第50話 北の街ノルディック

 門をくぐり街中に入り大きなメインストリートらしき道を馬車で進んでいく。

 なんでも、私達が入ってきた東側は住宅エリアになっているらしく、立派な家がその左右に立っている。


「これからどこに行くんですか?」


 そういえば、街に来た後のことは何も聞いていない、というか、私自身何も考えていないことに気がついてしまった。

 とりあえず、しばらくは二人についていくつもりだけど。


「ひとまずは、冒険者ギルドに報告だな。その後に、宿に行く」


 レアさんが答えてくれた。

 なるほど、冒険者ギルドか。

 ちなみに、ギルドは街の北側にあるらしい。

 レアさん達が使用している宿屋もその近くにあるとのことだった。


「ギルドってどんなところなんですか?」


「どんなと言われても困るが……、冒険者が集まるところだぞ?」


 いや、それはわかる。私の質問が悪かったかな?

 ただ、私も具体的に聞きたいことがあったわけじゃない。

 想像があまりついていないという方が正しい。


「お店……ではないんですよね? 中はどんな感じなんですか?」


「ああ、いや、酒場も内部にあるので、一部はお店だな」


 冒険者は酒飲み。そんなイメージはミドリも言ってたね。

 なんでも初心者が冒険者登録しようとすると絡まれるのがセオリーだそうな。


「他には、カウンターで依頼を受けたり、依頼が貼ってある掲示板なんてものもあるな」


 掲示板で依頼を見て、それをカウンターで受ける感じかな。

 うん。想像するギルドと近いかも。


「ちなみに、依頼は討伐とか魔物の調査とかですか?」


「それだけではないぞ。例えば、商人が護衛依頼などもあるし」


 ああ、それもあったね。

 そういえば、入るときに並んでいた商人さん達の馬車にも護衛らしき人たちが付いていた。

 その人達も冒険者なんだろう。


「落とし物捜しや配達のお願いなんかもあるぞ?」


 落とし物探しに配達か。

 なんかそれだけ聞くと便利屋さんみたいな感じだね。


「他にも、店番をお願いしますとか、子供の面倒を見てくださいみたいなやつも」


 ……うん。完全になんでも屋だね。

 バイト募集みたいなやつかな?


「冒険者さんが、店番をするんですか?」


「ああ、冒険者と言っても子供や女性もいるからな。そういう人たちがするのだ」


 なんでも、昔は討伐依頼とか護衛依頼が主流だったのだが、近年そういう細かな依頼も増えてきたらしい。

 そのため、魔物と戦う力のない子供や女性なんかもとりあえず、冒険者に登録しておくような状態らしい。


「もっとも、ランクもあるからな。討伐や護衛というような依頼は認められないと受けれない」


 そういうシステムなのね。

 これちゃんとやらないと振り分ける側が大変そうだね。

 間違って難しい依頼をランクの低い人に回しちゃったら大変だし。


「具体的には、ランクD以上にならないと討伐は受けられない。もっともランクDだとウルフくらいだが」


 聞けば、ランクはGからSまであるらしい。

 Gは要するに冒険者見習いでFに上がると冒険者として認められるらしい。

 GからFに上がるためには、依頼を数回成功させることが必要らしい。

 研修期間みたいなものかな?

 F以降は一つ上のランクを成功させたり、堅実に自分のランクの数を多くこなしたりすると上がるとのこと。


「ちなみに、私達はBランクだ」


 自信満々に誇らしげに胸を張っていうレアさん。

 だが、残念ながら基準がわからない。


「それって凄いんですか?」


「自分で言うのもなんだが、私達くらいの歳でBランクは凄いと思うぞ」


 凄いんだ。でもまだイメージが沸かない。


「まぁ、ハル殿には及ばないが……、あのシャドウウルフを倒すくらいだからな」


 ああ、アレね。

 いや、でもあれは協力して倒したんだよ?


「いや、ハル殿がいなければ確実にやられていた。事実私達は死にかけていたしな」


 そういえば、そうだったね。

 でも、きっとアレは私一人じゃ倒せなかったと思う。


「協力して倒したってことにしましょうよ。止めを刺したのはレアさんですし」


「ハル殿がそう言ってくれるのはありがたいのだがなぁ」


 どうにも釈然としていないレアさんをなだめる。

 正直、私自身は強いわけじゃないからね。

 強く感じるのは武器の性能のおかげだ。

 それがなかったら、魔物と戦おうなんて思えないし。


「というわけで、私のことはギルドには秘密でお願いしますね」


「なかなか難しいことを言うものだな……、あの魔物を二人で倒したとは流石に言えんし……」


「別に魔物を直接見ているわけではないから大丈夫なのでは?」


「いや、魔石があるだろう? その大きさで魔物の強さがおおよそわかる」


 レアさんは袋から魔石を取り出した。

 あのときに倒した狼の魔石らしい。

 確かに、今まで見たウルフの魔石と比べると数倍は大きい。


「うーん、じゃあ、協力者がいたけれどすぐにどこかに言ってしまったという方向で」


 どうせ私のことは見えないしね。


「その場合、それは誰だって話になりそうなものだがな」


「名乗らず去っていったってことで」


 それだったら誰かわからなくても不思議じゃないよね?


「……ハル殿はそんなに知られたくないのか? あの魔物を倒したことは名誉なことだと思うが……」


「名誉とか別にいりませんし。それに、結局私の事言うと勘違いされるでしょ?」


 見えない得体の知れない幽霊。

 うん。怪しいことこの上ないよね。


「私達が信頼できる人ならばどうだ?」


 レアさん達が信頼できる人達か……

 うーん、確かに考えみたら、誰にも知られないと情報収集にもならないんだよね。

 その点で言うと、今の状況だとレアさん達だよりになってしまう。

 でもなぁ……どうしよう……


「もちろん、私だって誰彼構わずというわけではない。口が固く、ハル殿のことを漏らさない人たちを選ぼう」


 それだったら……、まぁ、いい妥協点かな。

 もともと変な勘違いされたくないだけで、そういうのがないなら問題ない。


「わかりました。でも、一応私にその人のこと教えて許可してからにしてくださいね」


 知らない人が私を知っているとか恐怖でしかないし。


「できれば私がその人の事を実際に見てからにしてください」


「ああ、もちろんだ」


 約束しようと、レアさんが頷く。


 この判断がどうなるか。

 今はまだわからないけれど、いい方向に進むといいなぁ。




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