第45話 おにぎり

 無理やり布団を収納したことでカリナさんとレアさんは馬車から降りてきた。

 若干、気分が抜けきれていない感じもするけど、それはそれとして昼休憩だ。


 そして私が二人を引っ張り出した理由も昼休憩にある。

 火を起こして、スープを作ろうとするカリナさん。それを止める。


「実はこんなものを作ってきまして……」


 指輪から昨日ミドリに押し付けられた重箱を取り出す。


「これはなんだ? 箱?」


「のようですが、中身は?」


「まぁまぁ、お二人ともお座りください」


 二人は興味津々といった様子で箱を眺めている。

 そのままでは重箱をひっくり返しそうだったので、促して座らせた。

 車座になって重箱を囲む。

 由緒正しきピクニックスタイルだね。


「では、開けます」


 実は昨日たべてるはずなんんだけど、それでもちょっとワクワクしてる。

 こう、外で食べるお弁当ってなんでこんな楽しいんだろうね。

 まだ、食べてないけど。


 3段もある重箱の蓋を開けると、まず目に飛び込んできたのは見慣れた白と黒だった。

 ほう? 一段目は主食か。


「ハル殿? これは?」


「白い粒を黒いもので巻いているのですか?」


 二人はやはりというべきか、なんなのかわかっていない様子。


「これは、おにぎりという食べ物です。白いのがお米、黒い巻いてあるものが海苔ですね」


「食べ物なのか? ……どちらも聞いたことのないものだな」


「私もです。この奇妙な黒い紙が食べられるんですか?」


 どうやら食材として認識できていないみたいだ。

 そういえば、地球でも海外だと海苔はあまり好かれないみたいな話を聞いたことがある気がする。

 寿司によって改善はされてきているってテレビでは言ってたけど。


「どちらも美味しい食べ物ですよ。私が保証します」


「ハル殿がそういうのならば……」


 若干おっかなびっくりではあるが、食べ物だと信じてくれた様子。

 さて、まだ終わりではない。

 私は続けて二段目を取り出す。


「おおっ! 今度は色鮮やかだな!」


「ほんと綺麗です!」


 二段目は、おかずで構成されていた。

 定番の唐揚げ、卵焼きを始めとして、ミニトマト、アスパラベーコン巻き。

 ミニハンバーグ、そしてタコさんウィンナー。

 これピクニックというか、完全に子供の運動会だよね。


「なんだこの匂い!?」


「見てるだけでお腹が減ってきます!」


 今度は説明せずとも食べ物だと認識できた様子。

 しかし、二人の顔から興奮が隠せない。

 今にも飛びつきそうな感じだ。


 お弁当特有の混ざったいい匂いがしてくる。

 二人じゃないけど、お腹がすく匂いだね。

 私もよだれがたれてきちゃいそうだ。


 だが、これでは終わらない。


「三段目です」


 三段目も開けにかかる。

 主食、おかずと来たら最後は……


「おおっ! これは果物か!?」


「見たこともないのもありますね」


 三段目はデザート。

 果物の詰め合わせだけど、いろんな果物が入っていて色とりどりで綺麗だ。

 パット見、イチゴとミカン、バナナとブドウにマスカット、スイカ、メロンもある?

 あ、りんごがうさぎになってる。


 改めて3段すべてを見てみる。

 こだわりが凄い、ミドリが楽しく作ったんだろうなぁというのがこれだけでも伝わってくるね。

 そして、これかなりの金額かかってそうだよね……

 あとでもうちょっとお礼しておかないと。


「こ、これは、全て食べ物だと……?」


「はい。干し肉とスープだけではちょっと寂しかったので。持ってきました」


 私が作ったわけじゃないけどね。

 あ、そうそう、忘れるところだった。


「飲み物もありますよ」


 ミドリから出掛けに渡された水筒。


「カリナさん、コップいただけますか?」


「あ、はい。どうぞ」


 カリナさんからコップを受け取って、麦茶を入れて二人に渡した。


「これはなんだ?」


「えっと、麦茶っていう飲み物です」


 ミドリからは麦茶だと聞いていた。


「麦のお茶? 紅茶ではなくか?」


 あ、紅茶はあるんだ。


「はい。外で食べるにはこの方がいいらしいので」


 いいらしいというか、なんとなく定番だよね。

 外のお弁当のお供と言えば、麦茶のイメージだ。


「それじゃあ、いただきましょうか」


「「はい!」」


 では。


「いただきます」


「「感謝を!」」


 言葉が重なったけど、見事に違うことを言っていた。

 まぁ、きっと同じような意味だろう。

 突っ込まないぞ。

 というか、突っ込める空気じゃない。

 二人の目がお弁当に釘付けになっている。


 が、二人共手を伸ばさない。

 どうしたんだろう? と一瞬思ったけど、よく考えたら食べ方わからないかな。

 どうしようかな。

 うん。まずは主食からかな。


「えっと、こちらはこんなふうに手で持って、外側の包を取ります」


 おにぎりに手を伸ばし、説明しつつ、ラップを剥く。


「こう……か?」


 二人も私の真似をしてラップを剥く。


「はい。そうして、かぶりつきます」


 ガブっと音はしないけど、わかりやすいように口を大きく開けてかぶりつく。

 白米と塩の味。

 そして、この味は……


「うまいっ!!」


「美味しい!!」


 二人が同時に声を上げた。


「絶妙な塩気が、この白い粒粒の甘さとマッチしていて絶妙な美味しさ!」


「それだけじゃないぞ! 中に何か入っている!」


「えっ? ほんと!? ……酸っぱい!?」


「うん? 酸っぱさは感じないが……、これは魚か?」


「っ!? 魚じゃないでしょ、この酸っぱさ。でもなぜかしら、凄い病みつきになるわ!?」


 おにぎりを食べる二人が興奮しつつ話している。

 会話が早すぎてなかなか割り込めない。


「!? もしや、中身が違うのか? ハル殿!?」


 そういうことか!? と凄い勢いで私に目が向いた。

 目が血走ってて若干怖い。


「え、ええ。いくつか種類がありますね。レアさんのが鮭という魚、カリナさんは梅干しですね」


 ちなみに、私は鮭だった。


「なるほど! ではこれはなんだ!?」


「わ、私もお魚食べたいです!」


 二人は凄い勢いで次のおにぎりに手を伸ばす。


「種類は5種類のはずです」


 具の種類は鮭、梅干し、おかか、明太子にツナマヨだ。

 と、二人共聞いていないね。食べるのに夢中だ。


 私も……って、えっ? これイクラだ。

 私の好物。昨日はなかったはずだけど、ミドリが特別に用意してくれたのかな?

 ほんとミドリには感謝しかないね。


 でも、まだまだ、おかず残っているんだけど。

 先におにぎりだけなくなっちゃいそうな勢いだね。

 とりあえず、頃合いを見て次のおかず勧めた方が良さそうだ。


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