取った。

 どうやら、スミさんが他の仕事ストップして超特急で仕上げたらしい。

 私には剣の出来はわからないけどレアさんが嬉しそうな顔をしていたのでいい出来なのだろう。


「それじゃあ、預かりますね」


「よろしく頼む」


 剣は私が思っていたよりもずっと重かった。

 こんなの振り回してるの凄いなぁ。

 レアさんのためにも頑張って直そう。



 そんなわけで、剣をアトリエに持ち帰った。


「さて、やろうかな」


 意気込んで魔法陣に向かう。


 さて、今回使う素材は3つ。

 1レアさんの剣

 2.風の魔石

 3.理念を書いた紙


 1に関しては言うまでもなく、さっき受け取った剣だ。

 スミさんが折れた剣を修復したらしい。

 材質はわからないけど、結構重い。


 2の風の魔石は、以前、オオスズメバチを倒したときに手に入れたものだ。

 一番大きい女王の素材はすべて燃えてしまったからなくなってしまった。

 けれど、その兵隊であるオオスズメバチの素材は残っていた。

 風の魔石はそこから入手したものだ。

 というか、風の魔石があったってことは兵隊の方も魔法使ってきたのかな?

 ちゃんと倒そうと思ったら大変だったかもね。


 3は今回の要になる、設計図だ。

 風の魔石を組み込むにあたっての、風の出方を書いてある。

 基本は、剣を振ったらその強さに応じて鋭い風の刃が飛んでいくような感じだ。

 飛距離とか振る速さとかは何度か実験して試さないと駄目かもなぁ。


 これが今回の元となる材料。

 そして、これを複製して剣を作り上げいくことになる。

 結局のところ、使い勝手とかはレアさんに実際に試してもらうしかない。

 が、流石にここにレアさんに来てもらって試すことはできない。

 毎回作るたびに移動するのは時間の無駄だし、魔力も非効率だ。

 なので、いくつか違うパターンの設計図を加えることで別パターンのものを作っていくつもりだ。

 それでレアさんが一番気に入るやつを渡せばいい。

 残りは……うん、まぁ後で考えよう。

 軽かったら私が使っても良かったんだけど、残念ながら私に振ることは無理そうだし。

 私が使えるのはナイフくらいが限界だね。


「最初は斬撃に応じて飛ぶスピードを変えてみようかな」


 とりあえず、いくつか確認する項目はあるけど、一つずつ潰していこう。

 1項目につき、5個くらい作ればいいかな?

 流石に全パターンを作ると大変だから、項目ごとの最適値を出してから、後で合わせる方針で。

 私としては作ってもいいんだけどレアさんに試してもらう方が大変だからね。

 この方法なら20本くらいになるかな?

 まぁ、今日で終わるかな。


 項目を変数って考えるとほんとにプログラムみたいだね。

 紙の数字を書き換えたりするってのも同じだ。

 でも、書き換える工程があるせいでこの間編み出したまとめて作る錬金術ができない。

 あれは、同じ性能のものをまとめて作るためのものだからね。

 ちょっとずつ内容変えていくことはできない。

 もうちょっと簡単にできないもんかなぁ。

 やってることだけするとパターン化できそうなんだけど、ままならないね。

 時間ができたら理念を使っての錬金術ってやつを実験したいね。

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