第44話 ふかふか布団
「おはようございます」
地球から異世界へと戻り、複製の魔法を使って無事にレアさん達の元に移動できた。
レアさんたちは既に出発の準備を終えている様子だった。
「やぁ、おはよう。遅かったな」
少し早めに来たつもりだったんだけど、それでも遅かったかな?
私の声を聞いたレアさんは返事を返してくれる。
まぁ、その方向が間違っているのはご愛嬌だ。
早速、魔力付与ポーションを渡して見えるように。
これ毎日やるの意外とめんどくさいね。
同じ効果を持ったアクセサリーとか作れないもんかね?
「それじゃあ早速出発しましょうか」
「はい」
今日も始めはカリナさんが、運転手役となっている。
馬車の中には私とレアさんの二人きりだ。
そして相変わらず揺れが酷い。
でも、今日の私には秘策がある。
広さ的には思ったよりギリギリかな?
少なくとも敷布団はちょっと厳しいか。
掛け布団を折り曲げて椅子の上に設置で行こう。
指輪から掛け布団を出す。
「は、ハル殿!? いったい何を!?」
忘れてたわけじゃないけど、目の前のレアさんが驚いている。
「そんな大きな物どこから出したんだ!? そしてそれは何だ!?」
「えっと、物をしまったり出したりできるアーティファクトから出しました」
これです、と指輪を指し示す。
「そんなアーティファクトが!?」
自分で言っておいてなんだけど、これこそがほんとにアーティファクトだよね。
まったく再現できる気がしない。
「そういえば、以前、シャドウウルフを消したり出したりしてたのは、そのアーティファクトを使ったのか?」
「あ、はい。そうですね」
そっか、あの時はまだ魔力付与ポーションで私の姿が見えなかったから何をしているかわからなかったのか。
目の前で指輪から物を出したのは初めてになるんだね。
「そして、これはこう使います」
布団は地球から持ってきたと言いそうになったが、言うわけにはいかないので、早速設置していくことに。
「こうして折りたたんでお尻の下に置きます」
レアさんは指輪にまだ混乱しているのか口を挟まずに私を見ている。
その方が都合がいいので、淡々と続ける。
「そして、その上に私が座ります」
ポスっと布団の上に座る。
揺れは……、うーん、思ったほど劇的な改善ではないけれども。
良くはなっているね。
ダイレクトに振動来なくなっただけで十分だね。
「ハル殿……? それは……?」
レアさんは落ち着いたのか落ち着いていないのか、困惑した目で私を見ている。
少なくともアーティファクトのショックからは開放された様子。
「これは、クッションの代わりの布団です」
「布団……?」
あれ? 布団ってないんだっけ?
「いや、布団はあるが、そんな分厚いものではない」
聞けば、この世界のベッド事情は想像していたよりも粗末なものだった。
干し草を入れたマットの上にシーツ、同じく藁を詰めた枕。
そして薄い布をかけて寝る。
一般層はこんな感じ。
そこに家族全員で寝るらしい。
貴族になると、天蓋付きになったり、掛け布に羊毛なんかを入れたりするらしい。
それでもこんなに分厚くないらしい。
貧乏人はマットもなしに、薄い敷布と掛け布のみらしい。
どう考えても固くて寒い。
「そんな分厚い掛け布は初めて見た。素材も全くわからないし」
まずい、この流れは……
「いったいどこか……」
「それはそうと、レアさんも座ってみませんか?」
どこから持ってきたとか聞かれたら困るので、話をそらす。
ほらっと、私は立って、レアさんに座るように促す。
それに押されたように、レアさんも私と位置を変わる。
「で、では、失礼して……、おっ!?」
座った瞬間、レアさんは驚きの声を上げる。
「どうですか?」
驚いている様子だが、嫌がっている感じではないので、気にせず聞いてみた。
「あ、ああ。身体がこんなに沈むとは……、あぁ……」
言いながら、座ったレアさんの身体がから力が抜けていく。
強張っていた肩が降りていく。
うん。その反応で十分だね。
「こ、これは快適……だ……」
単に布団に座っただけでこの反応。
もうちょっとちゃんとしたクッションとかだとどうなってたんだろうね?
すっかり極楽モードに入ってしまったレアさん。
そこ私の場所だったんだけど、とは今更言いづらい。
まぁ、いいか。同じようにこっち側にも用意すればいいだけだ。
複製の魔法を使って反対側に同じものを敷いて私も座る。
うん。やっぱり楽になるね。
こうして、休憩の時間が来るまでまったりと過ごすことができたよ。
「そろそろ休憩にするわよ」
休憩時間になって馬車が止まりカリナさんが馬車の中を覗き込んでくる。
中には布団の上に座ってぼーっとする私達。
正確には、私はすぐに立ち上がったけど、なかなか立ち上がらないレアさん。
「何してるの?」
不審な目をするカリナさん。
怪しげな表情をレアさんに向けている。
「さぁ、レアさん。休憩ですよ」
私はレアさんを促すが、なかなか立ち上がらない。
「レアさん?」
「も、もうちょっとだけ……」
そう言って顔を伏せる。
劇的な反応だね。
レアさんがここまで駄目になるとは……
「何があったんですか? それはいったい?」
カリナさんが困惑しながら私に聞いてくる。
布団の事を説明する。
「カリナも座ってみろ! これは凄いぞ!」
説明が終わると、レアさんがカリナさんの手を引っ張って中に引きずり込む。
入れ替わりに私は馬車から降りる。
ふーっ……
布団で楽にはなったけれど、やっぱり外のがいいね。
軽く伸びをした、その後、馬車の中を覗くと、中には顔が弛緩したカリナさん。
そして、前と同じ体勢に戻るレアさんがいた。
あー、カリナさんも駄目な様子か……
これは休憩どころじゃないかなぁ。
いや、ある意味休憩にはなっているけれども。
お昼休憩にはならないよね。
結局、無理やり私が指輪に収納するまで二人は馬車から降りてくることはなかった。
二人共真面目な人なんだけど、逆に駄目になっちゃってる感じね。
本当に人を駄目にするクッションとか、こたつとか持ってきたらどうなっちゃんだろうね。
怖いけど、ちょっと試したくなってしまうよ。
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