第46話 卵焼きは砂糖派
「お二人共、こちらも食べてみませんか?」
頃合いを見て、二人に声をかけた。
「あ、ああ」
「はい」
二人はやっとおにぎりから目を話し、おかずに目を向けてくれた。
「こちらは、色々な種類のおかずです。どれも美味しいですよ」
「見るからに美味しそうだ」
「匂いだけでも美味しそうです……」
二人も釘付けになるが、なぜか手を伸ばさない。
「どうやって食べればいいのだ? フォークもスプーンも見当たらないが」
おっと、忘れてた。
確かにおにぎりと違って手で食べるわけにはいかないよね。
昨日ミドリから預かったお箸を複製して渡す。
多分、使い方わからないだろうから説明もしないとね。
「こちらはお箸というものです。こんな感じで挟んで使います」
ヒョイッと唐揚げ一つをつまんで口に入れる。
相変わらず美味しい。
醤油の甘みとにんにく、複雑な味が上げた鶏肉のジューシーさにマッチしている。
ちなみに、レモンはかかっていない。
「お二人もどうぞ」
二人共受け取ったお箸を手で持つ。
というところまではできたが、
「ぬぅ、はさむ? どうすれば……」
「複雑な食器ですね……」
お箸を握ったりしてしまっている。お箸の持ち方がわからない感じだね。
うーん、たしかにお箸を初めて持つのって結構難しいよね。
でも、残念ながらスプーンもフォークもない。
ミドリ曰く、「日本食はお箸!」とのこと。
だから、私が頑張って指導するしかない。
「えっと、私の真似をして持ってみてください。まず、手を握って、それから親指、人差し指、中指を立てます」
「こんな感じか?」
レアさんが指示通りに手を動かす。
「です。その状態で親指と人差し指でお箸を両方はさみます」
「できました」
カリナさんも同じように動いてくれる。
「次に薬指と小指を少し緩めて、お箸に当ててください。薬指にお箸を縦に乗せる感じです」
「縦に……乗せ……たぞ」
ちょっと指が動かしづらいみたいだけど、ちゃんと真似できている。
「お上手です。次に二本のお箸の間に中指を少し入れます」
「こうでしょうか?」
「あ、平行じゃなくてお箸の先を開く感じで……、あ、それで大丈夫です」
これで握り方はおおよそ完成。
「最後に人差し指を曲げて、上から押すようにしてください。この時、中指を少し抜く感じで動かします」
「……おお、先が挟まったぞ!」
ハサミもこれで完成。
「開く時は、中指をまた2つの中に入れる感じにします」
「開きました!」
スムーズとは言わないけれど、開いたり閉じたりできている。
二人共ちゃんとできてる。結構器用だね。
これでも、普段指先動かしてない人だと結構苦労するんだけど。
実際、同じやり方でカナが小さい頃に教えた時は結構苦労したよ。
形はできるんだけど、人差し指と中指を同時に動かしたりとか細かな指の動きが難しいんだよね。
「慣れれば無意識でつまんだりできますよ」
言いながら、私はパチパチとお箸を動かす。
「おお、何やらハサミみたいだな……」
「ですね。二本の棒なのに一つの物みたいです」
当然だけど、私は安定している。
「お二人ならすぐに慣れますよ。さぁ、どうぞ」
二人はおかずに向かってお箸を伸ばす。
カリナさんは器用につまむことができたが、レアさんの方は苦戦している様子だ。
カリナさんは、私と同じように唐揚げをつまみ、それを口に運んだ。
途端、目の色が変わった。
「これは! お肉ですね! 食べたことのない味付けです!」
「鶏肉に味付けをして、衣をつけて油で揚げたものですね」
「油を使った料理は食べたことがありますけど、もっとギトギトしていました!」
油でギトギトの食べ物……身体に悪そう。
でも、油使った料理はあるんだね。
「やっとつまめたぞ!」
レアさんもようやくつまめた様子。
つまんだのはアスパラベーコン巻きだった。
丸いから苦労したとかかな?
レアさんは落とさないように慎重に口に運ぶ。
「!? こちらも肉か! しかし、干し肉とは明らかに味が違う!」
ベーコンも確か干し肉の一種だっけ?
流石に、ミドリもベーコン自作したわけじゃないと思うけど。
でも、こっちの干し肉と違って、ただ干すのじゃなくて燻製とかされているから、香りなんかがしっかりしているはず。
味って匂いが大事だって聞くしね。
「巻かれている野菜も見たことがないが、みずみずしいな。肉の塩気と合っていて2つ目も食べたくなる」
レアさんは2つ目にも手をのばす。
が、またしてもうまくつまめない様子。
ちょっとかわいそうになってきたね。
「まぁ、どうしても取れない時は刺しちゃって大丈夫ですよ」
プスっと卵焼きにお箸を刺して口に運ぶ。
出汁の味がする本格的なやつだ。
そして甘い。さすがミドリ、私の好みをよくわかってる。
卵は甘い方が好きだ。
その様子を見ていたレアさんだったが、
「いや、この食器の使い方をマスターしてみせる!」
と意気込んで頑張っていた。
その横でもうすっかり慣れた様子でお箸を使うカリナさん。
卵焼きを食べて目をつぶっている。
口元笑っているし、味を噛み締めてる感じかな?
そして、無言でまた別の物に手を伸ばす。
ご満足いただけているようで何よりです。
おっと、私も食べないとなくなっちゃうね。
おかずとおにぎりをバランス良く食べないとね。
それにしても唐揚げ美味しい。
これなら何個でも食べられるね。
「うぐぅ……、……! つまめたっ!? ……落とした……」
頑張れレアさん、そうそうにあきらめて刺した方がいいよ。
食事はマナーも大事だけど、楽しむことのほうが美味しいからね。
おにぎりもおかずも食べ終わった。
最後は締めのデザートだ。
「デザートは、果物の詰め合わせです」
あ、デザートをお箸じゃあんまりよくないかな?
って思ったら、爪楊枝刺さってるやつがあるね。
「この爪楊枝を使って食べてください」
私は、爪楊枝の刺さったうさぎりんごを口に運ぶ。
味はいたって普通のりんごだね。
「見たことのない果物だが……これは?」
レアさんが、爪楊枝を口に運ぶ。
「うむ。美味しい。これはなんという果物なのだ?」
「それは、バナナですね。あ、爪楊枝ごと食べないでくださいね」
何故か危険な香りがしたので、慌てて注意する。
私が普通はやらないと思ってることでも、こっちの人はやっちゃうかもしれないしね。
「こちらはなんですか?」
「それは……スイカですね」
スイカは果物?
争いになりそうだけど、個人的には個人的な定義では野菜だ。
こう、ざっくり木になるのが果物、地面が野菜のイメージだ。
まぁ、人によって違うだろうけど。
というか、今は春のはずなんだけど、どこからスイカなんて手に入れたんだろうね
デザートは特に味付けもないので素材そのままの味だ。
しかし、
「これはりんごじゃないか? こんなに甘いりんごは初めてだ!」
どうやら、こちらの世界にもりんごはあるらしいけど、どうやら味が違うらしい。
「しかも、うさぎの形をしています! 可愛らしい……」
りんごの形も好評だ。
子供向けのイメージだけど、大人っぽいカリナさんが喜んでるのはちょっと意外だね。
ともかく、二人共、デザートまで全部満喫したようだ。
レアさんは満足したように、お腹をさすっている。
「ハル殿、ありがとうすべて美味しかったぞ」
「喜んでいただけたようで良かったです」
ミドリに押し付けられたのもあるけれど、これだけ喜んでくれたなら持ってきてよかったね。
「しかし、ハルさん料理上手なんですね。これほどまでの料理食べたことありませんでした」
「あ、いえ、私が作ったわけではなく……」
「そうなんですか? ではどなたが?」
……まずい。やってしまった。
地球にいる知り合いが作りました、とか言えないし。
まぁ、嘘のない範囲でごまかすしかないよね。
「拠点があるという話をしたと思いますが、そこでお世話になっている方からいただきました」
「そんな方がおられるんですね。ぜひ一度お会いしてみたいですね」
「そうだな。アレ程の料理を作れるのだ。どこかの貴族のお抱えでもおかしくないぞ」
ミドリが貴族のお抱えね。ちょっと笑ってしまうね。
普通の商店街のレストランの娘です。って言いたいくらい。
でも、会ってみたいとか困るなぁ。
「いえ、ちょっと会うのは難しいですね」
「そうなのですか? まぁ、あの森にいるくらいですし。世論とは離れたお方なのでしょう」
「うむ。世を忍ぶ天才料理人か。かっこいいではないか」
ミドリがなんか凄いものに認定されているね……
本人に話したらどんな反応するだろうね。
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