第54話 商業ギルド
しばらく待っていると、外からノックが聞こえてきた。
それをギルドマスターが招き入れる。
入ってきたのは受付嬢と……、一人の女性だった。
見た感じ、20半ばくらい?
いや、でも女の人の見た目と年齢は一致しないからなぁ。
話の流れからすると、この人が商業ギルドのマスターだろう。
勝ち気そうな感じの女性だね。
「~~~~~~~~~~~~」
入るやいなや、ギルドマスターに何か言っている。
文句を言っているような雰囲気だけど、どうだろう?
「わざわざ呼び出して何のよう? と言っているな」
レアさんが通訳をしてくれた。
様子を見るにあたって、事前にそうしてくれるようにお願いをしておいたのだ。
ちなみに、レアさんが会話をしている時は、カリナさんが答えてくれることになっている。
「(お前の意見を聞きたくてな。これを見ろ)」
ギルドマスター……冒険者ギルドの、が私が渡したヒーリングポーションを見せる。
それを受け取ったギルドマスター(商業ギルドの方)は不思議そうな顔をしている。
「(なにこれ? 見たことないけど、毒? )」
毒ね……、メロンソーダっぽいから見た目は綺麗なんだけどなぁ。
まぁ、たしかに緑色の液体とか毒っぽいかもね?
「(それはとある筋から仕入れたアーティファクトだ)」
「(アーティファクト!? これが!? )」
商業ギルドのマスターが驚いている。
「(一体どんな効果なの!? )」
「(飲むとたちどころに傷が癒えるらしい。そこにいるレアが実際試した)」
注目がレアさんに行く。
「(レアさん本当ですか? )」
「(ああ、魔物と戦って結構な傷だったんだが、飲んですぐに治ったぞ)」
レアさんが答えている。
というか、レアさんには敬語なんだね。
「(なるほど……)」
そして、商業ギルドマスターは目をつぶって何か考え始めている。
すぐに目を開いた。
「(つまり、その扱いをどうするかってことね? それ一個じゃないんでしょう? )」
「(どうしてそう思った? )」
「(さっきレアさんが試したって言っているのに、そこにもう一つあるじゃない。だから他にもあると考えただけよ)」
会話からちゃんと情報を拾って自分なりに咀嚼していたのか。
「(これが最後の一つかも知れないだろう? )」
「(それが最後の一つであれば、私に見せるメリットはないわ。いざというときに残しておくほうがいいわ)」
この人、頭の回転早そうだね。さすが商業ギルドのマスターをやっているだけあるのかな。
でも、逆に私としては警戒心は上がるね。
「(それでいったいそれはどうしたのかしら? )」
「(遺跡から結構な数が発掘された)」
「(結構な数? 具体的には? )」
それ結構困る質問だよね。
私も数は言っていないし、というか、数はまだそんなないよ。
「(具体的な数は言えない。発見者との約束なのでな。ただ、売れるほどあるとは言っておこう)」
とっさに考えたにしては逃げ方だね。
「(なるほど……、誰が見つけたかは聞かないほうが良さそうね)」
商業ギルドのマスターはチラッとレアさんを見る。
確信している雰囲気だけど、それはきっと勘違いだよ。
「(でも商業ギルドとしては困るところね。いくら数があっても安定供給できないのであれば価値は高くなるわ)」
確かに、そこは重要な点かもね。
結局のところ世の中に広まる数がなければ、それは希少価値が出てしまう。
その希少価値のある品を買えるのはお金持ちだけだ。
一応私が作るから総数に限りはない。
でも、私一人でとなると時間的に全需要を賄えるほどに作れるわけでもないしなぁ。
「(欲しがる人は多そうだけど。結局貴族の手に渡りそうね)」
「(できれば魔物と戦う冒険者の手にいくといいのだが)」
私としても、コレクションで飾られるよりは実際使われる方がいい。
うーん、まだちゃんと話していいか迷っているけれど、もうちょっと情報を出すべきかな。
結局の焦点は数が限定されているってことなんだから……
「カリナさん、数のことですが、試しにこう言ってみてください……」
私は念話の魔石を通じて、カリナさんにお願いする。
レアさんが発見者だと勘違いされているなら、カリナさんのほうがいいだろう。
「なるほど、わかりました」
カリナさんはすぐに私の意図を把握してくれた。
「(イティアさん、勘違いをされているようですが、発見者が見つけたのはその液体ではありません)」
「(カリナさん? 一体どういうことですか? )」
「(発見したのはその液体を作ることができるアーティファクトです)」
「(液体を作るアーティファクト!? )」
「(つまり、時間があればその液体は作れるということです)」
「(なる……ほど……)」
それを聞いた商業ギルドのマスターはまた目をつぶって考えている様子だ。
「こんな感じでよかったですか?」
「バッチリです。ありがとうございます」
その間に私とカリナさんでやり取りをしておく。
そう、さっきカリナさんにお願いしたのはそういうこと。
時間さえあれば数は増える。
これを言ってもらいたかったのだ。
実際は私が作るからアーティファクトじゃないけどね、まぁ、似たようなものか。
この世界の人からしたら私自身がアーティファクトみたいなものだしね。
なんか、自分の事を道具みたいって言ってるような気がして微妙な気持ちになるけど。
「(そうなれば、話は大分変わるわね。どのくらいの個数を作れるのかにもよるけれど、価格は大分下がるわね)」
商業ギルドマスターは、なんでそれを先に言わないのかという目で冒険者ギルドのマスターを見ている。
それを受ける冒険者ギルドのマスターは苦い顔をしている。
途中でそういうふうに情報解禁したんだから、言わないも何もないよね。申し訳ない。
しかし、商業ギルドマスターはすぐに頭を切り替えたようだ。
「(問題は既存の薬との差別化になるわね。既存の薬を売っている人たちを無職にするわけにはいかないわ)」
「(そうだな。ただ、あまり高すぎても冒険者が買えなくなってしまう)」
ようやくここまで会話がたどり着いた。
この辺りがさっき私達が頭を悩ませていたところだ。
でも、さすが商業ギルドのマスターはすぐに案をだした。
「(必要な冒険者には安値で売ればいいわ)」
「(それだと、既存の薬との問題があるぞ? )」
「(別に冒険者だけが既存の薬を買っているわけではないわ。他の人は普通の薬を買うわ)」
「(確かに……)」
「(その代わり、必要になる冒険者はちゃんと選ぶこと。転売とかはさせないことが条件ね)」
「(ああ、冒険者が転売などして価格崩壊起こしたら本末転倒だな)」
二人は話を続ける。
とりあえず、二人の話を自分の中で咀嚼する。
商業ギルドマスターの提案はこういうことかな?
冒険者ギルドの冒険者には必要に応じて安価で売る。
この必要に応じてという部分がネックで、本当に必要としている人にしか売らない。
つまり、魔物と戦って怪我をする恐れがある人ということだ。
全員に安価で配ってしまうと、ポーション自体が安価になってしまうし、冒険者が優遇されすぎになる。
「(商業ギルドで売るときは、価値を高めに設定するわ。代わりに冒険者ギルドに売るときは安くしてあげる)」
そんな感じでどう? と商業ギルドのマスターがまとめる。
冒険者ギルドの冒険者に安く提供したいというのと、市場の価格を壊さないというのが保たれている。
もちろん、冒険者の転売なんかをちゃんと監視する仕組みみたいのは必要だけど、なかなかいいんじゃないかな?
すぐさまこういう提案ができるところを見るに、優秀な人なんだろうなぁと感心してしまう。
冒険者ギルドのマスターがチラッと私の方を見た。
私は頷いてその提案を受け入れることにした。
冒険者ギルドマスターもそれをみて「(それでいい)」と答えた。
あとは実際の価格の問題だが。
「(とりあえず、通常はこのくらい、冒険者ギルドには暫定でこのくらいでどうかしら? )」
「(うぐっ、結構な値段だな……、それだと冒険者が買えんぞ)」
「(冒険者ギルドがマージン取らなければこんなものよ)」
「(いや、しかし、商業ギルドとのやり取りをするので……)」
「(そのマージンのせいで冒険者が買えずに傷を負うよりマシでしょ)」
「(それはそうだが……)」
値段を決めるにあたってのやり取りは始終商業ギルドが押すことになった。
結果、冒険者ギルドは利益の出ない、ギリギリの価格でポーションを手に入れることになる。
そして商業ギルドが得をするっと。
優秀だし、信用はできそうだけど、お金にはうるさいか。
確かに、聞いたとおりの人だね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます