第48話 二人でババ抜き

「うーむ……これだっ!」


 レアさんが私の手から一枚トランプを抜いていく。

 項垂れるレアさん、残念、ながら芳しくなかった様子だ。


「むぅ、揃っていない」


 そして、私にレアさんの手札を裏にして構える。


「さぁ、ハル殿の番だぞ」


 私は、無言でレアさんから一枚を抜く。

 揃った。揃ったカードを捨てる。これで私の手札はなくなった。


「また私の勝ちですね」


「な、なぜだ! なぜ勝てない!」


 昨日の今日で受け取ったトランプで早速遊んでいる。

 持ってきてから、そういえば、言葉違うから数字も違ってわからない? と思ったけど。

 どうやら数字の表記は同じらしい。

 日本語と英語で読み方は違うけど、表記は同じみたいなものかな?

 異世界でも共通だったことがびっくりだよ。


 やるゲームは一番メジャーどころということでババ抜きにした。

 既に20戦になる。

 そしてその20戦とも、私の勝ちだ。


「も、もう一回だ! もう一度頼む!」


「もう、いいじゃないですか。そろそろ別のゲームもやりましょうよ」


「じゃあ、もう一回! もう一回だけ同じゲームを……」


「そのセリフさっきも言っていましたよ……」


 というか、3回くらい同じことを言っている。


「ぐぬぅ……、しかし、一度も勝てないまま終わるわけには……」


 ほんとなんで勝てないんでしょうね。

 別に顔に出ているとかそういうわけではない。

 単に運の問題なんだろうか?

 それにしては凄い確率な気がするけど。


「うーん、では最後の一戦ですよ。ほんとに最後ですからね」


「わかった。今度こそ勝つぞ!」


 そうして、また私はババ抜きをする。

 さて、このババ抜きというゲーム。

 プレイヤー全員にカードが配られて、隣の人のカードを順番に抜いていき、揃ったら捨てるという単純なゲームだ。

 絶対に揃わないババを自分が持っていないことを顔に出さないようにするという心理戦があって楽しい。

 そんなゲームなのだが、二人でやるのには欠陥があることにそうそう気がついてしまった。

 配られて最初の頃は相手のカードを引くとだいたい揃うのである。

 当たり前だ。カードを半分ずつにしていて、確実に持っている相手からカードを抜くのだから。

 それこそジョーカーを引かない限り絶対に揃うのである。


 最初そのことに気が付かず、あれ? なんでも揃うぞ? と思ってしまった。

 最終的に、私が2枚、レアさんが1枚のタイミングになり、あ、これ3枚で事足りるんじゃ?

 そう気がついてしまった。

 2戦目からは、徐々にカードを減らしていき、最初は半分、次はまたその半分。

 最終的に1枚ずつ同じカードを持ち、前の勝負で勝ったほうがジョーカーを持つということになった。

 もう既にババ抜きじゃないよね? これ。


 そんなわけで、前の勝負で勝った私がジョーカーと数字の1を持っている。

 レアさんは別のマークの数字の1を持って私が広げたカードを真剣な様子で見ている。


「これだっ! ……うぐっ!」


 残念それがジョーカーです。

 項垂れるレアさん。さっきも見たねこの光景。

 そして、気を取り直したように、自分の2枚をシャッフルする。

 私に広げてきた。


「どうだ!」


 私はカードに手を伸ばしてレアさんの顔をよく見る。

 特に、顔に感情が出ているわけではない。

 それはそうだ。

 最初はポーカーフェイスも知らなかったレアさんは丸わかり過ぎた。

 それを指摘すると、レアさんはなんと、目をつぶったのだ。

 つまり、レアさん自身もどちらがジョーカーか知らない。

 シャッフルの回数とかでわかるかもだけど、多分そのことはレアさんの頭にはないだろう。


 そういうわけで、私もレアさんもどちらがジョーカーかわからない。

 ババ抜きというゲームは本来は、二人になると、心理戦みたいなやつを楽しむものだと思うのだけれど……

 もう、完全に運だけの勝負になっている。

 そして……


「揃いました」


「ぐわあああああ。なぜだぁああああああ!」


 どうしてか、毎回私が勝つ。

 昨日、カナとミドリとやった時は勝ったり負けたりだった。

 つまり、私の運が強いということはない。


「レアさん……、運がないんですね……」


「うぐっ」


 私の指摘についに布団に顔を伏せるレアさん。

 レアさん、そういうタイプの人だったのか。



「さっきから何騒いでいるのよ」


 馬車が止まって、カリナさんが顔を出した。

 そろそろ昼休憩な感じかな?

 一戦が短いとはいえ、結構な回数やったしね。


「うん? レアはどうしたのですか?」


 顔を伏せているレアさんを見て怪しげな顔をする。

 そして私に聞いてきた。


「いえ、少し私が持ってきた遊びをしていたのですが……」


「一度も勝てなかった……」


 レアさんが小声で付け足した。


「というわけです」


「そうですか。でも、初めての遊びなら仕方ないんじゃないの?」


 慰めるようにカリナさんがレアさんの肩を叩く。


「完全に運だけの勝負だったんだ……」


 レアさんは顔を伏せたままだった。

 そして、その言葉を聞いて、カリナさんは「あー」と納得したような声を出した。


「まぁ、しょうがないでしょ。運がないのは今更でしょ?」


 なるほど、カリナさんでもレアさんはそういう認識なんだ。


「ほらほら、お昼にするわよ。今日もハルさんが持ってきてくれたんだから!」


 降りなさいとレアさんを促す。

 先に私が降りて、レアさんも後に続いた。

 少し、顔が赤いが泣いてたわけじゃないよね?

 トランプで負けて泣くほど悔しいとかじゃないよね?


 今日のお昼は昨日ほど手が込んだものじゃなくて、食パンで作ったサンドイッチだったんだけど、それでも十分だったらしい。


「こんなに美味しいパンは食べたことがない!」


 ちょっと心配だったレアさんだけど、私が持ってきたお昼ごはんを一口食べるとすぐに回復していた。

 すぐにサンドイッチはなくなってしまった。



 レアさんは何事もなかったように午後は馬車の運転手についていた。

 私はというと、


「ポーカーというゲームをやりましょう!」


「ポーカー?」


 レアさんとの対戦を経て、ババ抜きは駄目だという結論に達したので、二人では絶対にやらないことにした。

 それの代わりがポーカーだ。

 ポーカーは簡単に言うと、配られたカードを元にしてカード捨てたり引いたりして特定の役、組み合わせを作るゲームだ。

 揃えるのが難しいほど強い役になる。

 二人ババ抜きよりも複雑だけど、運要素は減る……はず?


 ルールは昨日調べたやつ。

 本格的なやつだと、場を取り仕切る人がいたり、何かをかけたりするみたいだけど、それはしない。

 5枚から好きなだけ交換できるという単純なルールだ。

 初心者同士ということもあって、交換の回数は3回までとした。

 正直、結構役揃うかな? と思ってたんだけど、意外と揃わないものだね。


 最初は私の勝ちが続いたけれども、役を覚えたカリナさんは結構強かった。

 私も頑張って負けたり、勝ったりを繰り返すことになった。

 白中した対戦で二人で盛り上がった。


 気がつけば一日の移動時間が終わっていた。

 ぜひこれもレアさんとやろう。

 流石に、これなら私も勝ちっ放しってことはない……よね?


 あ、でも、明日で到着なんだっけ?

 長い道のりに感じたけど、意外と早い気もしたね。

 大きな街。どんなところだろうね?


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