第52話 ギルドマスター

「~~~~~~~~~~!?」


 開幕何言っているかわからないね。

 女性の方がなんか私に向かって言っているけども。

 びっくりしているのだけは伝わってくるよ。


「レアさん、申し訳ないのですが、これもお願いします」


「おっと、そうだったな」


 レアさんに念話の魔石を複製して渡す。

 これがないと会話にならないからね。

 二人は不思議そうに渡された魔石を見ているけれど、レアさんの説明を聞いて試してみている。


「これでいいか?」


 おっ? 聞こえた。

 男の人の低い声。

 これがギルドマスターの方だね。


「それで大丈夫です」


「おおっ! ほんとにいるのか!?」


 いるのかも何も、さっきのポーションで見えているでしょ?


「はい。そちらの方も大丈夫ですか?」


 私を見てボーゼンとしていた女性の方、名前なんだっけ? に話しかける。


「は、はい。大丈夫です」


 未だに戸惑っている様子だけど、いつぞやのカリナさんみたいに気絶したりはしない。

 気絶されると面倒だからね。


「それで、お前は一体何者だ?」


 ギルドマスターが私に鋭い目を向ける。


「見えないのもそうだが、こんなものまで用意して……」


 なんだか、随分と警戒されている感じだ。


「ギルマス。彼女は……」


 レアさんが口を挟もうとしている。

 が、それをギルドマスターは手を上げて制した。

 そして、顔をふっと緩める。


「いや、すまない。未知の力に警戒が過ぎていた。それよりも前に言うことがあったな」


 言うと、ギルドマスターは立ち上がり、私に向かって頭を下げた。


「我がギルドの優秀な冒険者を助けてくれて感謝する」


「あ、ありがとうございました!」


 ギルドマスターに釣られるように受付嬢も頭を下げた。

 これ、カリナさんにもされたなぁ、なんて思い出しちゃったよ。

 ほんとレアさん大切にされているんだね。

 今回はカリナさんもだけど。



「それで、質問に答えますと。私は幽霊です。気がついたら森の中にいました」


 とりあえず、二人の頭を上げさせた後に、落ち着かせてから先程の質問に答える。

 その際に、二人は自己紹介をしてくれた。

 さっきレアさんに聞いていたけれど、ギルドマスターの方はグレムさんで、受付嬢はサティさんらしい。

 今度こそ覚えたと思う、でも、役職呼びでいいかと。


「正直、この世界のことはほとんどわかっていません。記憶がないというやつですね」


 この世界についての記憶はない。うん。嘘はついていないよね。


「幽霊ということは、既に死んでいるということか?」


「はい。最も、私にこの世界で死んだ記憶はないですが」


 交通事故で死にました。なんて言っても通じないだろう。


「なるほど、その若さで……」


 かわいそうに、とつぶやく受付嬢さん。いい人そうだ。

 そして、ギルドマスターはなぜか悩むような下を向いている。

 どうかしたのかな?

 まぁ、聞きたいことがあれば聞いてくれるだろう。

 今はそれよりも私の説明だ。


「それで、運良く森の中に拠点を見つけてそこで生活していました」


 これに関しては運が良かったとしか言えない。

 ベルとの出会いがなかったら、大変なことになっていただろうね。


「その後、森の中から出ようとしたら、レアさんに出会いまして」


 チラッとレアさんを見ると頷いてくれた。


「それ以降は先程報告した通りです」


 先に話してた感じか。話す手間が省けたね。

 受付嬢の方は、「なるほど」と言っているけれどもギルドマスターの方は、未だに悩んでいる様子。

 私からは以上なんだけど? と思ってギルドマスターの方を見ていると、気がついたかのように顔を上げた。


「一つ聞きたいのだが」


「はい?」


「なんだろう?」


「お前……、ハル……殿はいつの時代に生きていたのだ?」


 うん? これはどういう質問?

 なんか疑われている?

 私が不思議そうにしていたのがわかったのか、ギルドマスターは付け足す。


「得体の知れない力を使うと聞いたので気になってな。ひょっとしたら、先史文明に生きていたのかと思ってな」


 ああ、そういうこと。

 私自身を疑っているではなく、単純に能力に興味があると。

 複製……は神様にもらった私の能力だけど、それ以外はこっちで手に入れた力だ。

 主に錬金術。


「生きていた時代はわからないですが……」


 うーん、どう説明しようか。

 とらいえず、ある程度本当のことを言っておくとするか。


「不思議な能力を使えるのは、そういうアーティファクトと知り合いになったからですね」


 ベルのこと。


「知り合いになった? 手に入れたではなく?」


「はい。知性があるので手に入れたではちょっと違うかなと。喋りますし」


「まさか、そんなアーティファクトが……」


 お喋りクリスタルはやはり、この世界のアーティファクトでも突飛なようだ。


「あの森の調査をもっとやっておくべきだったか……」


 ギルドマスターが悔しそうにつぶやいている。

 さっきからなんか、話が能力に傾きすぎていない?

 もっと私自身に疑問とかないの?

 そんな私の様子を不思議に思ったのか、レアさんが苦笑いをしながら言ってくれた。


「ギルマス。ハル殿の能力については後でいいのではないか?」


「おっと、すまない。つい気になってしまってな」


 ギルドマスターはレアさんの指摘にバツの悪い笑みを浮かべた。

 どういうこと?

 その疑問にはギルドマスター自ら答えてくれた。


「俺も昔は冒険者をしていてな。アーティファクトの採集や遺跡調査などをしていたんだ」


 ギルドマスターは念話の魔石を興味深そうに見ている。

 なるほど、それでさっきの質問ね。

 ゴリゴリの物理タイプかと思ってたんだけど、遺跡調査なんて聞くと、案外研究者タイプなのかもね。

 だったら、


「その魔石自体は上げられませんが……、代わりにこっちをどうぞ」


 念話の魔石は複製で増やしたのであげることができない。

 あげてもいいけど、複製解いたらなくなっちゃうし、解かないと私の魔力消費したままだからね。


「どうぞ」


 私は、指輪からアイテムを1つ取り出して、ギルドマスターの机の上に置いた。


「これは?」


「ヒーリングポーションです。飲めば傷が回復しますよ」


「おおっ! あのときに私がもらったやつだな!」


 レアさんが見覚えのあるビンを見て興奮したように話す。


「ギルマス! それは凄いぞ! 重症だった私を一瞬で回復させてくれたのだ!」


 あのときの事を話すレアさん。

 少しオーバーな表現に感じるけれど、言っていることは特に間違っていない。

 それを聞いてギルドマスターは驚いている。


「先程の液体も驚いたが、まさか飲むだけで傷が治るとは……」


 まるで魔法みたいだ、なんてつぶやいている。


「そんな貴重なものをもらっていいのか?」


「ええ、私ならいくらでも作れますし」


 薬草はどこにでも生えているし、水だって手に入るからね。


「まさか、アーティファクトが作れるのか?」


「ですね。先程の知り合いになったアーティファクトに教えてもらいました」


「ますます、羨ましい! 他にどんなことができるのだ!?」


 興奮したようにギルドマスターは私に聞いてくる。

 とりあえず、錬金術について説明すればいいかな?

 というか、あれ? なんか話題がまた能力に戻っていない?


 結局、私のことにはあまり触れずに、能力について軽く話すことになったよ。

 もちろん、地球のこととかについては話さなかったけれども。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る