第42話 馬車の中で
馬車に揺られて道を行く。
窓から周りを見ると、何もない平野だ。
レアさん曰く村と街までの間は街道でつながっているらしく比較的安全らしい。
「街道は人が多く往来するからな。念入りに魔物討伐されている」
魔物も馬鹿じゃない。危険だと思えば寄ってこない、とのことだ。
なるほどね。
それじゃあ、道中で襲われることはないと思って良さそうだね。
まぁ、襲われてもレアさん達が討伐するだろうし、私の役目はないね。
ぼーっとしながら平原を眺める。
こんな何もないところ見たことないから逆に新鮮かも?
私の生まれたところだと、家ばっかりだったしね。
しかし、眺めることができたのは最初だけだった。
うん。気を紛らわすために外眺めて無視してたけど、もう無理だ。
「馬車ってこんなに揺れるの……」
車酔いするような体質ではないけれども、それでも酔そうになるくらいの視界のブレ。
幽霊だから痛みはないけれども、振動でひたすらゴトゴトしている。
「うん? 少し早くはあるが、街道だからまだそれほど揺れていないと思うが?」
私の言葉にレアさんが反応した。
えっ? これで揺れていない方なの? マジで?
自分でも思わず私らしくない反応をしてしまった。
レアさんは何事もないように、鎧の手入れなんかしてる。
その様子からするに、さっき言ってたことは本当なんだろう。
しかし、私はこの状態で5日間はちょっときついなぁ。
これを軽減する方法……クッションとか布団とか持ってきたい。
明日一旦帰ったら絶対持ってこよう。
「そんなにきついのか?」
私の様子を見ていたレアさんが声をかけてくれる。
ちなみに、出発直前に魔力付与ポーションを二人に渡していたので、私の姿が見えている状態だ。
私の顔がよほどきついそうに見えたのか、レアさんは大分心配している感じだ。
「うーん、幽霊なので痛みとかはないですが、こう視界がブレてフラフラする感じですね」
「なるほど。そういう時は、なるべく頭を動かさず遠くを見るといいぞ」
頭を動かさずって難しくない?
「まぁ、慣れだ」
さいですか。
「本当にきついならちょっと休むか? 幸い乗っているのは私達だけだしな」
提案はありがたいけれど、出発してから体感的にまだ1時間くらいしか経ってないんだよね。
しかも、このきつい状態での体感だから、もっと短い可能性が高い。
「いえ、流石にまだ大丈夫です」
5日での工程を考えるとここで休んでいるわけにはいかない。
「それよりも、こっちのこともうちょっと聞かせてもらえませんか?」
話を聞いて、話に集中すれば気が紛れるはずだ。
「こっちのこと?」
「あ、はい。私記憶ないので、この辺りのことレアさんから聞いた以外ほとんど知らないんです」
「なるほど、そういうことか。構わないぞ」
よし、これで時間が潰せる。
でも、何を聞いたものかな?
一番聞きたかった魔法に関しては聞いた。
こっちの地理に関しても、大雑把には聞いた。
あと必要なのなんだろう? ぱっと思いつかないけれど、普通の暮らしとかかな?
そうだなぁ。どうせだから冒険者についてとか聞いてみようか。
二人なら色々なところ行っているだろうし、そのエピーソードなんか聞けば色々と見えてくるかな?
うん。そうしよう。
「お二人冒険者ってことですが、今までに行った場所で何か凄いいことありましたか?」
「凄いこと……、そうだなぁ。ハル殿に出会ったのが一番だとは思うが……」
レアさんが遠い目をしつつ答える。
私の存在そんな特殊なんだなぁ……
「それ以外でお願いします。できれば人々の暮らしなんかが知れるエピソードがいいです」
「うーむ、人々の暮らしか……、だったら王都にいた時のことなんかどうだ?」
王都。
王国って言ってたし、それの中心かな? なんかいいエピソード聞けそう。
「ぜひお願いします!」
「わかった。じゃあ、まず……」
レアさんが話を始めた。
結論から言うとレアさんの話は大変興味深いものであった。
なにせ話題の幅が広いのだ。
王都での人々の暮らしっぷり、貴族間での裏話なんてものもあった。
この世界では当たり前の事かもしれないけれど、何も知らない私にとってはすべてが新鮮に思えた。
そうして話を聞いているうちにあっという間に時間は過ぎていき、お昼ということで休憩になった。
今日の工程の半分ということらしい。
お昼休憩をしたら、レアさんが運転手役に交代とのことなので、後半はカリナさんに色々と聞いてみようかな?
ちょっと馬車旅が楽しくなってきた。
でも、馬車から降りた時足が震えてしまって転びそうになってしまった。
身体はごまかせないね。身体ないけど。
お昼ごはん。
3人で馬車から降りてシートの上で円になって座る。
カリナさんが、袋からパンを取り出して渡してくれた。
干し肉はスープにするらしい。
曰く、そのままでは硬すぎて食べられたものではないとのこと。
焚き火を沸かして、上から吊るす式の鍋っぽいのをセットする。
これでお湯を沸かせるらしい。
キャンプ行ったことないけれど、今でもこういうのやってるのかな?
それとも、もっと進化してるのかな?
わからないけれど、こういう普段目にしない道具って見てて楽しいよね。
カリナさんが、テキパキとセットしていく。
あっという間に、スープが出来上がった。
「ハルさんどうぞ」
「ありがとうございます」
渡されたスープは具が干し肉だけのシンプルなものだった。
「ではいただきましょうか」
カリナさんが言って食べ始める。
まず、パンを一口。
……一口。
噛めない……噛み切れない。
えっ? これ噛みちぎれるの?
二人を見ると、パンをスープにひたして食べている。
あー、なるほどそういうふうに食べるのね。
真似をしてスープにつけてもう一度一口。
今度は一口できた。
でも、味がない。いや、ないわけじゃないけど、なんだろう?
小麦粉の味?
小麦粉の塊を塩味のスープにつけて食べた感じ。
そのまんまだけど。
でも、そのくらい言うことがない。
そしてスープの干し肉も一口。
硬い。けど、パンほどじゃない。
味は……、うん。素材の味ってやつだね。
もう一度二人をみると、何もおかしいことはないと普通に食べている。
これがこの世界の一般的な食事らしい。
うん。わかった。
前にミドリが異世界での日本食の優位性について熱弁してたけど、こういうことか。
きっと異世界に行った先人(ミドリ談)って人たちもこんな気持だったんだろうね。
少なくとも、この食事、もう一回はいらないかなぁ。
明日からは私が用意した方が良さそうだ。
食事に耐えられないってのは致命的だもんね。
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