第56話 機種変
「というわけで、冒険者ギルドにポーションを売ることになったよ」
地球に戻ってカナ、ミドリといつもの団らん。
今日の話題は、私が着いた街と冒険者ギルドについての話。
今は、一通り冒険者ギルドとのやり取りを話したところだ。
「わぁ……」
「異世界の街……気になる……」
二人、特にミドリは異世界の街というのに興味があるらしく、話を始める前から目が輝いていた。
そして私が冒険者ギルドとのやりとりを話すと、その興味は頂点に達したようだ。
「気になる! 異世界の街気になる!」
さっきからそれしか言ってないね。
興味津々なのだけは伝わってくるけれども。
「ねぇ、私も行けないのかな?」
そんなことまで言い出してしまった。
「流石に無理だよ」
そんな簡単に行き来できるなら私は幽霊になっていない。
私が魂だけの存在だから、行き来できるって神様が言ってたはず。
「だよね……、でも、なんとかならない?」
「なんとかって言われてもねぇ」
「ほら、錬金術とかで。せっかくチート能力持っているんだからさ」
錬金術を活用してねぇ。
擬似的に魂だけの存在にするとか?
そんなことできるのかな? ひょっとしたらできるのかもだけど。
でも、少なくとも、
「今はできない。諦めて」
私の言葉に、悲しそう顔を伏せるミドリ。
でも、すぐにパッと顔を上げた。
「だったらさ! 動画撮ってきて! 写真でもいいけど、できれば動画がいい!」
動画かぁ。
写真は一応、前にもチラッと考えてはいたんだよね。
でも、残念ながら、
「私のガラケーだと、動画撮れないんだよね。写真の解像度もあんまりよくないし」
なにせ、年代物の動いているのが奇跡的なくらいの産物だ。
「もう、だから、スマホだけは残しておいてって言ったのに」
元々はスマホを持っていたんだけど、両親が死んだときにガラケーにした。
その方が余計なことをしなくなるから携帯にかかる料金減るはずという目論見だった。
「でも、結局今の料金はうちの両親が払っているでしょ?」
そうなのだ。
生きていた頃は、バイトをして自分で払っていた。
でも、私が死んだ時、解約されずに残っており、どうせだからということで、支払いはミドリの両親に移行された。
本当は、自分で払いたいんだけどね。
いかんせん、こちらでお金を稼ぐすべがないのだ……
「そうだ! どうせだったら、私が機種変してこれをハルに渡せばいいんじゃない?」
ちょうど古くなって変えたくなっていたし、とのこと。
ミドリのスマホは2年前のモデルだったかな?
まだまだ、使えるけれど、そろそろバッテリーを交換した方がいいくらいの時期ではあるかもね。
でも、
「うーん、流石にそれは悪くない?」
なんとなく気が引けてしまう。
そもそも、ミドリの両親に払ってもらっているのもあんまり納得行っていないのに、ここでスマホに変えるのもなぁ。
「せめて、私にお金入ってからにしない?」
「それ、いつになるのさ。何か予定があるならいいけど」
予定……、ない。
向こうではポーションを売ってお金稼げそうだけど、それをこちらに還元できそうなアイデアは皆無だ。
「だったらいいじゃない。ちょうどスマホ向けの激安プランみたいなニュースを見たのよ」
言うと、ミドリは自分のスマホで検索をし始める。
「あった、これこれ」
ミドリからスマホを受け取ってみてみる。
何々? 大手キャリアが一斉に激安プランを発表?
って、ほんとに安いじゃん。
流石に電話、メールだけしている今の状態に比べたら高くはなる……とは思うけど。
スマホ限定の基本プランもあって、それをフル活用すればかなり安くなりそう。
「ねっ? そらならどうよ?」
ミドリは胸を張って示す。
実際はちゃんと計算しないとわからないけれど。
「確かに、今とあんまり差額ないっぽい……」
今の値段とスマホにしたときの差額とガラケーとスマホの性能。
その2つを天秤にかけた時、明らかにスマホにしたほうがいいに傾いている。
正直、私の気持ちも傾いている。
「だったら決まりでいいじゃない」
決定っと。
ミドリは一人楽しそうにしている。
いやいや、でも、でもだ。
「確かに、安いけど。ちゃんとミドリの両親に聞いてからじゃないとまずいでしょ」
多少なりとも値段が変わる。
払っているのが自分じゃない以上許可は必要だ。
「両親……、まず、お母さんね……、まぁ、大丈夫でしょ」
言うが早いしと、ミドリは電話をかけ始める。
「あ、もしもし、私。あ、詐欺じゃないよ?」
その場で私のスマホ化について話を始めた。
「ってわけで変えたいんだけど。どう? いい? うん。わかった。ありがとう。あ、うん。そうするつもり。うん、じゃあね」
ミドリがスマホを切った。
会話の流れと、ミドリの表情でわかっていた。
「OKだってさ」
やっぱりね。
「ついでに、明日には変えに行こうかってさ」
さすが母娘。あの短い間にそんなことまで話していたのか。
もう、これは抵抗できないね。
「あ、ついでにカナちゃんにも持たせたいってさ」
「カナに!?」
サラッと言う言葉に、カナが驚いている。
カナは今、携帯電話を持っていない。
家の都合とまだ早いかなぁというのもあって持たせてなかった。
「カナも携帯持っていいの!?」
カナが喜びの声と表情をしている。
かわいい。
……ではなく、
「いいの? そんなことまでさせちゃって」
私の分だけでも気がひけるのに、カナのまで。
「いいのいいの。お母さんがそう言っているんだからさ」
うむぅ、確かに実際に支払う保護者がそう言っているのならば抵抗するのもあれだが……
「やった! カナの携帯! これでお友達と連絡できる!」
もう持った気になって喜んでいるカナ。
かわいい。
……ではなく、
「……あんまり使いすぎないようにね」
「うん!」
考えてみたけど、それくらいしか言うことがなかった。
まぁ、カナなら大丈夫だとは思うしね。
「あと、いくつかお姉ちゃんと約束してね」
一応、スマホ持つ際の注意点くらいはしたほうがいいかな。
なんでもできちゃうスマホって、ちゃんと考えないと怖いものだって教えてあげないといけないね。
その後、ちゃんと注意点みたいのを話したつもりだったけど、始終カナの顔は緩んでいた。
はぁ、まぁ、持たせたらちゃんと確認したほうがいいか。
できれば、保護者モードの導入を……
私自身はあんまりああいう自由を縛るシステム好きじゃないんだけどね。
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