第51話 冒険者ギルド

 話しているうちに、冒険者ギルドの前についた。

 建物の見かけは……、大きな酒場?

 看板っぽいのがあるけれど、文字が読めないからなんて書いてあるかわからない。

 まぁ、冒険者ギルドって書かれているんだと思うけど。


 カリナさんが、馬車をその前で止めて、レアさんと一緒に降りる。

 馬車はどうやら、このまま止めておいて大丈夫らしい。

 後で係の人が来て後片付けしてくれるとのこと。

 荷物の方も、結構な量があって、私達だけじゃ運び出せない。

 その大半が大きな狼から剥ぎ取った素材らしい。

 魔石だけは、レアさんが自分用の袋に詰めていた。


「さて、入ろうか」


 レアさんが扉の前に立って声をかけてくれた。

 その後ろに着く。

 いよいよ乗り込みだ。


「すぅー」


 緊張……ではないけれど、一息ついた。

 その瞬間……


「~~~~~~~~~~!!」


 バタン!


 という音とともに門が開いて一人の女の人が出てきた。


「ふグッ!?」


 びっくりして息が詰まってしまった。

 急になんだ!


 出てきた女の人は、一目散にレアさんにかけよった。

 見た感じ、レアさんたちと同じくらいの歳かな?


 レアさんも急に出てきたことに、一瞬ビックリしていたみたいだったけども、笑顔を浮かべて受け答えしている。


「~~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~~」


 なんだかわからないけれど、親しそうだ。

 女性の方は心配していた様子だったけれど、レアさんの答えを聞いて安心したみたい。


 促して中に入ろうとする。

 チラッと、レアさんの目が私を向いた。

 中に入るってことかな?

 私は頷いて答えた。


 そして一緒に冒険者ギルドの中に入る。

 中は……

 聞いていた通り、真っ先に見えるのが、カウンター。

 だけど、日本の食事屋さんみたいのとは違って、どちらかというと、広めの受付という感じ。

 入って左を見ると、そこには広めのスペースがあって、男の人達が沢山いた。

 机とかに飲みかけのドリンクがあるから食事スペースみたいなところかな?

 そして、なぜかみんな立っている。

 ごついお兄さん達が全員立ってこちらを見ていた。


 見た目だけで言うとめっちゃ怖いね。

 でも、悪意みたいなやつは感じない。

 あるのは、レアさんたちを見つめる、安堵の表情と尊敬の眼差し?

 レアさんたちを心配していたような感じだ。


 遠巻きに見ていて近寄ってこないけども。


「~~~~~~~~~~~~」


 先程の女性が何やら一声かけると、落ち着いたように座り直していた。

 でも、チラチラと視線を感じる。


 レアさん達はそれに意を介さずにカウンターの中に入っていく。

 私もそれに続いた。


 カウンターの奥にある階段を登って2階に上がる。

 こういうところって本来、普通の人は入っちゃ駄目なところだよね。

 報告って言ってたし、そのためかな?

 ってことはこの奥にいるのは、ギルドマスターってやつか?


 2階の部屋に入る。

 初見のイメージは校長室。

 偉そうな机があって、そこに男の人が一人座っている。

 イメージどおり、ごっついおじさんだった。スキンヘッドだ。

 多分、この人がギルドマスターだろう。


「~~~~~~~~~~!」


 レアさん達が入るや否や立ち上がり、声をかける。

 声がでかい。

 ていうか、さっきからこの流れ何回目かな?

 門番の時もだったし。


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


 ギルドマスター? は立ったままで、レアさん達と会話を始めた。


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


 4人は話を始める。

 途中、出迎えてくれた女の人が出ていこうとしたけれど、ギルドマスター(仮)が呼び止めていた。


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


 それにしても、暇だ。

 会話している4人を眺めていることしかできない。

 私がここにいる意味あるのかな?


 暇になった私は部屋の中を見回す。

 まず目立つのは、机の奥にある紋章っぽい旗。

 斜めがけされていて、紋章はドラゴンっぽい?


 そして、机の上には大量の書類。

 こっちの世界もお仕事は沢山あるみたいだね。

 色が前に見せてもらった地図と同じ。

 羊皮紙ってやつだね。


 おっと、眺めているうちに、レアさんが袋から魔石を取り出している。

 初見の二人は、その大きさを見てびっくりしているみたいだ。

 レアさんがギルドマスター(仮)に手渡した。

 その魔石、後で私がもらう約束をしているんだけど、大丈夫だろうか?


「~~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~~」


 そして、話はまだまだ続きそう。

 引き続き部屋の中の観察に戻る。

 と、言っても、あと目立つのは、本棚らしきものと甲冑があるくらいだ。

 本棚の文字は読めないけれど、ああいうところに私の知りたい情報載ってたりしないかな?

 ギルドマスターともなれば、アーティファクトにも詳しいんじゃないだろうかな?


「……殿」


 少なくとも、レアさんよりも詳しいよねきっと。

 そうなると、この人からは色々と情報を仕入れたいところだね。


「……ル殿?」


 あの体格からして元冒険者という可能性もある。

 そうなると、自身がアーティファクト持ってたりって可能性もあるよね?

 ちゃんと功績を経ててギルドマスター(仮)になっていればって話だけど。


「ハル殿!!」


「わっ! びっくりした!」


 私の耳元でレアさんが大きな声を上げた。

 考え事をしていて完全に油断をしていた。

 というか、私にも聞こえるってことは念話の魔石なんだろうけど、大きな声とかになるんだね。

 おっと、受け答え受け答えっと。


「えっと、なんですか?」


「ようやく答えてくれたか。先程から声をかけていたのだが」


 魔石使えなくなったかと思ったぞ、と安堵している。


「ハル殿の事をこの二人に話そうと思うのだが……」


 私のことだったか。

 でも、二人?

 というか、私、まだ二人が何者だか知らないし。


「えっと、多分、男の人はギルドマスターですよね? 女の人は?」


 ギルドマスターだけならまだわかる。

 馬車の中でも言っていた通り、説明を求められたのだろう。


「ああ、ギルドマスターのグレム殿だ。もう一人は受付嬢のサティだ」


 名前が判明した。

 そろそろ登場人物がまた二人増えたね。

 覚えられるかな?


「受付嬢……ですか?」


 察するに、さっきのカウンターで依頼を回す人だと思うんだけど。

 その人にも私のこと話すの?


「二人共信頼できる人たちだ。きっとハル殿の力にもなってくれるだろう」


 強く口調で話すレアさん。


「二人には、私達も大変お世話になっている」


 その力強い物言いから、レアさんが二人を信頼しているのがわかる。


「二人共口は堅いし、私達を信じてくれないだろうか」


 うーん、そこまで言うなら……


「いいですよ」


 まぁ、しょうがないか。

 まだ会ってから短いけど、レアさん達は悪い人には思えなかったしね。

 その二人がお世話になっている人たちなら信用度は上がる。

 口も堅いっていうなら勝手に話すこともないでしょ。

 それに、冒険者ギルドってことは変なことには慣れてるんじゃないか? という予測もある。


「ありがとう」


 お礼を言って。

 レアさんは何かしら話し始めた。


「~~~~~~~~~~」


 驚いているみたいだけど、私のことどう話すつもりだろう。

 って、方法は一つしかないよね。

 私はその準備をする。


「ハル殿……」


 案の定、レアさんが私に向き直った。


「はいどうぞ。魔力付与ポーションです。これで私のことが見えますよ」


「恩に着る」


 魔力付与ポーションを渡した。

 信じさせるには、実際に目にするしかないからね。


 ギルドの二人は、突然現れ渡されたポーションに驚いている。

 飲むように勧められているのだろうけど、躊躇している。

 カリナさんの時もこんな感じだったっけ?

 得体の知れない液体だからね。

 日本だったら、まず絶対飲んじゃ駄目だ。


 でも、二人共飲んでいる。

 私が言うのもなんだけど、よく飲めるね。

 そして、目を見開いた。


「どうも初めまして。ハルです」


 まんまるとした目と対面することになった。

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