第41話 動物は敏感

「お待たせしました」


 村に移動すると、レアさんとカリナさんは宿屋の前で待っていてくれた。

 何やら二人共大きな袋みたいのを担いでいる。

 念話の魔石を使って話しかけた。


「やぁ、こんにちは。見えないけれど、近くにはいるんだよね?」


 レアさんは気軽に話しかけてくれたけれども、カリナさんは顔が強張っている。


「や、やはり慣れませんね。見えない人に話しかけられるというのは……」


 そうか、時間的にはもう昨日渡したポーションの効果は切れちゃっているのか。

 でも、流石に人の往来の中で渡すわけにもいかない。


「後でまたポーションをお渡ししますので、それまでお待ち下さい」


 私の言葉にカリナさんは安心したように頷いてくれた。


「それで、もう出発で大丈夫なんですか?」


 二人で待っていてくれたようだけど、ひょっとして私待ちだったのかな?


「ああ、村を出たところに馬車を待たせてある」


 私達と合流して出発の予定だそうだ。


「ハルどのは大丈夫なのか?」


「私の方は特に問題ありません」


「それじゃあ出発しようか」


「はい」


 私達は一緒に村の外、森側の方とは逆に向かう。



 村を出ると、そこには馬車と一人の男性が待っていた。

 馬車初めて見るけど、馬がこんなでっかい乗り物引っ張れるんだから凄いよね。


 レアさん、カリナさんは男性と話をしている。

 何言っているかわからないし、話にもついていけそうにないから、私は馬の方を見ることにする。

 あれ? ひょっとして馬自体も初めて見る?

 いや、小学校で動物園見学行ってるから初めてではないかな。

 こんなに間近で見るのは初めてだけど。


 手の届かないギリギリの範囲で眺めてみる。

 もうちょっと近寄りたいけど、ちょっと怖い。

 うん? でも、ひょっとして向こうからしたら触れないし見えない?

 現に近寄っても何の反応もない。

 無視されてるだけかもだけど。


 手を伸ばしてみる。触ろうとした瞬間。


「ヒヒーンっ!?」


「うわっ!?」


 急に馬が嘶いた。

 びっくりして後ずさりをしてしまった。


 馬が私を避けるように逃げる、が、紐で繋がれていて一定以上離れられない様子。

 レアさんと話していた男性が慌てて寄ってくる。

 馬を落ち着かせようと頑張っているような感じだ。


「ハル殿、何かしたのか?」


 男性の様子を見ていたレアさんが話しかけてきた。


「単に触ろうとしただけなんだけど……」


 それ以外特に何もしてないし、思い当たる節はない。

 レアさんも「そうか……」と言ってそれ以上何も言ってこなかった。


 男性が馬をなだめているけれど、落ち着く様子はない。

 でも、困ったなぁ。

 落ち着いてくれないと出かけられないんだけど、なんとかならないかな?


 馬は凄い興奮……、というかパニック状態?

 私のせい? じゃないよね?

 触ろうとしただけなんだけど。

 でもタイミング的にはそれしか考えられない?

 だったら私が距離を取ればいいのかな?


 いや、でも結局私も馬車に乗っていくことになるし慣れさせないと駄目だよね。

 うん。きっと幽霊っていう未知の存在に遭遇してびっくりしてるんだろう。

 動物って敏感だって話し聞いたことあるし、そういうの感じ取れたんだろうねきっと。


 となると、なんとかしないといけない。

 ここは敵意はないと証明すべきだね。

 撫でればいいかな?


 未だに逃げようと必死な馬に近づくのはちょっと怖いけれど、勇気を出して近寄る。

 さっきと同じ距離まで近づき、今度こそ触る。

 触るまで必死で逃げようとしていた馬だけど、私が触った瞬間動かなくなった。

 敵意がないことが伝わったのかな?


 ……いや、この様子は諦めただけだね。

 馬の表情とかわからないけれど、触られたのをなかったようにするように頑張っている感じだ。

 馬に怯えられるとか微妙にショックなんだけど。

 まぁ、おとなしくなってくれるに越したことはないからいいとしよう。



 男性は不思議そうに首をかしげているけれど、レアさんと何事かを話して去っていった。

 てっきり、馬車の運転手? みたいな感じで一緒なのかと思ったけど違うらしい。


「二人共、御者できるからな。交代交代でやっていくつもりだ」


「それに、私達は冒険者だから魔物も怖くないですからね」


 どうやら大きな街までの旅は3人でという様子。

 他の誰かがいると話しづらいから私としてはこの方が助かるけど。

 ひょっとして気を使ってくれたとかかな?

 うん。なんかそんな感じだね。ありがたい。


「さて、荷物を積んで出かけるとしようか」


 二人は担いでいた袋を馬車に乗せる。

 聞いてみると、食料とのこと。

 あー、そういえば、私は必要ないけれど、普通は道中の食事の準備とか必要だよね。

 馬車で5日って言ってたっけ? 考えてみれば結構な日数だね。


「ハル殿の分も用意したぞ」


「私、幽霊だからお腹すかないよ?」


「あ、あー、そういえばそうか。そうするとハル殿の分は余ってしまうな……」


 ありがたいことに私の分も用意されていたらしい。

 でも、私が食べないとなると、その分が腐ってしまうとのこと。

 もったいない。貧乏人特有のもったいない精神が発動してしまうね。


「食べれないわけじゃないし、腐るぐらいなら食べるよ」


 栄養的には必要ないけれど、こっちの食事気になるしね。


「そうか、なら食事は一緒に取るとしよう」


 いたって普通のパンと干し肉だがな。とレアさんは笑う。

 パンは想像つくけれど干し肉は気になるね。

 何にせよ楽しみにしておこう。



「さて、それじゃあ、ノルディックへ向けて出発しましょうか」


 カリナさんが、馬に乗りながら言う。

 どうやら、始めはカリナさんが運転手をするらしい。

 途中で交代するとのこと。

 私は運転できないし、乗っていて構わないらしい。

 ほんとお手数かけますね。


 せめてレアさんが退屈しないように相手をさせてもらうとしようかな。


「5日間お世話になります!」


「ああ、よろしく頼む」


 私の言葉にレアさんが笑顔で答えてくれた。



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