第49話 到着

 日付も変わって今移動4日目。

 本来の予定だと、明日到着だったはずだったんだけど、馬の調子がいいということで予定が変わった。

 今日の午後くらいに到着予定とのことだ。


 そんな日でも変わらず私はトランプをやっていた。

 昨日で懲りたので、ババ抜きはやめて、レアさんともポーカーをやっていた。

 さて、その勝率は……


「2ペアだ!」


 ちなみに、私は1ペア。


「レアさんの勝ちですね」


 私は自分のカードを示す。


「よしっ! これで3勝目だ!」


 というわけで、昨日のように私が勝ちっ放しということもなく、勝負ができていた。

 流石に昨日みたいになったら困るしね。

 でも、まぁ、勝率は私の方が高い。

 具体的には8割位は私が勝っている。


 私だって、ちゃんとやったのは昨日が初めてだ。

 別に強いというわけじゃない。

 しかし、レアさん、なぜか、2ペア以上が揃わないのだ。

 3回交換したらもうちょっといい役になりそうなものだけど、なぜか、最高が2ペア。

 高確率で何も揃っていないノーハンドになる。

 レアさんはそういうものだと純粋に勝ちを喜んでいるけど、結構な確率だよねこれ。


 楽しそうにしているからいいけどね。

 私自身も、高い役を揃えるの楽しいからね。



 そんな事をしているうちに、


「見えた!」


 馬車の外からカリナさんの声が聞こえてきた。

 見えたってなにが? みたいなボケはしない。

 このタイミングってことは、街でしょう。


「ハル殿窓から見てみたらどうだ?」


「はい」


 レアさんが勧めてくるのでしたがって、窓から顔を出してみる。

 窓から外を覗いて前方を見てみる。


 遠くの方に壁のような物が見える。

 まだまだ距離があるから、低いように感じるけれども、この距離であの高さってことは結構な高さだと思う。

 城壁ってやつかな?

 あ、城ではないか、防壁ってやつかな?


 町ごと壁で囲っているのだろう。

 って、そりゃそうか、魔物のいる世界だもんね。

 それくらいしないと安定しないか。

 まぁ、最初の村にはなかったから、全部の街にあるってことじゃないだろうけど。

 人口の問題とかお金の問題とかもあるからね。


「ハルさん、あれがノルディックですよ」


 カリナさんが振り返らずに私に声をかけてきた。

 私が窓から見てること気がついていたんだね。


「ええ、あれは防壁ですよね? 相当大きな街みたいですね」


 防壁は地平線みたいに視界一杯横に広がっている。

 何も知らなかったらびっくりしたかも知れない。


「この国の北、最大の都市ですからね。しかし、王都はもっと大きいですよ」


 あれよりも大きいのがあるのか……

 どのくらいなんだろう?

 見せてもらった地図だと縮尺とかなくてよくわからなかったんだよね。

 後で馬の時速と、かかった時間からなんとなく計算をしてみようかな?


 でも、正直、その地図の縮尺も怪しかったりするんだよね……

 日本地図を作った伊能忠敬さんは偉大です。


 見ているうちに、防壁が段々と近づいてきた。

 高い。

 わかってはいたけれど、実際に見るとやっぱり高く感じるね。

 実際に何メートルかとかはわからないけれど、私の家よりも確実に高い。


 そして、防壁の上にチラチラと映る影。

 人? かな?

 普通あんなところ一般人は登れないよね?

 ってことは街の守備隊みたいな人たちかな?

 ほんとにファンタジーの世界だね。


「ハルさん、あそこが門です」


 カリナさんが指を指す先に、防壁が途切れいている部分があった。

 正確にはアーチみたいに上でつながっている。

 なるほどあれば門か。

 でっかい門だこと。


「あそこから入ります。一応身分証や荷物確認などされると思いますが……」


 そんなこともあるんだ。

 国じゃないけれど、パスポートみたいなやつがあるのかな?

 当たり前だけど、私は身分証とかない。


「ハルさんは見えないので関係ないですよね?」


 確かに。見えなければ確認されることもない。

 侵入し放題って言うと、言葉が悪いけれど。

 でも、そんな感じ。

 悪いことはしないよ?


「まぁ、私とレアがいるのでそんなにチェックはされないと思いますが、一応変に動かない方がいいと思います」


「わかりました」


 まぁ、たしかに、検査中に物が消えたとかなったらおかしいからね。

 おとなしく眺めていることにしよう。


 馬車は門に向かっていく。

 そこで気がついたけれど、結構な数の馬車が門の前に並んでいた。

 聞けば、他の街から来た観光の人や商人らしい。


 レアさんたちは、この街の住人なので、その列とは別に向かうらしい。

 馬車列の横を行く。

 みんな荷物を沢山馬車とか荷台に積んでいたりする。

 なるほど、商人ね。私もそのうちお世話になったりするのかな?

 まだまだ先のことだろうけど。


 私の乗った馬車は、長い列とは別の列に並んだ。

 並んだと言っても、前の馬車は2台程度。

 それも、すぐに1台が通っていき、その次もささっといなくなる。

 私達の番だ。


「~~~~~~~~~!」


 カリナさんを見た鎧姿の人が驚いた顔をする。

 検査員みたいな人かな?

 鎧を来ているから街の警備みたいな人だと思う。


「~~~~~~~~~」


 カリナさんも何やら受け答えしている。

 相変わらず、何を言っているのかわからない。


「あ、ってまずい。先に布団収納しないと」


 慌てて窓から顔を引っ込める。


「おお! 確かに、こんな物見られて万が一確認されても困るな!」


 レアさんが私の言葉に立ち上がった。

 私とレアさんのお尻の下にある布団を慌てて収納する。


 そして私が顔を出していた窓からさっきの鎧の人が覗き込んでくる。

 危ない、一瞬だったね。


「~~~~~~~~~~」


「~~~~~~~~~~」


 鎧の人は、レアさんに話しかけている。

 この感じだと、知り合いとかだったりするのかな?

 鎧の人の方が恐縮していて、レアさんは気さくに答えている感じだけど。


 レアさんを確認すると、鎧の人は顔を引っ込め、カリナさんに声をかけると、すぐに馬車が動き出した。


 あれ? ひょっとして検査終わり?

 随分あっさりだったね。覗き込んだだけだけど。


 普通荷物チェックとかって鞄の中開けて中見せたりするもんじゃないのかな?

 ちょっと拍子抜けだ。

 知り合いだったっぽいし、その辺り融通してくれたとかかな?

 そういうの許されているのかは別としてね。


 馬車は門をくぐった。

 異世界に降り立ってから、結構な日数が過ぎた。

 やっと最初の街、ノルディックに到着だ。


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